第三碌「挨拶でもして来い」
話し合いができたようで、できなかった三者三様面談は親子は困惑を抱えながら、ラルムは挨拶が出来てやり切ったと思いながら終わった。
外は日が暮れて夜となっているため、現当主から「泊まっていけ」と有難い声をいただき、彼女はその言葉に甘える事にする。
一応、婚約者という事なので、夕飯を一緒に囲ってみたオーギュスト。
貴族と言えども些か作法が雑な自分と違い、彼女は一挙手一投足すべてに礼儀が取れて見れた。
(・・・見習わねぇと、もしかして俺があいつに恥をかかすか?)
そんな事をぼんやりと考え、とりあえず今夜の作法は少しだけ頑張ってみる事にした彼なのだった。
夕食を終えて自分は彼女に「何かあればメイドに言ってくれ」とだけ言い残し、やり残した仕事を片付けるべく自室へと向かう。
机に向かおうとしたが、昨日今日で色々とあり過ぎたせいで疲弊した頭が取り掛かろうとするのを拒む。
少しだけ悩んだが、幸いにも急ぎの仕事ではないため、着替えてベッドへと潰れる方を彼は選び、微睡みの中へと旅立った。
それから朝が来た、基本的に身支度などは自分で行うため起きてそれらを整える。
朝食へ向かうと既に彼女がテーブルに付いており、自分に気づくと「おはよう」と声をかけて頭を下げてくれた。
自分もそれに「・・・おはよう」と一拍を置いて返してから席に付き、黙々と朝食を食べる。
食べ終えてから、さてこれから何を話そうかと思った矢先、現当主の専属使用人が彼に近寄ってきた。
「失礼します、朝から魔鳥の商人が来ておりますが、如何なさいますか?」
「あー、いい。 適当に追っ払ってくれ、あんな高ぇ鳥、使う機会なんざ王都のやり取り以外でねぇんだからよ」
現当主である父は、呆れたように手を払う仕草をしながら告げる。
確かに彼の言う通りだ、王都以外で使う予定がない物に金を割くくらいなら、自国で使う魔道具に割きたい。
「失礼、それ私が買うことは可能ですか?」
すると、話を聞いていた彼女から声がかかった。
何に使うのかと思い聞こうとした矢先に「自国へ手紙を送りたいので、できれば買いたいです」と、疑問の回答を彼女が告げた。
嗚呼、なるほどな。
理由を聞いて納得した二人は、使用人に許可を出して彼女を商人の所へ案内させた。
しばらくすると帰ってきた彼女の手には、鳩ほどの大きさの魔鳥が一羽いた。
既に手紙などは購入しに行った時に諸々と済ませたらしく、父を振り返って「ここから飛ばしても?」と伺う。
父もそれに許可を出すと、魔鳥は大空を飛んで行った。
魔鳥とは送り元と送り先を教え込んで、手紙を届けさせる鳥だ。
人の手を使って届けるよりも、距離にはよるが、ほぼ即日で届ける事ができる利点がある。
しかし覚えさせられるルートは1つのみで、確実に覚えてくれるものの、一度覚えてしまえばそのルート以外に届ける事は不可能という欠点もある。
加えて魔鳥は些か高級品のため、値段もそこそこ張る。
そのため庶民には流通はしておらず、使っているのは王族や貴族のみだ。
「よく持ち合わせがあったな」
なので、今はあまり金品を持ってきていなさそうなのに買えた事実に質問を投げた。
彼女はその問いを拾うと、ドレスのポケットから小さな袋を出して、手の上にコロンと磨晶石を出した。
「これで買った」
「・・・お前な、軽々しくんな高い石を出すな」
「聞かれたから・・・」
「"たまたま持ち合わせがあった"、だけでいいだろうが、変に素直か」
磨晶石とは、装飾品に使われる原石の事だ。
大きさや純度にもよるが、基本は高値でやり取りされる宝石。
だからむやみに見せるのは如何なものか、というか危ない。
「それ目当てに襲われたらどうするんだ」
「それはない、あなた達はそんなことはしない」
咎める意味で言ってやれば、きっぱりと断言された。
自分たちが襲うかもという単なる揶揄ではあったが、あまりにも強く断言されたため、少しだけ虚をつかれる。
「・・・そうかよ」
「まったく、なんか参るご令嬢だな」
なので、少しだけ気恥ずかしくなり、ちょっとした悪態を親子そろってつく。
これは変な信頼なのか、はたまた冗談が通じないだけなのか。
オーギュストは変な気恥ずかしさを紛らわせるため、そんな事を考えた。
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おそらくこちらの国とラルムの国はそれほど距離はないはず、だから魔鳥も夕刻には帰って来れるのではないかと推測される。
なので、帰ってくるまでは自国で使っている魔道具を見せる事になった、これは彼女が懇願したものだ。
「・・・わあ」
なんて、子供のような歓声が彼女から発せられる。
あれやこれやと説明をしていく中で、ラルムの目には雑に集められている大量の魔晶石が目に入った。
「噂以上に仕入しているようだな、これだけの大型の魔道具があれば当然か・・・」
「まぁな、他国にとっちゃ"使い道がない石ころ"の買い手なんて俺たちくらいだしな」
魔晶石は、魔道具を作成および使用する際に使われる。
だが大抵は魔術師が魔術を用いてなんとかしてしまうため、魔道具そのものの普及率はそんなに高くはない。
作成する手間とコストを考えれば、魔術師を用いてしまえば物事はあっという間に終わる。
魔術師は大きく分けて『上級魔術師』と『初級魔術師』に分かれており、エリートである上級魔術師は数える程度にしかいないが、初級魔術師は数多くいる。
初級魔術師は水を冷やしたり、重い荷物を運んだりなど日常で必要な魔術を使う事が多く、もはや家族に一人はいるという立ち位置だ。
一方で上級魔術師は、初級魔術師とは比べ物にならない魔術を使う。
それは戦闘魔術であったり、守護魔術であったり、・・・建築物を構成する魔術だったりと、高度なものだ。
手法ではない魔術で建築物を建てるのは上級魔術師ではあるが、ある程度の心得があれば初級魔術師でも軽い修繕程度は行える。
よって、わざわざ手間暇をかけて道具を作るという発想自体がないのが現状だ。
結果的にあちこちで採れる魔晶石の需要が極端になく、供給ばかりが溢れてしまいかねた所、自国が大量に使用するため買い取っている次第である。
「低能の国」などと馬鹿にされる所以は、おそらくここにも原因がひとつあるのだろう。
「・・・こんなにも立派な使い道があるのに、それを分からない他国は損をしているな」
彼女はそっと、魔道具のひとつを触りながら言う。
その様子はどこか慈しむような、悔しいような、正直、よく分からない。
(・・・これが、本当に噂の"閻魔女"なのか?)
少ない時間の中で様子を伺っている中が、とても悪名が付くような御令嬢には見えない。
オーギュストの見解は、自分自身で合っているのか間違っているのか、それもよく分からなかった。
それから時間が経ち、時刻は夕刻。
想定通りに魔鳥が向こうからの返事を持って帰ってきた、数少ない魔道具で出来ている魔鳥専用のポシェットを開くと、中から手紙とペンらしき魔道具と小瓶に入った砕けた魔晶石が入っている。
「なんだそれ」
オーギュストが尋ねると、手紙を読み終えたラルムがこちらを振り返った。
手には、疑問を投げかけた魔道具たちが握られている。
「これは転移魔陣を作る魔道具だ、私の国とこちらの国で陣を繋げたいからどこか適当な場所を案内願いたい」
「転移魔陣を作る魔道具? あれって上級魔術師だけが施せるモンじゃなかったか?」
「うちの爺やが作った物だ、爺やは魔道具を作る事に長けているからな」
「ほう、是非ともお目にかかりたいもんだな」
「転移魔陣を設置すれば、いつでもお目にかかれるぞ」
彼女と軽くやり取りをすると、父が少し頭を捻り「あそこなら」と、整理はされているがあまり使用していない物置を提案した。
ラルムは場所の提供に礼を言うと、さっそく転移魔陣を設置にかかる。
魔道具のペンで転移魔陣を描き、その上に砕けた魔晶石をパッと振りかけた。
すると、陣は淡い紫色に輝き、転移魔陣が開通される。
「・・・本当にできやがった」
説明を聞いても半ばは半信半疑だったため、目の前の事実に少し目を見開く。
曰く、この転移魔陣では上限二名まで行き来ができるらしい。
「オーギュスト、お前、さっそく向こう行って挨拶でもして来い」
「・・・分かった」
「帰ってきたりなんだりしたら、このベルで呼べ。 これも魔道具のベルだ、鳴らせば静かに城内に響いて知らせてくれる」
「おう」
物置にあった小さな棚の上にベルを置くと、父はこの場を後にした。
この現状をこの城の使用人たちに知らせる必要があるから、早々と後にしたのだろう。
「準備は?」
「・・・一応、問題はない」
おそらく連れて行かれるであろう事は予測できたので、一応、正装はしている。
彼女の言葉に頷くと、彼女はそれを見届けてから転移魔陣に立って先に移転した。
・・・連日で大変な事が起こるな、と。
オーギュストはそうため息を吐きながら、自分も転移魔陣の上に立ち、帰ってきたばかりの自国を後にしたのだった。




