第1幕:プロローグ 「漫花壇」
文化祭。
我がクラスの出し物は「漫花壇」。
二コマ漫画を地面に描いて、そこに2週間前に野菜の種を撒いて文化祭当日に緑の「線」になるように作るという凝った内容で、花壇使用の許可の取り方から始まって、種まきの方法や、種を発芽させる手順をポスターとビデオで発表するというものだ。
説明には、漫画のアイデアがどうして生まれたかとか、どうしてその品種を選んだかなども含む。花じゃなくて野菜なので、名前は確には「漫画花壇」の略称の「漫○壇」ではなく「漫画菜園」の略称の「漫○園」が正しいそうだが、場所が学校の「花壇」なので「漫花壇」になったのは、学校側との交渉でそうなったとしか言いようが無い。
漫画は3つあって、ヒーローものと、忍者もの、男装王女の恋、甘酸っぱい男女もの。
男キャラ(引き立て役)はモヤシ、女キャラ(主人公)はカイワレ大根、怪獣・敵キャラはピーマンを使っている。なぜって、季節関係なく発芽しやすいから、ってのは表向きの理由で、本当の理由はヒミツ。
ともあれ、発表は自己採点及第点(そもそも花壇に来る人が少ないんだよね)ということで、後は片付けのみ。といっても取り除くのはポスターとビデオのスクリーンぐらいで、後片付けの終わった時刻は2時。
明日は振り替え休日で、学校側も片付け+親睦会の為に今日の午後を空けてくれている。漫画の世界では後夜祭なるものが企画されたりするが、じゃあ、後夜祭の後片付けは誰がするの?という現実論により、実際は各自の責任でということになる。
学校によっては、打ち上げ会場としての教室の使用も、当日申請で認めれたりするが、実働メンバーが少ない場合は
『打上げ、したいよね』(女子)
『日の出食堂は**部に抑えられている』(女子)
「日の入り屋は?」(男子)
『たこ焼きは、ちょっと…。あそこ狭いし』(女子)
「っていうか、手頃なところは全部かち合うと思う」(男子)
という具合に、少人数で打ち上げを行なう流れになる。
文化祭の打ち上げなんて、漫画の世界ではファミレスやファーストフードかも知れないけど、それは大都市限定・漫画限定の空想。節約を重んじる地方では、良くてどこかの大衆食堂、多くの場合は
『他のチームとかち合わない=待たされない』
という理由を優先させて個人宅を使うことが結構ある。特に同性どうしならそれが主流だし、男女混合でも
「そういや、お前、徒歩通学だろ?」
「まあ、確かに1km無いけど、女子は大丈夫?」
『どの辺りなの?』
「(大雑把な説明)」
『バス停まで送ってもらえばいいよ』
『うん、あたしも』
『ごめんなさい、私は別の用事があるから』
『うちは門限が6時だから、それに間に合えばいいけど』
という具合で誰かの家にお邪魔するということもある。田舎に多い畳の間だと、収容人数が増えるからだ。
俺たちのチームで、家が学校から一番近いメンバーが俺。人数が男女合わせて10人で、六畳間でも十分に入る数だったことも、我が家になった理由の一つだ。男子より女子が多いのは、こういう「騒ぐ」機会が男子に比べて少ないのと、実働メンバーに男が少なかった(帰宅組や部活組は逃げる)ことがある。
ともあれ、俺にとって大切なのは、この女子の中に気になっている女の子もいるということ。
打ち上げに必要な炭酸ジュースとスナックは、自転車通学組の連中(男2、女2)が買って来てくれる。だから俺は、もう一人の徒歩通学の野郎と共に、女子4人を率いて自宅に向かう。
途中、商店街の端を渡る。反対側は神社の裏参道になっていて、交通量が少ない割に道は広い。神社の裏側だけに、バス通学するような女子の中には、こちら方面に疎い子もいて
『へえ、ここが裏参道なの?』(女子)
と関心してくれたりする。
地元に興味を持ってもらえるのは嬉しい。ついつい
「うん、だから商店街も生き残っているんだ。一応、全部揃っていて……」
と「知ったかぶり」「説明」を始めてしまった。それが女子たちの好感度を下げると分かっていても。
それどころか
『アリガトウ。じゃあ、行こう』(女子)
と皮肉を言われても、説明を続けることに未練を残すのは、俺の業なのだろう。
そうして、半ば強制的に説明が終わった時、俺に違和感が襲った。
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否、違和感は以前からあった。それが何であるかが分かったのだ。それは商店街。
八百屋2軒、豆腐・揚げ物屋、酒屋、文具屋、金物屋、肉屋、魚屋、タバコ屋、ベーカリー、寿司屋、たこ焼き・焼きそば屋、そばも置いてるうどん屋、夜の飲み屋を兼ねたナントカ食堂2軒、鍼灸、郵便局。一番奥が一の鳥居で、その向こう側に旧国道がある。
タバコ屋は、塩やタバコが専売品だったころの名残で残っていらしく、年寄りの婆さんが店主だ。駄菓子とか新聞とかもそこで買える。
肉屋や魚屋も何とか生き残っているのだろう。ここは畜産が盛んだから、高級品を都会に出荷した余りを、産地とのコネで鮮度を売り物にしているらしい。
コンビニが見当たらないのは、この通りを避けて別の道にあるのかも知れない。というか、私の住む県はコンビニ自体が少ないし、都会だって無い商店街ってのが結構あるし。
ベーカリーは店内でなく道路沿いのウインドウーのみで品揃えが少ないが、店主は少なくとも75歳は過ぎている夫婦なので、儲けは重要ではないのだろう。
でもだ、商店街が全て平屋か2階建てで、背景を含めても見渡す限り3階建て以上がない。それは、あたかも、伝説のバブル時代よりも前の風景を思わせる(バブル前の建築基準法では、2階建てが住宅地域の上限だった)。
そして何よりも自販機が見当たらない。いかに神社の裏参道とはいえ、何時の時代の商店街だろうか?
違和感は以前から有った。でもなぜか、今まで商店街の異常さに気付かなかった。そして、これに気付いた次の瞬間、
つんざくようなピューという音が商店街の方から聞こえて来た。
ネット小説で定番に「ゲームや漫画の世界に転生」という設定があります。
ここで(私にとって)不思議なのは「似顔絵でもないのに、どうして二次元の記憶だけでゲームや漫画の登場人物とわかるのか」ということです。それを表現しようと思ったら、こんな作品になってしまいました。




