1-1場「ピュー」:何かが上空を飛んでいるらしい。
つんざくような「ピュー」という音が商店街の方から聞こえて来た。思わず振り向くと、大きな「絵」が商店街の斜め上空から商店街に向かって斜めに近づいて来ている。
ただし馬鹿でかい。目測で長径30m以上?
『なに、あれ?』(女子)
『看板、じゃないよね』(女子)
少し離れたここからでも分かる絵の中身は、可愛らしさと凶悪さを兼ね備えた怪獣の漫画だ。
「いや、絵がうごいてるぞ」(男子)
『テレビが飛んでるー』(女子)
しかも、遠目にも絵の中身が刻々と変化していることが分かるぐらいに大きい。ドローンで液晶板を運んでいるのかも。そして、先ほどの効果音は、同時に飛んできたスピーカーから出ているのだろう。
『うん、大型液晶板だよねー。ドローンで飛んでるのかなー?』(女子)
「でも、あんなでかい大型液晶板って大都会以外には無かったと思うけど」(男子)
『なんかのキャンペーンじゃない?』(女子)
そっか、今のドローンって、こんなデカい液晶板も運べるのか。変なのは大きさだけではない。「ピュー」の音も変なのだ。スピーカーから出される人工的な音と違う自然さがあるのに、音自体が人工的な効果音に聞こえる。
思わず立ち尽くし、それからよく見ようと歩き出し、そして飛び去る前に正体を確認しようと小走りに走りはじめた。同行者のうちの何人かと競争するかのように。
近づいて気付いたのは、絵は2つに分かれていること。怪獣の絵から少し離れたところに、ちっちゃなロボットの主人公の絵がある。こちらは、ほとんど平行移動している怪獣の絵と違って、動きが早い。
そして、そのいずれもが遠近感・陰影・運動視差が全くない二次元画像で、まさに『上映』している感じだ。
それでいて、どちらの絵も、空との継ぎ目が分からない。思わず立ち止まって
「液晶板は何処なんだろう」
と疑問を声に出していた。
『もしかしたら、ずっと大きいのかも』(女子)
他の連中も走るのを止めている。
でも、そうすると、長径30mどころか、100mを軽く越える大きさだけど、それって大型飛行機よりデカいって事じゃん。
「もしかして、空中投影機とかいう奴じゃねえ?」(男子)
そっか、とうとう出来たのか。
虹と同じ原理で、昔から提唱されていたけど、なかなか実現できない技術の一つだ。いや、単純にドローンでスクリーンだけ運んで、そこに向けて投影している可能性もあるか。
思わず辺りを見回して、投影機らしきものを探すが何処にも無い。
それに、直感はそれを否定していた。映像特有の「発光感」が無く、寧ろ紙の上の絵の具という実体のような重みのある二次元絵であり、音もスピーカー感が無かったからだ。
そういう思考をしている間にも、映像らしきロボットは、これまた映像らしき怪獣に追いついて、商店街に着く前に怪獣を気絶させた。まるで実写アニメだ。
唖然とする俺たちの横で、仮名女が呆然とした様子で
『あたしの漫画だ!』
と呟いている。
そうだ、確かに似てる。文化祭の『漫花壇』の元となった絵だ。
あれは、校長や教育長の世代の受けを狙って、漫画の神様の『原子』漫画を元に、主人公を可愛い女の子に代えたもので、仮名女が描いた。
となると、展開は読める。目の前の実写アニメのロボットヒーローは、怪獣を殺すのではなく
"君が暴走したのはこの星の大気組成が合わないからだ"
"だから僕が君の母船に送ってあげる"
とアニメ声で叫んで、両手で怪獣を持ち上げて、足の底を噴射させて、空高く飛んで行った。持ち上げた場所は鳥居の上で、被害無し。
そこまでなら、まだ何かのエンタメとか投影技術のテストとかで理解できる。しかし話はそこでは終わらなかった。
怪獣に侵略されかけた商店街が、買い物客を含めて「二次元」になっているのだ。俺たちのところから見ると、視覚のうち正面の長方形部分が二次元の「絵」となって、その外は普通の3次元の光景なのだ。その境目はシャープで、建物の中には半分二次元の絵、半分3次元の実空間に見えるものもある。
映像技術にしてはあまりにも変だ。念のために横に移動して視点を変えても、二次元に切り取られている部分は
変わらない(視点が変わっているので、もとの長方形が台形と菱形の中間に変形しているけど)。
そして、二次元の部分の光景は、確かに『原子』ヒーローの時代に相応しい商店街の姿となっている……コンビニも自販機もない、1-2階建てのみの古き商店街だ。
その『二次元』空間の中には、仮名女もいる。二次元の絵に加わった彼女は、唖然とした様子の人々を確かに象徴していて、この画面にマッチしていた。
元ネタは漫画の神様の人型ロボットです。




