疑問:やっぱり私は単純みたい?
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
翌朝。
三階の和室で、まだ全員が眠っている中でふと目を覚ました。
体を起こして見渡すと、秀人とスズの間で眠っていたはずの、颯太君の姿がなかった。
みんなが起き始めて、家の中を一通り探し回ったけど、やっぱりどこにも見つからなかった。
「帰ったのかもね。」
揃って朝食をしながら、スズがそうつぶやいた。
その言い方は“安心”ではなく、“今はこれ以上踏み込まない”という判断に近い感じがする。
「結局、どうやって入ってきたのかも、どうやって帰ったのかも分からなかったな。」
朝食を並べ終え、和さんが最後にダイニングテーブルの椅子へ腰を下ろした。
「山本亜季子が怪異のハーフで、人間との間にできたのが颯太だった場合。
圭では、颯太はほぼ人間と判別がつかなかったことにも納得がいく。
それでも、そういった移動能力持ちなのかもしれないけれど。」
「颯太が、山本梓さんの母親――山本亜季子さんの息子っていうのは、確かなのか?」
スズと和さんが言葉を交わす。
昨晩、颯太君が言った言葉は予想もしてなかった。
私が山本梓として生きていた頃、スズからは母の亜季子さんや、祖父の宗一郎さんの話を聞いていた。
そして今、青森の実家には父の弘和さんと、その息子である圭吾さんが暮らしているとも。
もし颯太君が、その圭吾さんとは別人なのだとしたら――
和さんの言う通り、まだ颯太君から苗字と母親の名前を聞いただけ。
人違いって可能性もあるのかな?
「それも含めて、ちゃんと調べた方が良いだろう。」
「そうだな。」
昨日の颯太君の言葉からは、また来そうな感じはあったけど、それも本人次第だろうし。
もう二度と会わないのかもしれない。
私は、今はこうしてアリス・フォーラスとして生きているけれど、少し前までは山本梓として生きていた。
そんな私にとって梓さんの家族のことは、他人事には感じられない。
もうそれは“私には関係ない”と言い切れるほど、綺麗に分かれていない。
まるで、誰かの人生が自分の中へ静かに染み込んでくるみたいだった。
「また来るかなー?」
「どうだろうねー。」
「キュウ?」「キーキ」「キュキュ」
朝ののんびりした日向と秀人の声に、セイ達が混ざる。
それにしても颯太君は、不思議な子だった。
朝食を終えると、スズは出社していった。
私も二階で、相談所のお客様からのメール確認から始めようかな。
・・・とはいえ、頭の片隅には、まだ颯太君のことが引っかかったままだった。
特に急ぎのメールは無さそう。
そういえば、最近は魔法世界からの苦情やらクレームのメールが、減っている気がする。
その方がもちろん助かるから、問題はないのだけれど、年末年始問わずに結構な数がきてただけに、急に減るとそれはそれでちょっと怖い。
「アリスさん。ちょっと良いですか?」
和さんが、階段から降りてきた。
「はい。」
ノートパソコンから顔を上げ、和さんの方に振り向いた。
和さんは、昼食の仕込みをしていたのか、長袖をまくっている。
「最近は、イザベルと魔法文字の勉強をしているんですよね?」
「・・・まぁ。少しずつなのですが。」
「だいたい文字を判別できるようになってきたわよ。」
まぁ一ヶ月も繰り返していけば、嫌でも見分けはつくようになったけど・・・
とはいえ、和さんや日向達の設置魔法はほとんど分かってない。
「なるほど。何を教材にしてるの?」
ノートパソコンの脇に用意していた本を、和さんにおずおずと見せた。
中身は、小学校の教科書くらいの文字量なので、繰り返し読むのに丁度良い。
それを和さんはペラペラと流し読みをして、顔を上げた。
「もう一段ランクを上げてみませんか?」
「良いのあるの?」
和さんはデスクの脇を抜けて、奥にある書類などがまとまっている棚を漁り始めた。
「設置や攻撃の実例を、多く見た方が良いと思います。以前僕が読んでいた本なんですが、今の基礎になるその本と併用して、これらも読み解いてみましょうか。」
渡された本は、かなり使いこまれているように見える。
ページの途中途中にメモも挟まって、中には手書きで追記などもある。
急に大学生の実用書になった気がする。
「昔の本なので、最近の魔法は少ないですが、僕が昔からの魔法を調べなおしをしたいって言った時に貰った物で、それなりに実例が載ってるので参考になると思います。」
そうはいっても、ついさっきまで小学生の教科書みたいな内容を読んでいた私からすると・・・
「あ、あの。こんなちゃんとした物をお借りしていいんですか?」
初心者中の初心者の私に渡すには、もったいないぐらいちゃんとした内容すぎる気がする。
「もちろんですよ。ここにただ置いておくよりも使える人が使った方が良いですから。
分からないところは、僕でもイザベルでも、日向達でも聞いてください。」
「わ・・・分かりました。頑張ってみます!」
確かに見たことがある文字もいくつか見つけられる。
とはいえ読むのには、かなり時間がかかりそう。
でも、これは確実に知識になると思う。
「そして――」
和さんから受け取った本を机の上に置くと、そのまま和さんは話を続けた。
「それはそれで座学として進めるとして、実技もしましょう。」
「へ?」
実技ですと?
和さんは、立ったまま自分の机の上のノートパソコンを開き、そのモニター画面を私に向けた。
画面に映ったカレンダーは、さっきまで私が見ていたものと同じ。
いや、少し違う?
「午前中はいつも通り、スケジュール調整やメール対応をお願いします。
でも午後は、僕か日向達との都合が合うタイミングで、1~2時間ぐらい実践も進めましょう。」
「・・・い、いつのまに。」
和さんや日向達から、私宛にカレンダーの招待が入っていた。
「もちろんやり過ぎは良くありませんので、平日の午後だけの範囲です。
それにお互いに都合が合わない日もあるので、そこは自由に過ごして頂いて大丈夫です。
アリスさんは放っておくと、やりすぎそうな気がしますので。」
ここまで文字の勉強や”魔法を見る”ことしかしてこなかった私にとっては、泳ぎ方だけ教わって、いきなり深い海へ放り出されるような感覚だった。
でも、せっかくの機会だよね。
「・・・が、がんばります。」
「一歩ずつ行きましょう。折角ここまで頑張って勉強してきてるんですから、実際に使ってみた方が理解も進むと思いますよ。」
「確かに。」
言う通り。
読むだけじゃ、たぶん限界がある気はしていた。
それにまだ使うイメージができてないから、書いてある事も理解しづらくなってる部分が沢山ある。
「カイル。私から見て、アリスは攻撃系より補助の方が、相性良い気がしているんだけど、あなたはどうかしら?」
「そうだね。攻撃が向いてない、とは思いませんが……あまり“前に出る火”の感じではないですね。
押し出すより、流す方が得意なのかもしれません。
確か、最初に声をかけてきた精霊の属性も風の方だったんですよね?」
声をかけてきた精霊。
精霊の世界で、夜中に声をかけてくれた時のことだよね。
・・・確か、そんなことを言っていた気がする。
それに見た目からしても、緑っぽい輪郭の女性の姿だった。
多分、風っぽいかも?
「多分。そうだったと思います。」
私の相性かぁ。
自分が本当に魔法を学び始めていることに、怖さと同時に少しだけワクワクしてしまう。
「ひとまず、明日以降の僕らの空いている時間をカレンダーから招待しましたので、問題無さそうでしたら、承認をお願いします。」
「わ、分かりました!確認しておきます。」
そう言うと、和さんはそのままパソコンを持って、階段裏の会議室の方へ歩いて行ってしまった。
「・・・大丈夫かな?」
「どうせやる予定だったんだから良いじゃない。」
そう言われるとそうなんだけど。
こうもしっかりスケジュールが入っていると、よけいに実感が沸く。
そして、イザベルから聞いた話にはなるけど、教材に名前が載るぐらいの魔法使いである和さんに、直に教わることになるとは・・・
ちょっと心の準備が必要だよ。
「頑張んなきゃ・・・。」
中途半端になってしまっては、折角教えてくれる和さん達にも、申し訳が立たなくなってしまう・・・
そう意気込んで、まずは目の前の仕事に戻った。
そして翌日。
和さんとイザベルの三人で、相談所の庭に立っている。
――のだけど、初心者中の初心者の私には、もちろん急に魔法を発動させることもできない。
「まずは頭の中のイメージが作りやすい言葉を口に出して、完全に合致させましょう。」
そう。
アルファーさんの時から聞いてきていた、魔法を発動させる方法。
考えているイメージと口にした言葉を一致させる。
和さんが「灯火」というと、小さな火がふわっと和さんの手の上で灯った。
それはとても簡単に見えてしまうのだけど、これがまったく出てこなかった。
「赤い炎。」
出てこない。
「燃える赤い火!」
何も出てこない。
「マッチの火?」
さっき見た和さんの火をイメージして、何度も言葉を変えて口にしてみる。
でも・・・
私の手元からは、うんともすんとも何もでてこない。
「もう一度実際に見ながら、イメージを固めてみましょうか。」
「・・・はい。」
和さんが再び出してくれた火を見つめながら、もう一度イメージをする。
赤い。
ゆらゆらと揺れる。
熱そうな炎。
「赤い。ゆらゆら揺れる、熱そうな炎。」
しーん・・・
「ふむ。言葉にはちゃんと魔力が乗っているように見えますね。
イメージが伝わり切ってないのかもしれません。」
和さんもちょっと考え込む。
うぬぬ。
イメージがちゃんとできてない?
「ねぇ。」
「ん?」
しばらく試行錯誤していると、イザベルが私と和さんに話しかけてきた。
「アリスが今の肉体に戻って記憶がまだハッキリしてなかった時に、アリスは魔法を使っていたのだけど。」
「え?私魔法使ってたの?」
「うん。どうだった?」
このアリスの体に戻った最初の頃の記憶は、夢を見た時よりもかなり曖昧にぼんやりとしか覚えてない。
家に帰りたいとか。
ここがどこか分からないって不安。
そういう感情の強い部分だけは断片的にあるけれど、魔法を使った記憶はないなぁ。
「その時のアリスは、魔法を擬音語で発動してたわ。」
「擬音語?」
「そういえば、アルファーさんもそんなこと言っていましたね。」
擬音語って、音を言葉にしたものだよね。
「たしか、風を”ふー”。壁を”ぎゅ”だったかしら?そう言っていたわね。」
ふー・・・ぎゅ?
じゃあ炎なら何だろう?
思いついた言葉を口に出す。
「ぼうぼう。」
そう口にした瞬間、胸の奥で丸まっていたものが、指先へほどけるように流れた。
–ポッ
「あ。」
「あら。」
和さんの火よりもかなり小さいけれど、指先にたしかに火が灯った。
説明の言葉では届かなかったのに、音だけはまっすぐ形になる。
私にとって魔法は、意味より先に、感触で動くものなのかもしれない。
指先で揺れる火を見つめる。
少し前まで山本梓という普通の人間として生きていたはずなのに――
私はこんなにも簡単に、“人間じゃない側”へ指先を伸ばしてしまっているんだ。
そう思うと同時に、昨夜の颯太君の顔が浮かんだ。
人間と人外を分ける線なんて、本当は最初から、綺麗には引けないのかもしれない。
「なるほど。イメージと直結しているのは、感触や視覚的な説明ではなくて、擬音語なんですね。」
和さんが納得するように、私の指先の火を見つめた。
「・・・なんか、すみません。」
なかなか発動しなかったので、気が付けば30分以上も和さんを悩ませてしまっていた。
「いえいえ。面白いですよね。イメージの仕方が人それぞれなんですから、確かに言葉が説明文とは限らないですね。」
和さんは驚いているというより、仕組みが一つ噛み合った時のような、納得した顔だった。
でも良かったぁ。
いつまでも発動できなかったら、凹むところだった。
「その調子で、もう少し強い炎を発動してみましょうか?”ごうごう”とかでしょうか?」
大きい炎。
キャンプファイヤーの時みたいなイメージかな。
「ご、ごうごう」
–ボワッ
火は、さっきよりも倍以上に膨らみ、手のひらサイズくらいの大きさに変化した。
「問題無さそうですね。しかも擬音語って、発動までも短くてかなり効率良さそうですね。」
その後も和さんの指示に従いながら、水や氷。
そして風や雷なども試していった。
火と風はなんとか形になったけれど、水と雷はまだ不安定で、少し集中が切れるだけで簡単に崩れてしまった。
「大丈夫そうですね。今日はこの辺にしましょうか。
しばらくは、イメージから発動までを自然に繋げられるよう反復ですね。」
「分かりました!ありがとうございます。」
和さんの説明は丁寧で、私が焦らないように様子も見ながらゆっくりやってくれた。
なので、なんとか無事にこなせてちょっとだけ嬉しくなり、それが表情に出てしまっていると思う。
実践の初日である今日は金曜日だから、土日の練習はないから、ちょっとだけ一人でイメージの練習をしてみようかな?
ワクワクしてきた。
・・・やっぱり私は、単純みたい。
そうして少し浮いた心のまま、自分が結局どちら側へ近づいているのかだけは、まだ見えなかった。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




