答え:相応に握れば拳、 開けば掌
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
「…はぁ。」
ミーティングを終え、肺の底に溜まっていた空気が静かに漏れた。
夕方に買い物から帰って、薫と話したことを思い出す。
同時に引き出しに目がいった。
中には、先日夜の商店街で買った櫛。
「昔、神への捧げものになったことがあるのかもしれないわね。」
遠い昔。
天災は神の怒りだとして、人は酒や米を捧げ、時には子供や女まで差し出したことがある。
薫の予想では、その時に捧げを受けた神が、今回の神道に近い存在か、あるいは本人である可能性が高く、捧げ物としての記憶回帰が混ざった結果、怪異世界で引っ張られたのではないかと。
とはいえ人間がそんな捧げ物をしていた時代は、あまりに遠過ぎる。
なったかどうかを覚えている訳もない。
それに今更それを思い出したところで、再び捧げ物として受け取られるのも困る話だ。
だが、それが通用する相手ではない。
けれど、ただ一方的に悪いだけの話でもないか。
加護として受け取れるなら、対応次第では対抗手段として残る。
悪魔との対立や、クラーレンの精神介入への備えになる可能性もある。
とはいえ、その都度何かを代償にしていては、この体は持たないだろう。
–カチャ
階段上の扉が開く音。
顔を上げると、和が階段を降りてきていた。
まるでこちらを観察するような視線。
夕飯の時間はとっくに過ぎている。
昼食時に、ナオに詮索されたことが頭をよぎる。
「どうしたの。」
「・・・俺が聞きたい。」
これは良くない流れ。
そもそも、長く隠し通せるとは思っていなかった。
「何を。」
「お前から話す事はないのか?」
昼食時ナオから、動きが気になると言われた。
今日、予想外の外出をすることになってしまったのは、かなりタイミングが悪かった。
まだ感覚がない状態での体の力加減に慣れていない。
そんな状態で長時間歩いたり、物を持ったりするには、かなり注意が必要だった。
もう少し慣れるまでは、正直地下からあまり出たくなかった。
そうすれば、もう少しは誤魔化せたはずだった。
まぁとはいえ、時間の問題であったことには変わりないか。
これを一から説明した場合、和が出す答えは予想ができる。
「生活に支障はない。和にはアリスの方にいて欲しい。」
「もうそれ、半ば答えだよな。」
和が、地下一階のフロアに立つ。
ここは良くない。
エルフ関連で妖精や精霊の手を借りている今。
ここは普段とは違う色々なモノが頻繁に出入りしている。
何が聞いているのか、あるいは見ているのか分からない。
「外に出て話そう。」
椅子から立ち上がる。
「待て。」
和の脇を横切って階段に向かったところで、腕を掴まれた。
「……。」
「・・・。」
沈黙が流れる。
「痛い。」
「違う。」
強く掴まれている前提で言ったけれど、外れた。
和は私の腕を離した。
「”強く”は掴んでない。」
「…説明する。とにかく外に出て話そう。」
階段を上がり、玄関をくぐる。
後ろからついて来た和が、玄関の扉を閉めたところで私は口を開いた。
春への変わり目の時期とはいえ、夜気はまだ冷たそうだ。
あまり長居をさせる訳にもいかないだろう。
まずは、妖怪の世界の出来事を始め、薫の予想までを手短に話した。
「・・・・・・。」
話している間、和は顔を地面に落としたまま聞いて、表情は見えない。
感覚は無いはずなのに、指先だけが、水に沈めたみたいに遠かった。
「・・・分かんねぇ。」
小さく呟く声を耳が拾った。
アスレチックに置いてある、木の壁に背中を預けた。
やっぱりカル達が言う通り、思ったよりまだ疲れていたのかもしれない。
でも、今はここで考えるのを止めたら、恐らく…何かの取り返しがつかない。
こういう感覚に頼るのは好きではないけれど。
和から視線を外せなかった。
「お前はどうしたいんだ・・・。俺はどうしたらいいんだよ。」
「……。」
言葉が出なかった。
和の声のトーンは、家族を失った時の話をしていた時に近い。
あの時と同じで、何かが手から零れそうな響き。
「・・・・ダメだな。」
何かを言うべき。
そう思ったけれど、何を言うべきなのか分からない。
「・・・・ちょっと、考える。」
「そう。」
それだけ。
それ以上も以下もない。
和は少し笑う。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
和は玄関を開いて、中へ入っていった。
すぐにはついて行けない。
玄関だけが、ぽっかり口を開けたまま残された。
分かっていたこと。
いずれこうなるなら、早い方がいいと思っていたはず。
それでも、実際に来ると少し違う。
「…これを待っていたはず。」
口から漏れた。
どこまで取り繕ったところで、結局先はないのだから、早いに越したことはない。
それでも少し近づき過ぎた代償を感じる。
冷たく感じる指先では、いつかの暖かさは思い出せない。
しばらくして、玄関へ入った。
地下に降り、いつものソファに潜る。
ソファの柔らかさ。
毛布の手触り。
外気で冷えた体温が、徐々に戻ってくる感覚。
そんな過去の感覚ばかり引き出しても意味がないのだから、忘れてしまった方がいい。
過去をどう扱うかよりも、この先どう進んでいくかの方が大事。
なんせ先の方が、まだまだどこまで続くのか見えないのだから。
今は、これが少しでも良い結果に繋がることを願うしかない。
――翌日。
朝は早々に会社へ向かった。
「お。池田。おはよう。」
「おはようございまーす。」
昨日ショッピングモールで出会った先輩が、すぐに声をかけてきた。
アリス、というか山本梓としての先輩と、彼が元々同僚だったことは知っていた。
だから、昨日はアリスがつい反応してしまうのも分かる。
気さくな態度や話し方から、他のメンバーともお客様からの評価も好感的である。
昨日のことぐらいでは、変なトラブルになることはないだろう。
「お前って、プライベートが結構読めないよな。」
「先輩に教える訳ないじゃないですかー。ほら先輩!今日の会議に使う売上リスト。チェックしておいて下さいよ。」
この男も颯太に似て、どこか距離が近い。
けれど、こういう距離感に対してあまり気にしたことはない。
男女で意味が変わることがあるのは分かってる。
それでも、本当に問題になる距離というのは別にある。
誰かと必要以上に近づくことは、これまであまりなかった。
だからこそ、一度握ってしまった距離の離し方が分からない。
昼食時間。
スマホを開くと、メールが入っていた。
何かを、食べる気が起きないし、ここでそのまま開いて確認してしまおう。
エルフのアーシャからの連絡。
一度今の状況を伝えに行くついでに、話を聞いた方が良いか。
もしかしたら、エルフの世界で生まれているはずの、シャロン・フォーラスの動向も分かるかもしれない。
「いやだぁぁぁぁ!!やだぁぁぁぁ。」
帰宅時、電車のプラットフォームには、泣き声を上げる子供の声が響いていた。
これでもかというほどの大声と涙をこぼす子供。
その隣では、母親の困っている姿が目に映る。
–やだぁぁぁ!!それなら私も連れて行って!一緒がいい!
フィーの泣き声を思い出した。
本人がそう望んでいるのに、それを違うと他人が決めていいのだろうか。
あの母親は子供の為に、わがままを通さずに宥めている。
それは高い確率で、あの子供の為になるだろう。
だけど、その結果は子供も母親も未来にしか分からない。
子供にとってみれば、今が苦しいというのに、分からない未来の話をされても困るだろう。
そして、その泣き声を迷惑そうに見る周囲の人間の多くも、求めているのは結局“今すぐ静かになること”だろう。
分からない未来に委ねるのは、無責任なのだろうか。
帰宅後、エルフの世界に向かう前に、カレンダーに追加するべきかとスマホを開いた。
「……。」
少し考えて、何も操作せずスマホはポケットに戻した。
スケジュールに入っているミーティングまでは時間があるし、少し出掛けたところで問題ないだろう。
いつもの白い通路へ入る。
エルフは妖怪とは違う。
妖精とも違う。
けれど生死について感覚的には、終わりより循環に近い考え方をする点では、妖精寄りなのだろう。
同じ“人ではない”側に見えても、どこで生を区切り、何を次へ残すかは、それぞれで少しずつ違う。
その少しは、外から見れば似ていても、当事者からすれば決して小さくはない。
結局、どの立場から見るかで判断基準は大きく変わる。
外からの評価なんて、当事者にとっては意味がないことの方が多い。
私がいなくなった時の“不平等”。
ナオが言うような将来の条件は、そもそも私には加えようがない。
そう感じる時点で、私の生死の捉え方は基本世界の人間と同じではないことは分かってる。
それが妖怪に近いのか、はたまた妖精やエルフに近いのか。
それを比べること自体もおかしいか。
–カチャ
「失礼。」
「はいはーい。ちょっと座って待っててー。」
シャワーに入っているのだろう、奥の部屋から水音と一緒にアーシャの返事がきた。
昔住んでいた私の家は、完全にアーシャの居住地になってしまっているようだ。
妖精がふわふわ漂っているのを避けて、台所のお湯を沸かす。
何かお茶かコーヒーか・・・紅茶があるか。
この世界では、エルフと妖精が共存している。
エルフは魔法を使う時に、妖精の力を借りる。
そして、妖精はエルフから漏れ出ている魔力を吸収している。
それは漏れるほどの魔力量を持つエルフだからこそ、平和な共存関係となるもので、魔法世界の魔法使いが同じ環境を望めば、それはただの代償になるだろう。
持っている者からすれば、当たり前。
持っていない者からすれば、羨ましい。
それも知らなければ、比較する機会もなかった話。
ダメだ。
同じ基準ではないと分かっているのに、つい和を基準に考えてしまう。
紅茶を入れて、丸いテーブルに戻る。
「ごめんごめん。タイミングが悪かったよね。」
「そんなに待ってない。」
アーシャが濡れた髪のまま、ダイニングへ入ってきた。
「私も帰ってきたばっかりで、バタバタしてた。単刀直入に話そうか。」
「頼む。」
アーシャは、席に着くと同時に話し始めた。
「少し前に南西を中心に、行方不明の人数が増えてたんだけど、直近は一旦落ち着いてる。」
今は、増えてはいない。
それはクラーレンの指示下から、フォーラスが外れた為だろうか。
「あと行方不明者の中で、数名だけ自力で戻ってきた子が出たみたい。」
「どこから戻ってきた?」
タオルで、髪を雑に拭きながら、話し続ける。
「バラバラ。悪魔側からドラゴンの世界を経由して戻ってきた子。同じくドラゴンを経由したけど巨人からの子。後は、精霊側から帰ってきた子。」
数が少ないとはいえ、バラバラか。
「まだ直には話を聞けてないから、また話があれば連絡するわね。」
「分かった。」
「で、後はあんたが送ってきた写真のエルフね。」
「シャロン・フォーラス。」
アーシャが後ろの棚から、何かを取り出す。
「ミッシェル・ス・シフォリア。それが彼女のこっちでの名前。」
渡された資料の一番上に、シャロンの写真がある。
「何か話はあった?」
「シフォリア自体は、私も知らない。
でも、その写真を見せながら住んでいた辺りのエルフに聞いた感じだと、以前ドラゴン達と行った山に入ったのは彼女みたいよ。」
以前、アリスの肉体が見つかった場所。
だがフォーラスが関わっていることは確定している以上、驚く話でもない。
「それ以外には?」
「一旦はそんなものかしら。」
アーシャは、タオルを肩にかけて一瞬迷った表情をした。
「・・・もし、できればなんだけど。」
「なに?」
「悪魔の世界は行くのが難しいとして、巨人側をもう一度確認してくれない?精霊の方は私で調べるから。」
自力で戻ってきたエルフがいた世界。
「問題ない。巨人には、行く予定がある。それは別に連絡する。」
話は以上のようなので、そのまま資料に目を落とした。
至って普通の出生経歴。
シフォリア家として生まれ育ち、ある日姿を消す。
魂単位で見極める為に死神の手を借りているのだろうが、ブラッドがいる以上、それ自体は難しい話じゃない。
アリスの場所検知の為に、魂に痕跡を残すことができていたのだから、死亡時のフォーラス全員に対して、検知ができるようにしていたのだろう。
ただ、ブラッドは概ねクラーレンと行動している。
フォーラスの方に、もうシャロンもいない今はここから先、魂に関する目的でフォーラスが動くのは難しいだろう。
「ひとまず、ありがとう。」
ミーティングの時間も近づいてきたので、そろそろ相談所へ向かった方がいい。
「はいはーい。後回しになりそうなのは分かるけど、頼むわよー。」
アーシャは軽い調子を崩していない。けれど、声の奥だけは重かった。
「分かってる。」
約束はできない。
それでも、無視もできないのだから、やれることはやるしかない。
それが良い結果に繋がらなかったとしても。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




