1-2場「シュッ」:風を切るような素早い動き?
文化祭で俺たちの出し物は「漫花壇」。
二コマ漫画を地面に描いて、そこに野菜の種を撒いて、文化祭当日に新芽で漫画の「線」「面」を緑で描くという内容で、ついでに手順をポスターとビデオで発表した。
漫画は3つあって、ヒーローものと、忍者もの、男装王女の恋、甘酸っぱい男女もの。
その打ち上げを、学校から徒歩範囲の我が家で行なうことになり、今はそこに向かう途中だ。自転車組=買い物組の4人を除いて、一緒にいるのは5人。その中には気になっている女の子もいる。
途中、商店街の端を渡る。反対側は神社の裏参道になっていて、交通量が少ない割に道は広い。神社の裏側だけに、バス通学するような女子の中には、こちら方面に疎い人もいて
『へえ、ここが裏参道なの?』
と関心してくれたりする。
地元に興味を持ってもらえるのは嬉しい。ついつい、悪手と分かっていても
「うん、だから商店街も生き残っているんだ。一応、全部揃っていて……」
と説明を始めた。男の饒舌がモテに悪いと知っていても話し始めるのは悪い癖。
でも、その失態は、商店街の違和感に気付いて未然に防がれた。それを裏書きするように、女子たちが
『わー! レトロ!!』
『もしかしたら、映画のロケとかに使われるかも』
騒ぎだした。
その瞬間。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
突然「シュッ、シュッ」という、風を切るような聞こえて来た。正確には、小さな物体が高速で動く様子を強調する「効果音」のような何かだ。
音のする方向を向くと、商店街の向こうの鳥居の上辺りで等身大の看板らしき物体が2つ、前後左右に行き来しているのが見えた。でも、そこまでの距離と「シュッ」という音の大きさが合わない。
異常なのはそれだけではない。高速で動く物体が、背景の鳥居や屋根の天辺部分と共に、二次元的な絵(動いているからアニメ)に見えてしまったのだ。錯覚と思ったが目を凝らしても二次元的に見える。
思わず、詳しく見るべく商店街の方へと歩き出し、そのまま小走りになった。同行者のうちの何人かと共に。
近づいても「シュッ、シュッ」という効果音の大きさは変わらない。
けれど物体が何かは分かって来た。和風の黒装束の男たちの絵だ。その動きを追う事はできず、一瞬止まって、次の瞬間に別の場所に現れ、その間は煙のようなものがたなびいている。漫画でよく使う「高速移動」の線だ。
余りの意外さに思わず立ち止まる。
『なに、あれ?』
『ホンモノ、じゃないよね』
という女子たちの声に、俺は
「投影機、だと思う」
と答えて、辺りを見回すも、どこにもそれらしきものは無い。
女子の1人の仮名代が
『鳥居の両脇辺りにあるんじゃないの』
と言って、そちらに駆けて行く。
駆けて行ったのは仮名男もだ。
「これだよ!」
と叫びながら。
そういえば、文化祭の忍者の漫画は、仮名男の原案に仮名代が絵を付けたんだっけ。
残された俺たち3人も、歩いて忍者らしき「アニメ」に近づくと、二次元アニメ絵の範囲がより明確になった。
忍者たちを含む四辺形の視野。その区画内は、商店街の屋根や階も二次元の絵に見える。
目が混乱した次の瞬間、「シュッ、シュッ」という音の代わりに
「カキン」
という金属同士を打ち鳴らす効果音が聞こえた。
同時に地面に降りた忍者たち(の映像?)が、刀と手裏剣を持っているのが見える。
忍者の位置に合わせて、二次元の「画面」が下に移り、商店街の向こう半分が地面から二次元となった。しかもガラス戸だった気がする入り口が全部開け放たれて、まるで浮世絵に見る店並みのようだ。ただし元の店と同じ形で。
「確かにレトロな商店街だな」
とアホな事を思わず口走ってしまほど、脳が驚きにダメージを受けている。
その、二次元の「画面」に、仮名代が近づいていく。
その時、弾かれた手裏剣(の映像?)の一つが、仮名代のほうに、山なりに飛んで行った。
手裏剣自体は、二次元の「画面」を出ると木の葉となってヒラヒラと落ちたが、それでも怖かったのだろう。
『キャッ』
この悲鳴に、近くにいた仮名男が、とっさに仮名代をかばった。
仮名男の立ち姿は、まるで漫画のヒーローだ。
そう思った次の瞬間には、忍者たちは姿を消していた。二次元の店並みと3次元の商店街の継ぎはぎを残して。
二次元になったのは仮名男と仮名代の2人もだ。学校の制服の「絵」と共に。
時間と共に商店街が元の3次元の姿を取り戻したが、制服を来た男女が二次元のまま残された。
あの2人に似ているような「絵」。
あれ? 元の顔や体格と思い出せない。




