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世界は誰の夢か  作者: 光幽 擬名
第一部 第三章 理解は救いにならない
135/201

答え:人事を尽くして天命を待つ

大まかに進めながら細かいことで追加していったりと

後からあれもこれもとなる事もありそうで

実際そんな事もないかもしれない。

そんな感じでただただ妄想・空想を書いてみてますので

あ。これ無理だわと思った場合には無理せず止めておきましょう。

体にあった小説をお選び下さい。

泣きながら、しがみついていた手の力が、ゆっくりと抜けていく。

乱れていた呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


最後に、小さく息を吐く音がして――

アリスが眠ったことが分かった。


イヴの言葉。

あれを、何も知らないアリスが聞けば、混乱するのは当然だ。


誤魔化すことはできた。

けれど、それは違うと思った。


だから、細部を削りながらも、伝えた。


――泣くだろうとは、思っていた。


目元が腫れるかもしれない。

濡れタオルを持ってこようか。


体を起こす。

窓から差し込む光が、ベッドに落ちる影を揺らした。


その影が、何かに押し上げられるようにわずかに歪む。


イザベルが、静かに上体を起こす。


「ガルシア。」


イザベルの警戒を解くため、小さく名を口にする。


「・・・ふん。」


アリスの影から、ゆっくりと人影が浮かび上がった。


「・・・ここは、精霊の世界ですか。道理で入りづらい。」


死神は、精霊から歓迎されない。

妖怪と同じく、基本的に干渉を避けられる存在だ。

圭やカル達は、お互い干渉しないことを条件に、このエリアにいる一部の精霊に承諾を取って、受け入れてもらっている。

けれど、急に入り込んだガルシアには、その庇護がない。


「お休みの所、申し訳ありません」

「外に出て話そう。」


アリスを起こさないよう、そっとベッドを抜ける。


部屋を出ると、他の部屋も寝静まっていた。

階段を降り、玄関へ向かう。


扉に手をかけたところで――


「スズ・・・と?」


和の声。


振り返ると、薄暗いリビングの中で、こちらを見ていた。

視線は、私の背後へ向いている。


「…ガルシアと、少し話をする。」


それだけ告げると、和も無言で階段を降りてきた。


外は静かだった。

森も眠っているのか、風の音だけが微かに揺れる。


玄関前の階段で、足を止める。


「それで?」

「アリス・フォーラスの今後の対応について。」

「そうだろうね。」


――来たか。


和は玄関前の階段に立ったまま、口を挟まずに話を聞いている。


嫌な予感はしていた。


「あまりに話が滞っていることと、山本梓の魂が回収見込めないことから、バレンの案に対して別の案が上がりました。」


ガルシアは、淡々と続ける。


「本来、バレンの案は山本梓の魂を輪廻転生に戻し、アリス・フォーラスを現状維持とするものです。

ですが、その山本梓の魂が未回収である以上、案が通っても実行時期を確定できません。

そのため、先にアリス・フォーラスを輪廻転生に回すべきではないか、という意見が出ています。」


一瞬、間が空く。


……生きている人間を、回収する。


それがどれだけ異常なことか、分かっていないはずがない。


「…それで?」


「現在、レイ・チェジールに続き、ケイト・マクラーレンの裏切り行為。

そして未だ回収できていないブラッド・オルティース。

その状況下で、彼らの部下達が上層部への申し立てを重ねてきており、それが増えてきている一方なのが現状です。

その為、内部で大きな問題となる前に、彼らの回収を優先するべきだということを理由に、アリス・フォーラスの今後の対応を、今週中には終結させる予定で動き始めています。

このまま停滞が続けば、申し立てだけでは済まなくなる可能性もあります。」


組織の論理だ。

停滞している案件は、切り捨てられる。


「そちらの都合か。今週中の会議の予定は?」

「今週の金曜日には最終決定を出す。と伺いました。」


死神と基本世界の時間経過の速度は同じ。

今日は基本世界の月曜日。

つまり、今日から4日後の会議で最終決定が出される。


「バレンの案自体は通る?」


「…?えぇ。どちらかを輪廻転生に戻すこと自体は、今さらこれ以上覆すと話を延ばすだけだと思われますので。」


「ここまで、話が延びていた原因は?」

「山本梓の魂回収ができておらず、仮に案を通した場合実行時期が不明瞭となってしまう為、回収部と保管整理部を中心にいくつかの部長が承認を見送っています。」


いつ達成されるかも分からない計画に、印鑑を押せないと。

だから、すでに生者として生きているアリス・フォーラスの魂を、回収する方向に進むと?


「…つまり、山本梓の魂が無い以上、バレンの案は止まったままになる。

だから、確定できる方を先に処理する。」


言葉にすると、あまりに単純だった。


「こちらから確認することは一つ。」


「…はい。」

「確認する。山本梓の魂が回収され次第、本来のバレン案――山本梓を輪廻転生に戻し、アリス・フォーラスを現状維持とする案を、そのまま実行する。それに問題はない?」


つまり、それが揃わない限り、この話は終わらない。


「…私には、最終判断はできませんが、バレンはそのつもりで、あなたに伝えるように私に指示しました。」

「分かった。これが覆されるなら、こちらもやり方を考える。そして、金曜日の会議には私も参加する。」


やがてひと月経つほどの時間をかけて、伝えられる内容としては…

だけど、ガルシアにここで伝えることに意味はない。


「分かりました。伝えておきます。」

「異論があるなら、連絡を。自分で伝えに行く。」


「…はい。会議の時間は追って、ご連絡いたします。夜分遅くに失礼いたしました。」


そのまま、ガルシアは影に溶けるように沈んでいった。


音だけが一歩遅れて静寂に飲み込まれた。


風の音だけが、空白を埋めるようにやけに大きく響く。


もともとゆっくり行動していたわけではないけれど、より一層悠長な行動をしている場合ではなくなった。

和は地面に視線を落としたまま、表情を見せない。

握った拳だけが、暗がりの中でも白く浮かび上がっていた。


「和。」

「・・・・」


返事はない。


そして時間もない。


それでも――


無謀だと言われようと、このままでは彼女にはなんの選択肢もなく、全てが決定してしまう。


「私は――」

「待て。」


遮られる。


静かな風と草の音を聞き流す。


ヒアリングの案は、ガーディの方で止められたけれど、これでは意味がない。


「……それ以上、先の話をするな。」


和の声は、低く、掠れていた。

少し近づく。


「……待ってくれ。」


苦しげな声。


「待てない。」


はっきりと言う。


「フィフに確認して、明日の夜にでも、もう一度行く必要があると思う。」


和が顔を上げる。

目が合う。


「簡単に落ちるつもりはない。」


「・・・・もう二度と、戻れなかったら。

・・・いたことすら・・・忘れる・・・そんなこと・・・。」


視線が、また落ちる。


「確証はない。」


それは事実だ。


「でも、このまま止まる選択肢は、私にはない。」


「・・・・俺には、止められないのか?」


了承を取るつもりはない。


フィフの拳と同様に、受け止めるしかない。

どうしても、それぞれの優先順位は存在する。


「これが裏切りと思うなら、それでもいい。」


一拍置く。

時間は、決まっている。


「それでも私は戻ってくるつもり。」

「はは・・・確証もないのに・・・?」


それを安心させる答えは、私にはない。


「ない。」


ただの甘えなのかもしれない。


「戻る為に、手を貸して欲しい。」

「・・・通路のことなんて・・・俺にどうしろと?」


「アリスにも、協力してもらえないか確認しようかと思う。それに伴ってアディール・クラーレンが、どう動くかは分からない。」


「・・・・・スズ。」

「無理にとは言わない。」


「その一言は余計。」

「分かった。」


和は深く息を吐く。


「はぁぁ・・・・・・・。」


長い、ため息。


「で?」

「先日と同じくアリスが平行してあの場所に入れる場合、山本梓の魂がどんな状態であれ、実際に接触できるのは、アリスだけかもしれない。」


それこそが、彼女があそこに存在した理由なのだとしたら。


「そのアリスさんに、俺がついて行くことはできないだろう?」

「そうだとは思う。だけど、彼女が一番早く状況を持って帰れる。」

「行き当たりばったりか。」


そう言われても、仕方ない。


「時間制限がある今、あまり慎重にことを進められない。それでも、アリスに何かあったら元も子もない。」

「お前にもだ。」


「…分かってる。」


「すぐに対応できるように、スタンバイすることはできるだろう。

それでも、俺達個人では通路へ入ることもできない。

そして、もしも・・・・もしもまた認知から消えたら・・・何もできない。」


「フィフにも相談してみる。クラーレン同様に、フォーラスが現れることだってありえる。

和達の手は、どこかで必要になると思う。」


前回はまだ、私もフィフもあれはただの検証というつもり。

クラーレンの通路が重なるかどうかも、不明瞭なテストとして考え過ぎて軽く動きすぎた。

そして、金曜日に向けて、これもまだ検証の途中なのだとしたら、時間が足りない。


「・・・頑固すぎる。」


何度か言われたことがある。

確かに、そうなのかもしれない。


「私は、まったく何もしなかった時期がある。」


あれは、いつ頃だろうか。

圭にも会う前だから、1000年以上前だろう。


どこの国なのかも分からない場所で、ただ時間が流れるのを見ていた気がする。


「それじゃあ、嫌だったって?」

「分からない。それでも良かったのかもしれない。」


ただ子供として育ち、大人になって仕事をしながら生きる。

そして、病気や怪我あるいは老衰して死ぬ。

鍵をポケットから出すこともなく、通路に入ることもせず、他の世界にも行かない。


ごく普通の生き方。


「なんで、こういう生き方になったのかは、たった一つのきっかけじゃなかったと思う。」


数えきれない人や生き物と、色々な会話を重ねてきた。

喧嘩したり、怒られたり、繰り返す中でできあがった生き方。


「あのまま、何もせず生きていたら、和達に会う確率は低いと思う。」


「それは、そうかもしれないけれどさ。…だから、って。」

「あのままだったら、多分戻ってこれなかった。」


落ちた先で出会った黄色い何か。


「納得はできない。」


「…そうだな。」


それでいい。


和が、ゆっくり立ち上がる。


「行き当たりばったりでも、動けるようにするなら、ひとまず寝よう。」

「あぁ。」


台所で、綺麗な手ぬぐいを濡らし、アリスの部屋へ戻る。


アリスは、静かな呼吸だけを繰り返していた。


その寝顔を見ながら、考える。


――時間がない。


あの橋の上でクラーレンは、私にも姿を現せなかった。


あの男は、あくまで観察しかできないのではないだろうか。

アリスへの干渉もできず、ただ見ているだけ。

そう考えるのは都合が良すぎるかもしれないが、何もしてこないことに違和感がある。


精霊や妖精の協力なしに、そういった思念体としてただ動けるだけなのだとしたら、クラーレンが何をしてくるかに注力するよりも、橋の先に行く方法に集中した方が良い。


――翌朝。


「え?私も?」


朝食後。

昨日の話を伝えた上で、アリスに同行を頼む。


「・・・同じように、もう一度いけるのかどうか、私も分からないよ。」

「どう思う?」


リビングのテーブルからソファの方へ目を向け、裏庭の窓に声をかける。


≪おじゃましていいのかしら?≫

「できれば確認したい。彼女がそういう干渉することに、そちらの方がいち早く気が付くだろう。」


窓の外から、風の精霊が姿を見せた。


≪その子は多分、魔力と合わせて魂が見えてるのよ。≫

「魂・・・?」


アリスが反応する。

やっぱり、精霊が見えているようだ。

日向達が不思議そうな顔をする。


「それは、接触できる?」

≪多分ねー。だから、あなたにも触れられたんだと思うわよ≫


あの橋の上で、アリスは私の肉体に触れたのではなく、魂に触れた?


「分かった。それで、再び同じ条件を作り上げた場合。座標のない場所に、彼女を引き寄せる事は可能?」

≪うーん。片方の魂が呼び続けてる限り、彼女は何度も引き寄せられちゃうんじゃないかしら?≫


可能性があるなら、やるしかないだろう。


「分かった。ありがとう。彼女の保護をそちらで介入することは?」

≪多分、私達はついていけないわー。≫


「分かった。」


精霊は、そのまま窓の枠に腰を掛け、話を聞くようだ。


「フィフ。私は一度相談所に戻って準備ができたら、連絡する。」

「…はいはい。今回は、俺の家の扉で繋ぐ。電話は繋いどけ。」

「分かった。」


ひとまず相談所に戻る為、立ち上がる。

アリスにもう一度確認する。


「アリス。あの場所では、何が起こるか分からない以上は、無理にとは言わない。」


「・・・私がいても、何もできないと思うよ?」


アリスが行くことには、リスクもある。


「分かった。アリスが言う通り、何ができるかはまだ分からない部分が多い。」


椅子から立ち上がると、隣に座っているアリスが私の服を掴む。


「・・・うー・・・待って。」


小さな声。


「アリス。悩まなくても大丈夫。私が勝手に言いた出したことだから、気にしないで欲しい。」


「・・・でも、自分のことだから、手伝えることは・・・手伝いたい・・・。」

「自分の意思で、起きる事はできないのか?」


フィフが、アリスに質問する。


「んー・・・分からない。いつも勝手に目が覚めるんです・・・。」

「状況が分かっていれば・・・あぁ。スズがフィフと連絡しながら行くなら、それを聞いて起こしてもいいんじゃないか?」


「そうだな。俺やスズの方で、連絡できそうな方がすればいい。」

「多少臨機応変に動く必要は出てくる。こちらは手が余ってるぐらいだから、それはできると思うけれど・・・もちろん。無理矢理行く必要はありませんよ。」


和とフィフの視線が、アリスに向く。

和が言う通り、無理矢理行かせたいわけではない。


「・・・・・・・行ってみます。・・・・何もできないかもしれないけど。」

「助かる。無理はしなくていい。イザベルと和達も頼む。」


「スズ。」


ヒナが私を呼ぶ。

二人には昨日、状況を説明した。

和達と同じように困惑はしていたけれど、少し落ち着いたようだ。


「二人もよろしく。」

「「・・・。」」


相談所へ戻った。

相談所の地下へ入ると、正面に美弥が立っていた。


「ただいま。」

「・・・おかえり。」


「心配かけて、ごめん。」


駆け寄ってくる。

抱き上げる。


そのままデスクへ向かう。

ミーティング資料に目を通す。


美弥は、何も言わない。


責めるわけでも、止めるわけでもない。

その沈黙が、言葉よりも重く胸に積もる。

ページをめくる手を止める。


――金曜まで、あと三日。


準備に使える時間は、ほとんど残っていない。

次は、検証じゃない。


回収ができるか確認。

もしもこれが間違った方向なのだとしたら、修正を急がないといけなくなる。


そう決めて、資料を閉じる。


……ただ。


あの橋の先が、前回と同じとも限らない。


もしも、何かが変わっていたとしたら――

それは、こちらに有利な変化とは限らない。

もしもお時間があるようでしたら

一文二文、はたまた評価頂けたら

ちょっと凹んだり、めっちゃ喜んだりします。

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