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世界は誰の夢か  作者: 光幽 擬名
第二部 第四章 接触 × 価値観 境界の崩れ
167/201

答え:割り切れても、最後は紙一重

大まかに進めながら細かいことで追加していったりと

後からあれもこれもとなる事もありそうで

実際そんな事もないかもしれない。

そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので

あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。

体にあった小説をお選び下さい。

後悔をしても、もう遅い。


早く、あの地下の状況をどうにかするべきだった。


電車に乗り、“アリス達が地下で消えた”というメッセージを見た瞬間、頭の中がそれ一色に変わった。


電車を降り、急いで走った。

途中で人にぶつかり、何度か転んだ。

背後で何か声がしたが、振り返る余裕はなかった。

誰かの『大丈夫ですか』が背中を掠めた。


それでも、とにかく急いで相談所へ戻った。


玄関を開くと、ヒナとヒデ、そして奥にイザベルとルーナが立っていた。


「「スズ!!」」

「アリスと和が、地下で消えたという認識で間違いない?」


ヒナとヒデが心配そうに近寄ってくるけれど、それより先にイザベルが飛び出すように近づいた。


「ええ!そうよ!急にアリスが消えそうになって、そこにカイルが飛び込んできたと思ったら、二人とも私の目の前で消えたわ!」

「それはいつ?」


スマホからの通知は、ヒナとヒデからのメッセージ。

つまり、イザベルがそれに立ち会ってから、ヒナ達に伝えるまでに時間差がある。


「ええと・・・あ!夕方のチャイムが鳴る前だったわ。17時より少し前よ!」


それは、既に1時間が経過している。


「そこに精霊は一緒にいた?」

「分からないわ・・・でも!アリスがいるって言ってたからいたと思うわ!」


魔法によって距離制限があるイザベルが置いて行かれた。

二人が消えた場所も、もともと私の地下である以上、連れていかれた先は他世界である精霊の世界の可能性が高い。

他の要因は薄いとみていいだろう。


「いた。精霊がいた。白いのが。」


ルーナがイザベルの後ろから、静かに教えてくれた。


「分かった。助かる。」


ひとまず地下に降りよう。


階段裏に回り、地下への扉を開く。

同時に軽い声が耳に入った。


「へいへい。ちょっとお待ちなさいな。」


「…戻っておりましたか。」


扉をくぐると同時に、後ろから勘右エ門がついて来た。

しばらく相談所から姿を消していたから、気まぐれにどこかへ去って行ったと思っていた。


「いやぁちょっと空気が気まずくってね。ちょっと散歩に行ってただけだよ。」


いつもの軽い調子で、嫌味を乗せてきた。


「大変申し訳ございません。多少そういうやり取りもございますので。それよりも――」


階段を下りながら、話を進める。


「どれどれ。そこの妖精ちゃん。お話を聞かせてくれんかね?」


勘右エ門が近くの妖精に声をかける。

それにつられるように、近くの妖精達も次々と集まってきた。


【神様ー】

【神様だー】

【はーい!】

【なになにー?】


その声につられ、更に地下にいるほとんどの妖精が一気に集まってきた。


騒がしい勘右エ門の傍から離れ、階段を下りる。

デスクの上には、お盆に乗せられたタッパーが積み上がっていた。

和の作り置きだろう。


これを運ぶ為に、アリスと一緒に地下へ降りてきたのか?


「ここに、金髪の女の子と身長の高い男が来たと思うけど、何があったのかな?」


のらりくらりと話す勘右エ門の様子に、少し手に力が入る。


精霊は時として人間の肉体から魂をずらし、精霊の存在に近づけさせることがある。

和にも、そのことで何度か注意をしたことがある。


そして過去に、そうなった人間やエルフ達を見たこともある。

それは自身で望んでそうなった者もいれば、精霊の言葉に惑わされそのまま流されるようになった者もいた。


でも、今はその理由は問題じゃない。


一度精霊側へずらされた魂は、もう元の在り方には戻れない。


もう二度と、アリス・フォーラスと、カイル・ヴィンセントという本来の存在には戻れない。


更に手に力が入る。


バラバラに喋る妖精達の内容を、どうにかまとめる。

恐らくは、白い精霊がアリスの前に現れた。

それをすぐにアリスは嫌がるように階段を上り始めたけれど、精霊はそのまま話しかけ続けていた。


「その女の子は、精霊の世界に移動することをOKしたかい?」


【うーん?】

【OK?】

【いいよ。って?】


【言ってなかったよー】

【でも何か言ってた?】

【えっと、なんだっけー?】


【違うとかー】

【ただーとか、それだけーかな?】

【OKしてないー】

【いいよって言ってないー】


「ふむふむ。ありがとうねー。それでひとまず十分だ。」

「手をお借りして宜しいのでしょうか?」


勘右エ門は、階段を下りてこちらを向いた。


「お前だけ行っても、どうしようもないだろう?」


「…はい。お願い申し上げます。」


勘右エ門に向かって、頭を下げる。

平静を装っていても、指先の強張りだけはどうにもならなかった。

差し伸べられた手を、両手で取る。


何が代償になるかは分からない。

けれど、そんな交渉を一つずつゆっくり確かめている時間はない。


何が代償でも、無くなるよりはいい。


その考えが自然に浮かんだことに、違和感を覚える余裕すらなかった。

次の瞬間、体は意識ごと引っ張られた。


勘右エ門と移動した先には、クラーレンと白い精霊。

そして、その正面に和とアリスの姿が見えた。


二人の姿を見た瞬間、肺を締め付けていたものが僅かに緩んだ。


それでも、クラーレンが関わっているのが一目瞭然なその状況に、再び拳を握り、ほとんど睨みつけるように近づいた。

和の影でアリスが、気絶していると分かった瞬間。

踏み出そうとする私の肩を、勘右エ門が叩く。


≪まぁまぁ。落ち着きなさいな。≫


その声が無ければ、私はどうするつもりだったのだろうか。

クラーレンはいつものように、淡々とこちらに向けて話しかけてきていた気がするけれど、言葉が耳に入ってこない。


頭の中は、とにかくアリス達をこの場から離したい。


それだけ。


「・・・えと。ごめんなさい?」


――戻ってきた瞬間。


やっと手から力が抜けた気がした。


「怒ってないよ。大体の状況は妖精から聞いた。」


アリスが心配そうにこちらを見てきた。

その横で、和はあの時と同じ目をしている。


今回は、明らかに二人が悪いわけじゃない。

この環境をそのままにしていた私が悪い。


出そうになる溜息をこらえる。


「スズ。詳細が聞きたい。」

「先に上がった方が良い。イザベルが日向達に伝えて、私はその連絡を受けた。上でみんな心配してる。」


日向達にはろくに説明することもできずに、放っておいてしまっている。

恐らく、今も二人を心配して1階で待っている。


「…アリスさん、怪我は?」

「い、いえ!まったく!何も!大丈夫です。上がれます!」


アリスのそんな声を聞いて、改めて安心できた。


精霊の世界で、気を失ったアリスが目に入った時。

冷静ではなかった。


勘右エ門がいて助かった。


…とにかく良かった。


「それならアリスさん先に、上がって――」

「和も夕飯の時間だから、一緒に上がった方が良い。」


和がここに残ろうとする言葉を聞いて、無意識に口を挟んだ。

状況の説明は後ででもいい。

先に日向達を安心させるべきだろう。


多分、そう思ったんだと思う。


…いや、違うのかもしれない。


今、その目と向き合えない。

さっきまでとは違うざわつきが、胸の中で聞こえる。


「これは俺の優先順位だ。」

「今急いで話すべき内容じゃない。それよりも――」

「それを決めるのは俺の勝手だろ。」


和の声が少し大きく地下に響き、言葉が止まる。


何を言えばいいのか、分からない。

いや、状況を…ひとまず説明をするべきだろう。


分かっていることだけを、大雑把に口にする。


「クラーレンが引っかけたことが原因だろうけれど、精霊がちょっかい出してきただけだろう。」

「それを収めるのに、なんで勘右エ門さんが一緒に来た?」


それは、そもそも想定外ではあった。


でも、あの場に勘右エ門がいたから、すぐに迎えた。

最終的に問題が精霊側にあるのなら、その方が話も早い。


理屈としては間違っていないはずなのに、どうしてかその説明に自信が持てなかった。


「精霊のルールは上位精霊にしか管理できない。その干渉は勘右エ門に頼むのが早かった。」


違う。


分かってる。

すぐにでも迎えに行きたかった。

ただそれだけだった。


勘右エ門がいたのは、ただの偶然。


「その交換条件は?」

「まだ決めてない。」


それに飛び乗る以外の選択肢は、あの時の私には無かった。


他の方法?

なぜ目の前にすぐに迎えに行ける方法があるのに、他の方法を考える必要がある?


交換条件?

代償?


そんなものを検討する理由が見当たらなかった。

無くしたくないものがあった。


それだけ。


「は?どんなリスクかも分からないまま、先に進めたのか?」


それでも、和が言うことは正しい。

昔の私なら、そんな無謀な行動はしなかった。


……本当に?


状況が違う。

同じ過程と判断じゃない。

それなら、もう少し無難な説明くらいできるはずなのに、言葉が出てこなかった。


溜息をもう一度抑える。


「それをゆっくり決められる状況じゃなかった。」


思っていることが、上手く言葉にならない。


「っ!いや。それは分かってるけど、それでもいくつか提示候補を一つや二つ決めて――」


分かってる。


「考える余裕が無かった。」


和はただ心配をしているだけ。

だから、この言葉は間違えてる。


「な!」


それでも。


私には、できない。


できなかった。


私には、慎重にリスクを交渉して、自分を優先にする理由が見つからなかった。

向かった先で、和とアリスがいないその光景を見るくらいなら…


「だから、お前は!」


そんなリスクなんて、どうでもいい――


「和さん!!」


ここまで静かにしていたアリスが、急に大きな声を上げ、和の名を呼んだ。

その声に和が言葉を止めた。


これが間違いだとしても、私は再び同じことをする。

それは、あの通路にある橋を渡った時と同じ。


みんな、結果そのものだけじゃなくて、スズが一人で決めて先に行くことに困ってる。


…あぁそうか。


ナオの言っていることが、少しだけやっと理解できた気がする。


私にとっての途中は、もう結果なのだろう。

後からゆっくり選び直せる未来を、最初から想定していない。


だから、先に行っているつもりもなかった。


「…とにかく、上に上がった方が良い。今、これ以上話しても意味がない。」


私は選択を間違えた。

和には和の結果がある。


たとえ本人が望んだとしても、受け入れるべきことではなかった。

あのプラットフォームで、泣き叫んでいた子供のように、どんなに泣き叫んでいたとしても、その結果に向けて願うべきだったのだろう。


久しぶりに入った寝室。

ゆっくり足を進め、ベッドの上に体を投げた。


私はあの母親にはなりきれなかった。


中途半端に手をかけ、子供を惑わせ、今だけが少し楽になるような偽善をしていただけなのだろう。


冷たいはずのシーツ。

冷たいからこそ暖かさを求める。


でも、もうどちらを求めているのかも分からないのだから、今はただ目を閉じた。

もしもお時間があるようでしたら

一文二文、はたまた評価頂けたら

ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。

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