答え:魚は水に飽きず、人は隣人に飽きず
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
みんなよりも一足先に夕食を済ませ、地下へ降りる。
椅子にかかっているパーカーを羽織り、引き出しの中の袋をポケットに入れる。
本日二度目の通路へ入っていく。
–カチャ
「失礼。」
夜の冷えた風が、通路の中へ流れ込む。
場所は前回と同じ、静かな裏道に出る。
夜ということもあり、歩いている人の姿はない。
けれど、通り過ぎる一つ一つの家からは、漏れ出る明かりと人の気配を感じる。
特に気にせず、私は進んでいく。
いつも目的としている駄菓子屋の前を通り過ぎる。
店は閉まっているけれど、奥からは人の声が聞こえる。
そのまましばらく歩くと、住宅街を抜けた十字路の正面に、商店街の入り口を示す看板。
商店街の店は、ほとんど閉まっているように見えた。
人の気配も薄く、看板だけが夜気の中に浮いている。
もう少し遅い時間だっただろうか?
ひとまず交差点の信号を待ち、反対側へ渡る。
商店街の入り口のアーチを抜ける。
「・・・」
急な明かりに目がくらむ。
一歩踏み入れた瞬間、現実の手触りが消えた。
さっきまで暗かった商店街は、赤い光が、夜を押し広げるように満ちていた。
いくつか目に入る料理店から、流れる肉や野菜の匂いに交じり温かい空気が吹き抜ける。
閉まっている店は、一つも見当たらない。
行き交う人々の中には、明らかに人ではないものも混ざっている。
黒い影、白くぼやけたもの、羽のある小さな生き物、獣人に似た姿。
見える範囲だけでも、種類は多種多様だった。
いくつかの居酒屋のような店は、道にもテーブルを広げ、楽しそうな声が直接響いてくる。
雑貨屋の様な店。
路上販売。
行き交う人の中を避けながら進む。
特に、目的があるわけではない。
待っている人がいるようだけど、誰なのか分からない。
何度目かの赤い提灯をくぐった頃、ある一つの店の前に並んでいる商品が目に入った。
髪飾り。櫛。手鏡。
女性向けの商品が並んでいる。
「あら気になる物がありますか?」
店番をしている女性の声。
狐の仮面を頭に着け、黒髪の浴衣姿の女性。
その目も狐のように細く、こちらを眺め微笑む。
「昔、似た物を持っていた気がする。」
赤い櫛。
「それはそれは。贈り物ですか?」
艶のある声。
騒がしい商店街の中でも、耳に入る。
「恐らくは。」
自分で買うとは思えない。
だけど、どうやって手にしていたのかは思い出せない。
「大切な思い出ですね。」
思い出。
とはいえ、いつの話かも誰から貰ったのかも覚えてない。
思い出す機会の少ない記憶は、どうしても薄れて行ってしまう。
「こちらはおいくら?」
その櫛を手に取る。
丁寧に磨かれ、違和感なく肌に馴染んだ気がした。
「お手持ち3枚頂きます。」
駄菓子屋の男から貰った袋から、3枚取り出し女性に渡した。
「ありがとうございます。またどうぞ。」
櫛をポケットにしまい、再び商店街の中を進み始める。
手に触れる櫛の感触が気になる。
なぜ買ったのだろうか。
明確な理由は出てこない。
ただ、何かを忘れていることだけは分かった。
もしかしたら、思い出せるかもしれない。
そんな気がした。
忘れてしまった記憶。
廃れていく景色。
薄れている顔。
全てを記憶に残しておくことはできない。
いくら書物や紙に書き残したとしても、それすらもいつかは無くなってしまう。
商店街の終わりはまだ見えない。
これはどこまで続くのだろうか?
この商店街には、神に近いものたちも混ざっているのだろう。
永く生き、転生を重ね、それでもまだ神ではないものたちが。
「あぁ!やっと来た。」
その声に視線が向く。
「・・・」
神に近い生き物だけでなく、神もいた。
声がする店へと入ると、座敷の上で既にかなり酔ってみえる男の人。
「何故こちらにいらっしゃるのでしょうか?」
頭を下げる。
「止めてよ。ね。一緒に呑まない?」
黒いひげを生やした、人当たりの良さそうな笑顔。
その図体は大きく、横幅は平均男性の二倍はあるだろう。
「ご相伴させていただきます。」
「固いなぁもうー。なんか魂減ってない?また何かしてるんだねぇ。」
座った席の隣の男性が、日本酒を注ごうと動くのを見て、手元のおちょこで受け取る。
「常に色々なことは起こりますので、お気になさらずに。」
「そうそう。今は死神と揉めてるんだってね。うちの子も呆れてたよー。」
水盆を利用したり日本酒届ける時にも見た、面倒くさいとお節介焼きの間の様な表情を思い出す。
「恐れ入ります。」
「いやいや。相変わらずだねぇ。」
孫を見るような目線を送られる。
そんな機会がないこともあるけれど、何を言っても優しく受け流すこの態度はやや苦手。
「久須ちゃんが今そっちにいるんだってね?羨ましいなぁ。」
「気が変わりましたら、そのうちまたどこかへ行かれるかと思われますが。」
あの気まぐれな神。
「儂もたーまには、そういう息抜きがしたいだけどねぇ。うちの子の視線が怖いんだけどどうしたらいいかな?」
「生者がいるうちは、そちらも簡単には席を外せないのでは。」
「えぇぇぇ。たまにはダラダラしたいよぉぉ。」
裁判を下す威厳な雰囲気はどこへやら、一升瓶を胸に抱えながらうじうじしている。
あそこまで自由な神が増えては、違う意味で問題が増える。
「それで、何か御用でしょうか?」
いつまでも出てくる様子が無いので、こちらから要件を伺うしかない。
「ん~?なんだっけ~?」
緩い視線が上がる。
「……。」
「えと確か・・・。」
隣の男が気まずそうに口を開いた。
「出待ちされてる女性・・・とか言ってませんでしたか?」
「ん~・・・出待ち。・・・・あ。あぁそうそう。君の事を調べてた人だね。阿君ありがとう。」
少し前に出入りする私のことを調べまわっていると、言っていた女性のことか。
「多分ね。その子も死神の子みたいだよ。」
「死神。ですか。」
狐関連の可能性を考えていたけれど、ここに来て再び死神。
しかも女性?
ピンとくる人物が出てこない。
「何故、そう思われたのですか?」
「えっとね。調べてみたら、影を使う姿を見かける声があったり、とか言ってたかな?」
これは普段駆け回っているあの男が、調べたということなんだろう。
それならある程度、可能性があると思っておいた方がいいだろう。
「分かりました。ありがとうございます。」
「まぁ。君なら大丈夫だと思うけれど、怪我はない方がいいからね。急ぐことも多いと思うけれど気をつけてね。」
大きい手が、私の頭を撫でる。
「…ありがとうございます。」
苦手。
「あとは、またたまに一緒に呑んでくれたら嬉しいなぁ。」
「…かしこまりました。」
一応の用と気まぐれということなんだろう。
酔いつぶれて半分寝た頃に、静かに席を立った。
「あの。」
店を出ようとしたところで、隣に座っていた男が近寄ってきた。
「はい。」
「えっと。今日はありがとうございます。時々お話は聞いていたのですが、今日お会いできて良かったです。」
「…こちらこそ、急にご参加させて頂きありがとうございます。それでは、またのご機会に。」
「はい!」
爽やかな笑顔に見送られて店を出る。
この場にいる側の者だというのに、その爽やかさだけが、妙に浮いて見えた。
明るい商店街を行き交う人々は、この許された時間と場所の中をそれぞれ楽しんでいるのだろう。
神に近いモノが、いつか本当に神になるのか、あるいはそのまま消えてしまうのか。
座標のある世界から外れた存在ということでは、橋から落ちたあの場所も同じようなものなのかもしれない。
誰も知らないモノ。
個としてではなく、ただの存在として知られているモノ。
真逆のようでその立ち位置はどこか近い。
商店街のアーチをくぐると、急に感じる冷たい温度が肌を撫でる。
まるで、夢だったような感覚。
それが夢ではないと、ポケットの中の手触りで自覚する。
相談所に戻る頃には夜も更け、日が変わっていた。
静かに風呂に入り、再び地下に戻り、いつものソファに身をひそめる。
地獄にいる死神の女性のことは、少し気になるけれど、ブラッド関連だろうか。
会いに行って確認した方が早いのだろうけど、そこまでする必要性は見えない。
そうしている内に、後回しにしてしまいそうだけれど、片隅に置いておこう。
……感覚が遠い。
……片方しかない目からも、何も見えない。
夢と記憶の境目みたいな暗さの中で、ふと耳だけが何かを拾った。
子供の…声?
とおりゃんせ~とおりゃんせ~
わらべ歌のようだ。
こ~こはど~このほそみちじゃ~
聞いたことがある。
てんじんさまのほそみちじゃ~
昔、誰かが歌うのを聞いた。
ちょ~ととおして くだしゃんせ~
誰だっただろうか。
ごようのないものとおしゃせぬ~
女性だった気がする。
このこのななつのおいわいに~
子供だったような気もする。
おふだをおさめにまいります~
思い出せない。
いきはよいよい~
思い出せないことばかりだ…
かえりはこわい~
こわいながらも・・・
とおりゃんせ~とおりゃんせ~・・・
「起きろ!」
急に耳に響く声に、意識が浮いた。
誰の声なのかはすぐに分かった。
毛布から顔を出すと、日差しが眩しい。
「……何?」
「ガルシアさんが来た。急いで準備して上がって来い。」
和は、すぐに階段を上がっていった。
ガルシア…?
手元にあったスマホを見ると通知が入っていた。
とはいえ、まだ1時間前。
空いているタイミングが無い為、今から来ると…
明るいとはいえ、まだ早朝。
重い体を動かすのが、面倒くさい。
「…はぁ。」
顔を洗い、着替えをすませて、応接室へ向かった。
応接室に入ると、イザベルの横に座る黒いスーツの女性が目に入った。
「なんで、調査部?」
調査部には、良い印象がない。
現地調査の名目で生者を観察対象として扱い、回収後に死神側が起こした厄介事も、どう誤魔化すかにばかり長けている。
生者に対する見方は、侮蔑を隠さない回収部と、大差ないだろう。
「今回のトラブル内容から、回収部から出すのは妥当ではないと判断があり、その次に現地に慣れている調査部から選んだとのことです。」
「そう。初めまして。」
話を聞き進んでいく中で、ルーナ・フレットはほとんど喋る様子が無い。
ガルシアが話す観察方法についての運用方法は、明らかに生者に対する配慮もプライベートに関する気遣いも見られない。
運用方法についての提案は、一度持ち帰り改めて返事が来る形にはなったけれど、調査部の死神はそのやりとりの間一言も話さない。
最後の了承時にだけ、視線を左下に送りながら返す。
そうして、最後まで一度もこちらを見ることもなく、話は終わった。
こちらを見れば、何かが漏れるとでも思っているようだった。
そう思ったと同時に少し前にも、似たようなことがあったことを思い出した。
ブラッドの部下。
名前は忘れたけれど、確か女性だった。
姿もあまり覚えていない。
でも、確か行方不明と言っていた。
つまり…
「あの…。」
ガルシアを見送ると残った、調査部の死神がようやく口を開く。
「部屋の案内をさせる。特に何も用意はない部屋になるけれど、必要なものは相談して構わない。
アリスへの妨害や害と同様に、他の人間に対しても同様の行動は起こさないように。
他に質問は?」
「…いえ。分かりました。」
視線は床へ落ちたまま。
「ヒナ。アリスの隣の部屋に案内をお願い。」
「はーい。」
お茶の片づけをしていたヒナに、声をかける。
玄関脇にある窓の外からの視線。
姿は見えなかった。
だけど予想はつく。
お節介の神様も気になっているのだろう。
何事も起きないことを願いたい。
けれど、基準の違う生き物と共にいるなら、どこかで妥協点を探すしかないのだろう。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




