疑問:基準を決める基準はない?
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
ルーナさんが今気になっていること。
”生者は場面毎に、どうやって正しい判断をするのか”。
それをルーナさんと一緒に考えれば考えるほど、私もどんどん分からなくなっていってしまっていた。
そんな話の中に、和さんが入ってきた。
「これも、数ある見方のうちの一つでしかありませんが――」
和さんはそう前置きして、少しだけ間を置いた。
「一つは戦時中の話になりますから、アリスさんが言うように、通常とはみんな判断が違う状況になります。」
戦時中――
和さんは、淡々と話し始めた。
最初に戦が始まった時、和さんの実家が街ごと消えてしまったこと。
戦時という言葉だけが、冷たい鉄みたいに胸の奥へ沈んでいく。
「でも、その時は誰もがそんな状況だったので、誰が良い悪いかなんてどうでも良くなったんです。」
ルーナさんは、再び不思議そうな表情をして、和さんの話に耳を傾けている。
白黒をつけること自体が意味を失うような状況は、やっぱり説明が難しい。
「何も分からなかったので、その時の僕は考えるのをやめました。」
ルーナさんの表情を見ると、基準となる部分が、私達とは大きく違うのだと改めて感じる。
この感覚は、颯太君の時とはまったく違う。
数時間の話し合いで、すぐにどうにかなるものではきっとない。
「その後、そのまま兵舎に戻って――言われた通りに戦って、言われた通り人を殺していました。」
「・・・っ。」
人を殺す。
戦争も含めて、私には知識も経験もないこと。
それでも、仮にもしもそんな状況になった時――私にもその選択肢しか残っていなかったとしたら。
その時、私は何を選べるんだろうか。
聞いているだけなのに、指先の温度が少し消えていく気がした。
「どうでもよかったので。」
「・・・どうでも、よかった?」
ルーナさんが小さく呟く。
「はい。」
和さんは迷いなく頷いた。
「そんな状態の時に、あいつが来ました。」
「・・・スズ?」
和さんが”あいつ”という言い方に、すぐに思い浮かぶ人物は一人だった。
「はい。見た目は子供でしたが、戦場に、普通に入り込んできて。」
当時のスズも、魔法世界の戦場の中にいたんだ。
でもそれって、魔法を使えないスズにとってあまりにも危険すぎない?
「こちらの情報も、状況も、全部知っているようなことを言う。」
いつもどんな状況でも、ほとんど話し方を変えることがない。
そんなスズの様子は、すぐにイメージできた。
けれど、和さんからしたら、戦場でそんな子供が急に出てくるとなると・・・
「・・・それって、怪しくないですか?」
私の言葉に、和さんは少しだけ微笑む。
「かなり怪しかったですね。」
でもその笑顔はすぐに消えて、和さんは続けた。
「けれど、その時の僕はまだ何も分かっていなかった。」
何かを思い出すように、少し和さんの視線が上を向く。
「スズは、戦争を終わらせる方向で、被害を抑えるために動いていたらしいです。
でも、上の連中にとってはそれは邪魔でしかない――」
戦争をしたい人からすれば、戦争を終わらせたい人は邪魔でしかない。
理屈で言えば、それはそうなのかもしれないけど・・・
「結果。スパイ扱いで、処刑されました。」
「っ・・・・・・。」
処刑。
言葉が詰まって出てこなかった。
スズが生まれ変わりながら生きてきていることは分かってる。
それは生きる回数と同じだけ、死んでいることも理屈では分かってる。
それでも。
戦争と同じように、私はたぶん本当の意味では理解できてない。
ルーナさんも、何も言わずに考えるように眉を寄せる。
和さんだけが、変わらずに話を続ける。
「別に、珍しい話ではありません。当時の戦時基準なら、そう判断されても不思議ではない。」
「不思議ではない?」
ルーナさんから疑問の声が出る。
戦時中の判断。
そんな一言で片付けていいほど、軽い話じゃない。
けれど、ようやく和さんが言いたいことが、少し見えてきた気がする。
「ただ――僕は、その時“判断しなかった”。ただ、それだけです。」
戦時中。
そんな非常事態では、それぞれの立場で基準がまるで違ってくる。
そして現地にいた和さんは――きっと、判断そのものができなかった。
戦争を上から見る偉い人達の基準。
戦場に立っている責任者や上官の基準。
そして明日の生死も分からない世界で戦っている兵士の基準。
スズはスズで、“終わらせる側”としての基準を持っていた。
そして、その全ての人達の基準と判断した人の結果。
それらを傍から聞いた私が、正しいか正しくないかを判断できるはずがない。
「基準がある時は判断できる。でも、その基準自体を失っている時は、平時でも人は動けません。」
平常時。
確かにそれも一律に決まっているものじゃない。
和さんは、一度だけ視線を落としてから続けた。
–
戦後から、すでに十年以上が経っていた頃。
「おや。君とは縁があるのかな。また会ったね。」
「・・・は? 誰だ?」
魔法世界は、まだ立ち直れていなかった。
戦いのための魔法ばかりが進み、暮らしを立て直すための魔法は、戦前とほぼ変わらないまま。
むしろ、失ったものの方が多いようにさえ見えた。
街を歩く大人も子供も、昨日の続きを惰性で生きているように見えた。
戦いが終わったというだけで、何かが戻ったようには見えなかった。
そんな中を、俺もまた、目的もなく歩いていた。
戦争が終わってからどれだけ経っても、何をすればいいのか分からないまま。
その時、不意にそんな淡々とした声が落ちてきた。
目の前の少女に見覚えはない。
けれど、戦時中にも似たようなことがあったのを思い出す。
「・・・お前、もしかしてあの時の同居人?」
「覚えてたか。久しぶり。」
その返事と同時に、戦時中に見たこいつの最後が脳裏をよぎった。
「なんでここにいるんだよ。」
「あの後、どうなったかと思ってね。だいぶ気力のない感じだね。」
本当に、その時のことはもう過ぎたものみたいな顔で言う。
ただ、視線だけは今の街並みに向いていた。
「消耗するものを消耗しきったんだ。仕方ない。」
「それでも、生きている限りは徐々に良くなるだろうしね。」
その言葉には、半分だけ同意できた。
たしかに、いつかはそうなるのかもしれない。
けれど今見えているのは、そこへ向かう途中ですらない風景だった。
「楽観的だな。傍から見れば、どうでもいいことだろうけど、こんな――」
怒る気力も、もうなかった。
ただ残るのは喪失感だけだ。
俺はこんな結果のために、人を殺してまで戦ってきたわけじゃない。
「だからといって、いつまでもこの状況を続けられる人間ばかりでもない。いずれは、前に進もうとする。」
「・・・長い話だな。」
「長いよ。でも、始めない限りもっと長い。」
そう言ってから、あいつはこっちを見た。
「天才君。君なら、この状況で何を優先するべきだと思う。」
天才君。
その呼び方で、学生時代に会った頃の別の同居人の姿が重なる。
あの頃からこいつは、魔法の限界を自分で決めているんじゃないか、と会うたびに投げてきた。
上から目線で、いちいち癇に障る言い方で。
「お前に何が分かる。」
「魔法のことは分からないよ。さて、約束があるんでそろそろ失礼するよ。」
そう言うと、あいつは本当にそれだけで立ち去っていった。
「・・・・意味わからねぇ。」
まるで他人事みたいに言うくせに。
実際には戦場にいて、被害が少しでも小さくなるように動いていたことも。
その結果どうなったかも、俺は知っている。
ただの同居人のくせに。
何を優先するべきか。
戦う方法しか知らない俺が、知るわけがない。
魔法にだってできることは限られてる。
——いや。
その“限られている”を、決めたまま動いていなかったのは俺の方か。
何を正しいとするのか。
何を優先して進めるのか。
その基準もないまま、ただ止まっていただけだった。
–
その基準もないまま、ただ止まっていただけ。
・・・だから、和さんはああ言ったんだ。
「その後も、何度かスズに会うタイミングはあったんですが、当時の僕からするとスズの言葉はあまりに曖昧で、結局何が言いたいんだと思ってました。」
ルーナさんの方を見ていた和さんが、ふと私に視線を滑らせた。
「あいつは、答えをくれません。出すべき人間が自分ではないと思っているから。
――何を基準にするかは、その場にいる人間が決めるべきだと考えているんでしょう。」
「!」
和さんの言葉は、私にとって完璧に思い当たることがあった。
死神の結果を待つ間、スズは私に答えをくれようとはしなかった。
今はまだ、話す段階じゃない。と、そう言って・・・
物理的な距離はあったけれど、ずっと相談所から追い出すこともなく、時々視界の端に入るだけ。
私の答えは、私にしか出せないから。
スズは、結局最後まで答えをくれなかった。
「しばらくして、ようやく気づきました。何を元に戻すのかを決めない限り、何も進まないと。」
戦後疲れ切った生活。
そこから足を前に進めることがどんなに大変か、私にはまったく想像もつかない。
「その時その場にいた僕は、まず何を基準に動くかを決めないといけないと思いました。」
「・・・結局は、誰にとっても正しい答えはないってこと?」
「それを選ばない間は、誰かにとっての正しい答えが結果でした。
それに委ねるか、あるいは自分で答えを探しに行くか。それだけの違いです。」
ルーナさんは、そこでようやく少しだけ視線を伏せた。
誰かの判断に委ねることと、自分で決めること。
その差が、死神の側にはあまり無いのかもしれないと、ふと思った。
私が死神の会議で出した答えは、数週間前の私には分からなかった。
でも――
それって、答えになっているんだろうか。
「つまり当事者の判断と、私達のような生者を管理する死神では、同じ判断に行きつくことが難しい。
結局は、別々の判断をするしかないようにも聞こえる。」
「そうですね。それが正しいかどうかは、今でも分かりません。
ただ、その時はどの基準で動くかを少しでも決めないと、何も進まなかった。
……少なくとも、僕にはそう見えました。」
それはすごく難しい。
ルーナさんが言ってることも正しいと思う。
結局、その場にいなかったルーナさんや私には、それが正しいのか分からない。
だからといって、当事者にだって判断が難しすぎる状況。
「仮に今では違うと思う選択でも、その時は、進むこと自体が必要に見えたんです。」
「つまり、その状況では、何を選ぶかより進むことを優先した?」
確かに選択肢が大事な場面は多い。
でも、平常時だったとしてもその状況次第では、選択よりも大事なこともある。
「変化や時間によって、基準や判断が変化する中。死神でも常に同じ判断をし続けることは難しくないでしょうか?」
「・・・・。」
もしかしたら、死神の方やスズ達は、長いからこそ変わりづらい部分があるのかもしれない。
「どちらもその時間軸が長すぎて比べようがないですが、死神と同じく長命なのに、いつまでも悪戦苦闘しているあいつにも、同じ質問をしてみても良いかもしれませんね。」
和さんが一息つく。
「それはそれで、また曖昧な答えになりそうね。」
イザベルもため息を吐くように返した。
「和ー!スズが調理できるか確認して欲しいってー!」
階下から日向の声が響いた。
「はいはい。」
多分、解体が終わったのかな?
和さんが椅子から立ち上がるのと同時に、ルーナさんは静かに私の影の中へ潜っていった。
答えらしい答えがでる疑問ではなかったこともあるけど、少しは納得してもらえたかな?
ここまで、スズの知り合い以外の死神の人は、常にこちらを敵視してきて、話を聞いて貰えそうな様子を見たことがなかった。
でも、ルーナさんはこちらを完全に否定することもなく、ちゃんと最後まで話を聞いてくれた。
お互いの基準の違いがあまりに広すぎて、すぐには良さそうな位置が分からない。
それでも話せば少しは近づけるのかもしれない。
でも、その距離をどう縮めればいいのか、その基準自体がまだ私にはよく分からなかった。
基準は、状況で変わる。
でも――
その“基準を決める基準”は、どこにあるんだろう。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




