答え:人は人、吾(われ)は吾であるべき
大まかに進めながら細かいことで追加していったりと
後からあれもこれもとなる事もありそうで
実際そんな事もないかもしれない。
そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので
あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。
体にあった小説をお選び下さい。
分岐点を過ぎると、しばらくして天狗の時に見た歪みのある壁が現れた。
白とも灰ともつかない膜のようなそれを通り抜ける。
空気が、肌に触れた瞬間に別物へと変わった。
――恐らく、ここからがクラーレンの領域。
橋の先を知らない様子でクラーレンは、いくつか質問を投げてくる。
落ちた先。
戻る方法。
自己同一性。
クラーレンは橋からは落ちることができない。
その先がどうなっているかを知らない。
それに短く答える。
「次にもし落ちた場合、戻れるかは分からない。」
そう伝えると、それを最後に言葉は途切れた。
進んだ先の通路は、私の通路と似ている。
橋に合流した通路は左右に長く伸び、その正面にテーブルが一つ。
あるのはそれだけ。
魂自体は、私には見えない。
今その魂が、どういう状態かも分からない。
もしそこにあるなら、私にはどうにもできない。
それを呼び、受け取れるかどうかは、アリスに任せるしかない。
–カチャ
通路の右奥の扉が開いた。
「この通路は、保管用に保持している。」
入ってきたのは、さっきまで話していたクラーレン。
その声は、頭に響くのではなく、耳に届いた。
「そうか。」
保管用。
つまり目的は合っているようだけれど、このテーブルの上には何も見えない。
改めて、死神・・・ガルシアを呼ぶべきだろう。
もしもアリスが回収できるなら、それでいいのだけれど。
確認手段はない。
「分割された魂は、お互いを呼び合う。回帰反応と見てもいい。」
「引き合うことと、戻すべきことは別。たとえそうだとしても、すでに分割し意思を持つなら個々に判断させるべきだ。」
本人達がそれを望むか望まないか。
クラーレンが、ゆっくり距離を詰めてくる。
「感情に判断させることが、正しいとは限らない。」
「お前が判断することではない。」
しばらく、フィフの声が途切れていることが気になる。
この空間に入って、通信が切れたのかもしれない。
「イヴの意思は確認せずに、分かれた二つの意思を尊重していいのだろうか?」
「既に個体として分かれている以上、無下にしていい意思じゃない。」
クラーレンは、あと数メートルというところまで近づいてくる。
魂がこのテーブル。
あるいはこの空間のどこかにあるなら、回収はアリス次第でしかない。
こうしてクラーレンが出てくる以上は、可能性は十分だろう。
今回難しくても、ガルシアを連れて来直せばいい。
あと数歩。
この距離は、近すぎて良くない。
半歩、下がる。
「それこそ、お前の判断では?」
「すでに分割された決定を戻して、イヴに委ね直すこと自体がおかしい。」
クラーレンが、また一歩進んでくる。
距離はまだある。
けれど、このまま詰められれば良くない。
さらに一歩、詰められる。
――まずい。
その時。
–カチャ
背後の扉が開いた。
「おや。お取込み中のようだ。」
「やっと見つけられた。」
この声は、ブルースとブライアン。
「この通路が本命のようね。」
そして、二人の後ろからエルフの女が顔を出す。
フィーを迎えに行った時にいたエルフの女。
クラーレンが前。
背後からは、ブルース達。
「何の用かな?」
クラーレンが、ブルースとブライアン達の方に向かって質問を投げかける。
「あなたの複製された疑似通路では、何か条件が足りないようでしたので。」
ブルースが、一歩前に出る。
「それで?」
「複製前の通路を探していたところ、座標は掴めなくても、起動の揺れだけは追えました。そこへようやくたどり着いたところですよ。」
通路の両側から挟まれる形は避けたい。
まだその姿が確認できている橋の方へ、じりじりと下がる。
だが、魂はどうなっている?
「あら?そこにあるのって・・・もしかして・・・。」
エルフの女。
エルフは妖精や精霊に近い。
魂に対しても、後者より明確ではないというけれど、その輪郭が見えるのだろう。
「・・・どれ?テーブルのこと?」
エルフの女は、何もないはずのテーブルの一点で視線を止めた。
私にもブライアンにも見えていない。
だが、あの反応なら、そこにある。
状況証拠からの判断にはなるが。
「アリス!」
この状況で、フォーラスに回収されるわけにもいかない。
もし彼女が動けるのであれば・・・
動けるなら、今しかない。
「何?シャロン姉さん。なんかあるの?」
「それ、山本梓の魂じゃないの?」
「どれ?」
シャロン。
ブライアンは、エルフの女のことをそう呼ぶ。
つまり彼女がやはり、フォーラス家の長女。
シャロン・フォーラスということだろう。
更に三人が急ぎ足で、こちらに近づいてくる。
–ふわっ
柔らかい風が、体の横を流れたような気がした。
「は? あ。消えたわ。」
「どこに? 姉さん、回収できる?」
シャロンが、テーブルに駆け寄る。
――間に合った。
アリスが、回収した?
「消えたのに、どうやってよ。」
「はぁ。まったく君たちは、私の邪魔が多すぎる。」
「こちらにもこちらの目的がありますから。山本梓の魂はどこへ?」
クラーレンのため息に、ブルースが反応する。
ブライアンは私を見てくる。
さらに橋に向かって、一歩下がる。
「今、彼女たちに回収されたところだよ。」
「彼女”達”?」
全員の視線が、こちらに向く。
ここまでだろう。
クラーレンの言葉を鵜呑みにするのもどうかと思うけれど、今はそうするしかない。
それよりもアリスのことが気になる。
無事に回収して、戻れているだろうか。
けれど…
足を橋に向ける。
「ブライアン。」
ブルースの声。
強く通路を蹴る。
「黄。」
ブライアンの声。
走り出す。
背後から閃光が反射した途端、前方に雷が走る。
重心をずらし、橋の端へ滑り込む。
すでに10分が経過しているだろう。
だが橋は、その姿を変えずにそこにある。
「あの橋はなんだ?」
「赤。」
クラーレンの疑問と、ブライアンの追撃の声。
背後から炎が、逃げ場を潰すように降り注ぐ。
止まらない。
ここには遮るものはない。
だからこそ、狙われる。
足を止めず、ジグザグに橋を駆ける。
「私の空間では、橋は落ちない。だが、その先は気を付けるように。」
クラーレンの声。
この空間では、橋は落ちない?
つまり。
あの境界を越えれば――
「なるほど。それが条件か・・・。」
再び閃光が走る。
瞬時に避けようとするが、間に合わない。
雷が右腕を掠める。
全身が内側から跳ねたように痺れた。
気付けば、膝をついていた。
無理やり足に力を込め、立ち上がった。
炎が、小さな塊になって雨のように降る。
洋服が焦げる。
体全体のしびれ。
まだ体は動く。
痺れた足を、無理やり前へ叩き出す。
「殺していいの?」
「…ダメだ。止めるんだ。急げ。」
「・・・っち。ヴェラ連れて来るんだった。」
悪魔は不在。
そして殺す気が無いのであれば、無視。
狭い橋の上。
足場が狭く、避けられる範囲は限られる。
時折、左右に足を踏み出しながら、正面に進む。
後ろから足音。
ブライアンが橋に踏み込んだ。
更に速度を上げ走る。
炎が、頭の上を通り抜け目の前に落ちる。
橋に、焦げた様子はない。
「・・・足。」
ブライアンのつぶやくような声。
雨のように降りしきる炎の中。
焦げていく体を無視してくぐっていく。
–ぱしっ
腕を掴まれた。
振り返ると、ブライアンと目が合う。
掴まれた腕を支点にして、体をひねる。
痺れの残る右足で踏み込み、体を跳ね上げる。
左足を、ブライアンの頭部へ振り抜く。
「っ・・・。」
避けられた。
同時にブライアンが腕を離したのを確認して、再び振り返る。
右肩を炎が直撃。
痛みで視界がぶれる。
右足に力を入れなおし、前に進む。
肩の火が止まらない。
走りながら、所々が既に焦げた服を脱ぐ。
服を投げ捨てる。
ついでに、後ろに目を向ける。
ブライアンが視界に入り込んだ。
とっさに左に避ける。
――遅い。
脇腹に衝撃が走る。
「っがは!」
右足でブライアンの足元を狙う。
ブライアンが後ろに飛ぶ。
距離が開く。
「・・・このっ!」
前へ――
とにかく前へ。
来た時に見た歪んだ空間を抜ける。
ここまでが、クラーレンの領域だというなら、この先は橋が落ちるのだろう。
急がなくては・・・
もと来た自分の橋の方へ踏み込んだ時――
「スー!!!和、行け!」
左の橋から、フィフの叫びが割り込む。
次の瞬間、その横を和が弾かれたように走り抜けた。
「っち!」
振り上げる和の腕に反応して、炎の雨が止む。
「スズ!」
風が吹き抜ける。
ブライアンだけが弾き飛ばされる。
分岐点を踏み出し、フィフの橋に滑り込む。
和の手が伸びる。
――掴む。
その瞬間。
足元の感触が、不意に抜けた。
――まずい。
橋が、崩れ始めた。
和の手を掴む。
その手に力が入る。
和が勢いよく私を引き寄せ、体が浮く。
抱き上げられる。
「フィフ!走れ!!」
和は私を抱き上げたまま、フィフとともに来た橋を勢いよく走り始めた。
「フィフ!魔法を入れる!そのまま走り続けろ!」
「・・・っ!」
二人の速度が上がる。
和の身体強化だろう、二人のスピードがどんどん上がる。
橋の分岐点に、ブライアンの姿が一瞬見えた。
それもすぐ、消える。
「はぁ・・・。」
まだ橋が崩れていくのが見えるが、それよりも和達の速度の方が早い。
それを確認すると、少し力が抜けた。
フィフの言う通り、時間制限というのが正しかったのだろう。
クラーレンの空間では、橋は落ちない。
なら、あそこでは時間が止まっていたか、極端に遅れている。
境界を越えた瞬間に、橋の残り時間だけが一気に戻る。
――そう考えるのが、一番自然だろう。
「はぁはぁはぁ。・・・っ爺に走らせんな・・・。」
二人が、フィフの通路に滑り込んだ。
走ってきた橋は、そのまま崩れていく。
最後に通路と繋がっている部分が崩れると同時に、橋はその姿を消した。
「10分だけ繋がるのか。」
「・・・そうみたいだな。」
和が、何か言いたそうに返事をする。
その前をフィフは、息を荒げながら歩き出す。
「はぁはぁ・・・疲れた・・・。」
「アリスは?」
「無事に戻ってきてるよ。彼女が言うには、山本梓の魂も一緒にあるみたいだけれど、それは確認できてない。」
「…そうか。」
無事。
それだけで、十分。
「スズ。火傷が多いな。てか、なんでブライアンがいたんだよ?」
和の手が、少しだけ強くなる。
「会話を聞いた予測だと、クラーレンの本命の通路を向こうは探してた様子。」
–カチャ
フィフが扉を開く。
「和。下ろして大丈夫。」
「ダメだな。このまま治療。」
そのままフィフと一緒に、和達が住んでいる家の方に戻った。
「また下着ぃ!?ヒナ!」
「ぬあ!!」
ヒデの声に反応して、ヒナが階段を駆け上がる音が響き始めた。
床に足がついた瞬間、足の力が抜けた。
立っているつもりだったのに、膝がわずかに沈む。
遅れて、痛みが来る。
右肩。脇腹。腕。
熱と痺れが、まとめて押し寄せた。
「スズ!!」
アリス。
体が重い。
でも――戻ってきた。
背後の和に、体重を任せる。
「はぁ…ガルシアに、・・・連絡しよう。」
「少し寝ろ。」
「キュウ・・・」
セイが肩に乗るか迷っているのが見えた。
伸ばそうとした腕が、しびれる。
指先にセイのふわふわとした感触を感じた気がした。
もしもお時間があるようでしたら
一文二文、はたまた評価頂けたら
ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。




