第3幕、第1場「キンコン カンコーン」:場所が学校であることを示す音
本来なら、ここで第2幕の第3場(構想はある)となる筈ですが、話の流れをスムーズにするのと、文字数を抑えるため、第3幕に移ります。
第2幕の残りは、番外編として後日(冬休み?)に書くつもりにはしています。
それは「キンコン カンコーン」という音で始まった。
文化祭の翌週。
朝のホームルームは教室の壁時計だけを頼りに始まる。伝統校というプライドで、チャイムはない。
しかし、この日は違った。
「キンコン カンコーン」という音が鳴ったのだ。
教室のスピーカーにしては、雑音のない明瞭な音で。
テレビや映画、アニメで使われる始業・放課後のチャイムで、俺は一度も生で聞いた事がない音だ。
誰もが驚いて、お互いにキョロキョロしている。担任はまだ来ていない。
俺も見回すと、最前列の窓側から2列目の女子に違和感を覚えた。仮名女の席だ。
身じろぎをせず、斜めを向いたままなのだ。まるで静止しているように、
いや、違和感はそれだけではない。肩や髪、服に現実感が無い。
他人と比較すべく、回りの男子女子を見回すが、服の僅かな皺とか、髪の毛の乱れ、僅かな動きすらない。
まさに人形。いや、寧ろ漫画・浮世絵というべきか。
しかし、誰も指摘しない。彼女の横や後ろの男女、始業の音でキョロキョロしていた連中、ですら気に留めていない。
変だと思った時に担任もやってきたが、何も指摘していない。
となれば、俺の視覚がおかしいということになる。
クラス内に俺と同じ違和感をもっている奴はいないのか、と思って見回すと、4-5人ほど彼女を見つめている同級生がいた。全員、教室の後方の座席だ。
連中と目が合ったと時に、彼女を指差すと、果たして頷いてくれた。
俺だけの錯覚ではなさそうだ。
害を及ぼす存在でなければ良いのだが…。
今日は1限目が担任の授業なので、HRからそのまま授業になる。
得意の科目なので、要所だけ聞きつつ「人形」疑惑の女子を観察した。
普通にノートをとっているが、彼女だけが、あたかも同じコマ、同じく癖の使い回しのような動きだ。
まるで、AIによる偽ファイマン講義動画(脚注)の劣化版のように。
休み時間になると、後ろから横にかけての連中に声を掛けた。
「気付いた?」
『?』
「は?」
『お人形さんみたいだね』
真後ろの女子も気付いていたのか。
『え、なになに?』
「仮名女さんだよ」
「彼女がどうした?」
どうやら気付いていない。駄目押しに
『いつもと違わない?』
と尋ねても
『そっかな?』
「分からん」
確定だ。このクラス内で、仮名女が人形・漫画のように見える者と、普通に見える者の両者がいる。
となれば、今後は見える者どうしで話をすべきだろう。
『行ってみようか?』
俺が思っていることを、真後ろの女子に先に言われた。相手は女子。ならコンタクトは女子の方が早い。
彼女は席を立とうとして、座り直した。理由は簡単で、その前に突撃した連中がいたからだ。
「……」
『……』
突撃組は何か言っているが、聞き取れない。少し離れた場所で、しかもクラスの雑音に紛れていれば仕方ない。
でも、彼女の声だけは
"見たよ。イマイチだったかなあ"
"うん、あの場面だけは、良かったよね"
と、奇麗に聞こえていた。なんだか、テレビで聞くような美しい声色で。
突撃組が戻る途中
「どうだった?」
と尋ねると、
『神々しくて、触れるのがためらわれた』
「いや、怖かっただけだろう?」
『うん、お化けかと思った』
本人が聞いたら、とんでもないイジメ発言だ。
とはいえ、ここは進学校。教師が何も言わない以上、この程度で大騒ぎするものではない。
変だと思う者と、そう思わない者がいるだけの話。
大騒ぎしそうな奴に限って、普通に見えているらしい。
「人でない何か」に見えている連中は、俺と同じく、イジメ疑惑という形で炎上するのは避ける傾向にあるようだ。
というか、真相解明のために聞き回る事を自粛するヘタレにしか「人でない何か」と分からない、と言った方は正確なのかも知れないが。
「キンコン カンコーン」
違和感のするチャイムの音は、午後の始業開始でも鳴り、新たに3人が人形・漫画の仲間になった。俺は怪異を見ざる聞かざる話さざる。
脚注:AI生成によるDr. Richard Feynmanの偽動画講義はYoutubeで公開されています。検索すると出て来ます。AI臭の強い創作映像の例として良く挙げられるのが (51) Where Does Your MIND Actually Exist? で、AI映像の特徴を備えている上に、内容もファイマンの没後に別の科学者が提唱した考え方に触れています。因みに本物の物理学講義動画はカリフォルニア工科大学で公開されています。




