答え:近くて見えぬは睫なら
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
ん。
誰かの話し声。
「それは悪かった。ただ・・・。いや悪かったと思ってる。」
「悩んでることを責めてるわけじゃない。それならそれで、僕でもアンジェラさんでもいいから、とにかく連絡を――」
和と尚弥の声が、ぼんやり耳に届く。
「ごめん。うるさかったよね。」
薄暗い。
小さな明かりの中で、ナオの顔が視界に入った。
顔に上げた左手は、包帯が巻かれている。
「…ん。和が帰ってきたのか。」
「今帰った。大丈夫か?」
「…問題ない。」
和と尚弥の声以外、部屋は静まり返っていた。
頭の上に見える窓の外は真っ暗。
どうやら今は夜中らしい。
体の状況は、目で一つ一つ見ないと確認のしようがないけれど、ナオがいるから大丈夫か。
それより、まずは――
「アリス達は?」
「寝てるよ。まだ真夜中だよ。」
ここは、三階か。
暗い明かりの中、左下に台所が見えた。
今は和室の角にある小さな明かりだけ。
「怪我は?」
「日向と秀人は少し擦り傷があっただけ。アリスさんは疲労してたけど、すぐ休んで貰ったし、明日の朝にもう一度診るよ。」
この状況から見ても、怪我をしたのは私だけということか。
「…ん。ありがとう。」
「玄関もそのまんまで、一体何があったんだ?」
布団の足元側から、和が様子を窺うように顔を出した。
とはいえ、私もちゃんとした状況は聞けてないままだから、答えようがないのだけれど。
帰ってきたばかりの和には、少しでも分かる範囲で説明をした方がいいだろう。
「…私の分かっている範囲にはなるけれど、夕方会社から出て――」
「スズ待って。和。明日にしよう。スズはまだ寝てた方が良い。」
「っ・・・。悪い。帰ってきたばかりで、状況が掴めなくて。」
和が立ち上がる。
「いや…問題ないよ。少し下で話そうか。」
布団から体を起こそうとして、尚弥に止められる。
「待て待って。ダメ。ドクターストップ。」
「悪かった。明日でいい。」
薄暗い灯りは、立ち上がった和の表情までは照らしてくれなかった。
それでも、声がどこか焦って聞こえる。
「和。」
「いいって言ってるだろ。尚弥の言う通り寝てろ!」
離れていく姿を、なんとなく視線だけ追いかけた。
「もー。大声出さないでよ。」
「・・・悪かった。」
和は階段を上がって行く。
「・・・はぁ。本当に二人ともどうしたの?ひとまずスズは横になって。」
尚弥も眠そうな顔。
寝ていたところに、和が帰ってきたのだろうか。
「いや。特には。」
「さすがに無理があると思うよ。痛いところはある?」
これもどう説明するべきだろうか。
ひとまずそれが答えられない理由として、感覚が無いことを伝えるしかない。
尚弥は、先日から違和感があるとは言っていた。
だからか、大きく驚きはしなかった。
代わりに、深いため息を吐いた。
「・・・はぁぁぁぁぁぁぁ・・・・あー・・・なるほどね。それで喧嘩になったと。」
「喧嘩になるほどの言い争いはしてないけれど、困らせたとは思う。」
「寝てたから、勝手に一通り確認はしたけれど、本人も気がつけないんじゃ。明日もう一度確認だねぇ。」
「ごめん。」
尚弥は角にある明かりを消し、隣の布団に潜り込んだ。
「スズ・・・。和が、このまま出て行ってもいいの?」
「それが和の判断なら。」
「どうだかねー。スズはそれでいいの?」
「私は和の判断に任せる。」
それを止める理由はない。
「・・・スズ。止めるって選択肢だってあるんだよ?」
「止める理由が無い。」
尚弥のため息が聞こえる。
「本当に?本当にスズはそれでいいの?」
「危険な選択ではない以上、人の選択に口を挟むつもりはないよ。」
「和がそれを望んでいなくても?」
「…望んでいない選択なら、考える時間が必要だろう。」
個人の迷いがあるのなら、それは本人にしか答えは分からない。
手伝えるなら、手を貸すこともできるけれど、それを望んでいないのであれば、時間に任せるしかない。
「それは、確かに和に聞かないと分からないだろうけれど、多分スズにしか手伝えないことだよ。」
「…私は、今和に手を貸すべきことが何なのかよく分かってない。」
そもそも、今の和に手を貸すべきなのかどうかも。
「スズが、和が出て行くことをどう思ってるか、伝えてみたら分かるかもよ?」
和が出て行くことをどう思ってる?
私が?
どう思ってるんだろうか。
彼が次に進もうとすることは、良いことだと思う。
クラーレンのように、人から外れて永遠を望む選択よりも遥かに。
魔法使いとして有能な和なら、魔法世界の未来に向けた新たな一歩を進んでいく上で、望まれる立場は数多くあるだろう。
それは多くの魔法使いも認めている。
それでも。
和が、あの時。
思い出で終わる気もないと言った時――私は、どう思ったんだろうか。
あれも和の一つの選択だった。
寝息が聞こえてきた。
考え込んでいたら、ナオは寝入ったようだ。
ここ数日、時間はあったはずなのに、どこかゆっくり考えられなかった。
その間も、精霊の世界にアリスと和が連れて行かれたり、今日もリュースがちょっかい出してきたりと、落ち着かない状態が続いている。
怪異の世界のことも圭達に任せてしまっているし、どれもこれも中途半端になっていることは分かってる。
今の優先順位は、アリスの安全確保。
そして、できるだけ平行に、攫われた者達の確認。
地下については、美弥に圭達以外を入れないように頼んでおいたし。
ひとまず明日は、今日の襲撃についての話を聞いて、状況を整理するとして。
…だが、そこに和がいたら、和はおそらく出て行くかどうか、その選択を変える可能性がある。
何度進もうとしても、最後には同じ壁の前へ戻ってくる。
邪魔はしたくない。
もし隣にいなくても、大事な存在であることに変わりはないのだから。
–
四階へ向かう階段を上がると、個別部屋の扉が開いた。
不機嫌そうなアンジェラが顔を出す。
「…なんだい。遅いお帰りだねぇ。」
「悪かった。色々面倒かけた。」
「はぁ。日向達が、やっと泣き疲れて眠ったところなんだ。上で少し話そうかね。」
「いや、明日でいいだろ。お前も眠そうだ。」
明らかに眠そうなのは、どう見ても分かる。
朝が弱いアンジェラは、いつも凄まじく不機嫌に起きてくる。
「だから今言いたい事言うんだよ。寝たら忘れるからね。」
「・・・分かったよ。」
言い訳なのは分かってる。
怪異の世界では、息を吐く間もなく移動と交渉が続き、スマホを確認する余裕すらなかった。
俺が出かけることは、スズが勝手に予測していると思っていた。
だから、考えることを止めてしまっていた。
――それが、基本世界へ帰ってきた途端。
チャットには、『スズが帰ってこない』『魔法使いが来た』『スズが怪我してる』。
日向や秀人からの報告が、交差するように大量に流れていた。
その一部一部が理解できても、状況がまったく掴めなかった。
玄関には焦げ跡が残り、三階にも魔法の痕跡が残っていた。
階段裏の和室では、尚弥とスズが眠っている。
ひとまず落ち着いたのだと分かっても、それ以上のことは何も分からなかった。
「あんたも色々あったのは分かるけど、まず言いたいことは一つだよ。」
「ん。」
「あんたらしくないね。」
六階へ上がり、階段裏の空き部屋に入った途端、アンジェラが口を開いた。
「ここを空けるにしても、圭達を連れて行くんだから、いつものあんたならスズが帰ってくるのを待ってから、出掛けただろう?」
「・・・。」
その通りだな。
「それが何だい。子供みたいに、気まずくて顔を合わせたくないからって、戻ってくるのを確認もせずに出掛けたってのかい?」
「・・・そうなる。」
ぐうの音も出ない。
帰宅時間を見越して、スズと顔を合わせる前に出掛けた。
「それで最悪どうなるか。あんたなら言わなくても分かるだろう?」
そう。
勝手に、スズがいつも通り帰ってくると、仮定していた。
「悪かった。みんなが無事で良かったよ・・・。」
「運が良かっただけさ。私がただ偶然早めに戻って来ただけだよ。」
玄関や三階の跡からも、襲撃があった事は明らかだった。
そこにアンジェラが、早めに戻ってきてくれたのか。
「・・・助かったよ。本当にすまなかったと思ってる。」
「どうしたんだい?普段のあんたなら、こんなアホな真似絶対にしないだろう?」
落ち着いて考えれば、分かること。
同じことをした部下が入れば、俺も確実に叱っていただろう。
「そうだな。・・・よ――」
–考える余裕が無かった。
昨日、スズが言っていた言葉が蘇る。
「余裕がなかった・・・。」
スズにも余裕が無かった。
あの時、あいつはどんな表情をしてた?
あの言葉を聞いて、俺は逆上して詰めようとした。
そこを、アリスさんが止めに入ってくれた。
「そうだろうね。だけど、普段のあんたならそれでも割り切って、ちゃんと判断できることを私は知ってる。・・・スズのことかい?」
そう。
俺もそう思った。
余裕がない?
スズが、そんな曖昧な判断をするわけがないと思った。
だからあの言葉を聞いた瞬間、適当に誤魔化してきたのだと思った。
それで、無意識に逆上した。
あの時のスズの表情が思い出せない。
俺は、見てるようで、見ていなかった。
「・・・見る余裕が、無かった・・・。」
「はぁ・・・。あんたが全部悪いとは言わないよ。これまでちゃんとここを守ってきたのは、あんただからね。
それだけに、みんなあんたがいるだけで、どんだけ安心してると思ってんだい。」
「・・・いや、それは・・・。いや、ごめん。・・・何があったんだ?できれば聞かせて欲しい。」
自分が無責任だったことは、嫌になるほど理解していた。
日向達にも、アリスさん達にも迷惑をかけた。
スズとのいざこざは皆には関係ないのに、巻き込んでいることも自覚してる。
アンジェラは、相談所に来てからの状況を、だるそうに話し始めた。
魔法使いが襲ってきて、日向や秀人とイザベルさんが対応し、それを今は小屋にしまってあること。
その三人が抜けている間に、三階にいたアリスさんのところへ、ブライアンに操られた人間が接触したこと。
スズは恐らく別の襲撃を受けて、怪我して帰ってきたこと。
それを聞いて、改めて肝が冷えた。
死ぬ時は一瞬だというのに。
何してんだ・・・俺。
「あんたとスズがどうするかは、あんた達二人の問題だよ。それは日向達にも割り切るように言ってある。」
「・・・分かった。」
本当に、大怪我やそれこそ最悪が起こらなくて本当に良かった・・・
「でも、あんたがここに来た時のことを未だに覚えてるけど、ちょっと安定した位置で満足しているのは、あんたの方じゃないのかい?」
「・・・は?」
「その辺も尚弥からちょっと聞いたよ。私達が口を挟むことじゃないけど、私はどうせあんたはここを離れない気がするね。
結局それならそれで、周りを混乱させるんじゃないよ。まったく・・・。さて、私は寝るよーおやすみさん。」
「・・・・・・・・・・は?」
あの女。
本当に言いたい事だけ言って、戻って行きやがった。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




