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終幕、第1場:花壇の記憶

ここから起承転結の「結」となります。


ジャンルも変わり、今までの「SFホラー」よりは「歴史」「推理」のほうが相応しくなります。

母校の校舎の立て替えで、旧特別棟が壊されることになった。少子化による定員削減で、最初期の鉄筋コンクリート校舎を、日射よけ付きの競技場にすることが決まったのだ。猛暑対策という名目で。

 旧特別棟は本校舎群の南西端にあり、本校舎より運動場に近いという立地も、立て替えの理由の一つらしい。


取り壊すに先立って、旧特別棟が卒業生向けに解放された。

 冬休みの、補習すらやっていない期間で、学年同窓会もついでにやって下さいという意味もあったようだ。

 もっとも、母校訪問を希望した学年は全部で25程度しかなく、そのお陰で、交代込みで2時間の枠が各学年の訪問時間として宛(あ)てられた。


俺は意気込んで参加した。

 訪問後の同窓会に多くの参加者が期待できそうだったし、何より解放は、旧特別棟だけでなく、その裏庭も含むからだ。

 そこは文化祭で漫画花壇を作った思い出の場所だ。いや、確認したい思い出と言うべきか。


俺には複数の記憶がある。いずれも文化祭前後の記憶で、どれが正しいのか分からない。それどころが全て間違っているようにも思える。

 異なる記憶の大きな違いは、作った漫画花壇の数と、打ち上げに参加した人数、花壇を掘り返したのがいつだったかだ。

 例えば花壇の数。

 殆(ほとん)どの記憶では4つだが、3つという記憶もある。

 そこで、同窓会の連絡という名の雑談のついでに同級生と話をすると、大多数が3つと答え、4つと答えたのは少数派だった。中には2つと答えた奴もいた。


この程度の記憶の違いなら誰にでもあろう。だが、俺の場合、それに付随する複数の体験記憶が全然違うのだ。

 しかも、どの記憶にも非現実的な現象が含まれている……同級生が漫画や映像のようになってしまうという。

 となると、記憶は全て間違い?


歳を取ると、過去のことを正確に思い出せないだけでなく、複数の経験が記憶に混ざることがある。

 その際に、希望や後悔が混合するのも良くある事で、その結果、多くの記憶が塗り替わる。記憶の混濁(こんだく)という奴だ。

 高齢者ともなると、混濁(こんだく)が複雑化して、同じ体験に対して複数の記憶を持ってしまうことすらある。

 俺の場合、それが若くして起った。しかも、幻覚のような現象も含む形で。

 その一方で、幻覚らしき部分の元となり得るような過去の体験、例えば立体投影(ホログラム)のようなものを実際に見たことはない。


そんな不完全記憶の一つに、文化祭の翌週に、真空管を使った何かの残骸を花壇で掘り当てた、というのがある。

 もしかしたら、学校の立地をより詳しく知ったあとに、俺が記憶改変した結果なのかも知れない。

 だからこそ、埋め立て地であった旧特別棟の辺りをもっと掘ったら、何か出て来るのではないか、と期待した。


真空管の記憶が気になって、学校史を調べたことがある。

 それによれば、学校全体が、昔、洪水常襲地帯に残った池(地理用語では三日月湖)だったらしい。

 なべて、池というのは、洪水の度(たび)に土砂が流れ込んで埋まっていくものだ。

 平野に出来る三日月湖となると、特に流れ込みやすい。

 池であり続けられるのは、雨の多い地方で数百年年。

 日本の平野に三日月湖が少ないのは、これが理由だ。


私の出身校は、そんな三日月湖の跡地の一つに建てられた。市街地の中でまとまった土地を確保するのに、埋まりかかった三日月湖は最適だった。

 校舎建設の際、景観維持と、将来の公共用地として僅かな池が確保されたが、それも、生徒数の急増した1960年前半に埋め立てられた。

 そこに校舎が増築された。

 市内で3番目の鉄筋コンクリート校舎として。

 ここまでは、俺も在校中に知っていた。


新たな知識は、池を埋め立てたもう一つの理由だ、

 それは、ゴミが大量に捨てられて、悪臭を放つようになったということ。

 当時の地方都市には、ゴミの埋め立て場どころか焼却場もなかった。

 ゴミは家庭で風呂のたき付けにしていたらしい。

 燃えないゴミとなると、俺の地元だけでなく全国の多くの池で不法投棄されていたとか。

 (もっとも、当時は法律も不備で、不法ではなかったかも知れないが)

 不法投棄の話は、人づてに聞いた話なので、どこまで本当の話だか分からない。

 だが、真空管の記憶にはハマっている。


投棄ゴミと聞いて真空管を思い浮かべるほど、俺は電気回路にもアンティーク音響にも興味はない。

 勝手に作った記憶というには、不自然なのだ。

 でも、実際に在学中に何かを掘り当てていたとなると話は違う。時期が文化祭とは限らなくてもだ。

 そこから、変な記憶が沢山ねつ造された可能性もあるのだから。


となれば、花壇の跡地を掘ったら、何かが出るのではないか。

 たといゴミが出て来たとして、それが多重記憶の手がかりになるかどうかは分からないが、掘る価値はあるだろう。

 なんせ、跡地に何か施設が出来てしまったら、俺が生きているうちに掘り返すチャンスは二度と無くなるのだから。

 そのうえ、運良く何かが出たら、理由をつけて、ここを大々的に掘り返す機会を得ることにすらなる。

 例えば、地下遊水場も作るという、一部市議の案を、同窓会として支持するようロビー活動を行なうとか【脚注】。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

同窓会の当日となった。

 昼間、取り壊し予定の旧特別棟を訪問し、夕方、場所を変えて同窓会を開く。

 各学年に当てられた訪問時間は交代込みで2時間。花壇跡を掘るのには十分な時間だ。


花壇跡については、前もって校長と交渉し、掘り返しても良いという許可を、半ば強引に貰っている。

 文化祭の思い出を、最低訪問数だったことも加えて、長々と説得したら、許可を貰えた。

 その代わり、うちの学年は一番最後の日の一番最後に回された。

 帰省組には都合の悪い日程だったが、どのみち何処かの学年が貧乏くじを引くのだ。

 それを引き受けて、かつトリという事で、同窓生からの非難はほとんどない。


俺は雑談する時間を惜しんで、花壇跡に直行した。スコップ持参と作業服なので、余り人に会いたくなかったというのもあるが。

 微かな記憶と、教室を句切る柱との位置関係を頼りに、花壇区画を確認した。

 花壇というのは、教室との位置関係を重視するもので、そこから割り出す花壇の最適位置は、長い年月を経ても変わらない。

 それは畑の畝の位置が毎年同じ場所に作られるのに似ている。


1つ、2つ、3つ。そして、4つ。

 そうか。花壇は確かに4つあったのだ。

 ただし4つ目の花壇跡の斜め前には、ヤシ科らしい植物が大きく育っている。

 ヤシ科らしく、葉っぱは上に茂っているだけで、下はストンとなって、花壇の日当りには影響ない。

 でも、当時は低かったはず。

 そこまで考えが及んで、ようやく思い出した。当時は低い位置で茂っていて、4つ目の花壇が日陰になりがちだったことを、


当時の記憶が蘇(よみがえ)る。4つ目の花壇は文化祭では使わなかったことを。11月の太陽は低すぎたのだ。

 描くのに使った「線」は野菜の新芽で、日陰では映えない。それが理由だったと思う。

 その代わり、翌年の春に向けて、花の種を蒔(ま)いた。漫画花壇に色を付けるために。

 文化祭での訪問者こそ最低だったもの、花壇を作った者としては、自然な情だ。

 それで、文化祭後に、有志で花壇を耕(たがや)し直したのだ。


そこで4つ目の花壇も作ることになったが、そのとき、何かを掘り出したのではないか。

 場所は、いま確定した。

 あとは「発掘」するだけ。

 願わくば、多重記憶の原因と正しい記憶を掘り当てたい。

【脚注】以下、本編に関係ないので省略しました。


地下遊水場という案は、ゲリラ豪雨への対策として提案された。

 母校の近辺は三日月湖が残るような低地だ。近年の急増した内水洪水(排水が間に合わなくなるタイプの洪水)の常襲地となっていたのだ。

 半世紀前の下水網を整備した時、下水管の水量計算で「無駄のない」設計をしたらしい。それが仇(あだ)となって遊水場のような対策を考えざるを得なくなっている。

 将来的には、海に向かう道(これも元河道)の下に、下水管とは独立した地下河川を作って繋げる予定だとか。


人口減の地方都市なのだから、地下にせずとも普通に池の復活で十分ではないかと思うのだが、それでは支持が集まらない。市議やゼネコンは箱モノを作りたがるからだ。

 それでも、遊水場を暗渠(あんきょ)化して、その上に日射よけ付きの競技場のみを作るというのはマシなのかもしれない。

 なんせ、遊水場なしの競技場を作ったら、その後、ゼネコンの希望で、なし崩しに大きな建造物を増設するのは目に見えているからだ。

 それで、ロビー活動は遊水池案に乗っかることにした。


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