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12/18

3-5場:3次元目に拡張する二次元

翌日も前日の繰り返しだった。いや、もっと悪いと言うべきか。


朝は確かに全員が実体だった。しかし昨日「漫画」「人形」「AI映像らしき何か」になった連中は、

「キンコン カンコーン」

 という音と共に、同じく「漫画」「人形」「AI映像らしき何か」に戻っていた。

 しかも、より奇麗な造形、即ち、目、鼻、口、眉、耳が漫画っぽい(個性も大きい)それとして。


異常を認識出来る者同士で対策を話し合った結果、とりあえず対策を共有した。

 ・接触は禁物

 ・会話も出来るだけ避ける

 ・その上で、ハブり型のイジメという解釈をされるのを避けるように努める

 ・体育等では、認識出来る者どうして固まって、組になる時の接触(柔軟運動とか)に備える。

体育はサッカーで(ちなみに1年生はダンスらしい)、担当の教師は幸い生徒優先の人で、整列さえしてれば並ぶ順番は気にしない。


それでも当然のように虚像化・二次元化する者は増えていた。時間(というか、違和感のある音)と共に。

 最後の授業が終わる頃は、クラスの4割が人間でない何かに置き換わっていた。

 その被害者に俺が含まれなかったのは幸いだ。


放課後、時間差を意識して花壇に向かうべく、例によって宿題を済ませてから漫花壇に向かった。安全確保のため。

 今日は、例の2人も一緒だ。

 三方を警戒しながら校内を歩く。

 途中、恐れていたとおり、漫画っぽい音が聞こえる。テニスの魔のサーブが金網にからまる「バン」「ドカン」「シュルルー」とか、校舎3階から植木鉢が落ちる「ヒュー」「パリン」とか。

 いずれも、音源に近い人間が、明らかに2次元や映像に見える。3人で手遅れと判断して、無視して漫花壇に向かった。


水は撒(ま)かれていなかった。

 担当者5人(映像または人形)は、全員が放課後、直(す)ぐに教室から居なくなったのにだ。

 もっとも、その辺りは想定内だ。昨日、水()遣(や)りしたばかりなのだから、今日は必ずしも必要ではない。


問題は4つ目の漫花壇、俺たち3人で作った「3組のカップル」のほうだ。昨日の異常な成長が気になっていたのだ。

 そこに蒔(ま)いた植物は更に成長し、花のほうに至っては、つぼみまでついていた。

 二次元の漫画は確かに3次元目に浸食していた。


気を取り直して、バケツやスコップを置いている倉庫に行く。折角来たのだから、水()遣(や)りぐらいはしたい。

 扉を開いて再び目を疑った。

 そこにはバケツの「絵」が如雨露(じょうろ)の「絵」の横に置いてあったからだ。

 二次元化した仲間(カナオ・カナヨあたりか)が、バケツを取り出そうとして二次元化したとか?

 二次元化した故に、実体のある水を扱えなくなったとか?


余りに非現実的な思考なのに、それを当たり前の可能性として受け止めている俺がいた。

 その思考の延長で、異常成長を見せている花壇こそが、二次元による浸食の元凶ではないかという感想が浮かんだ。

 そういう葛藤をしていると。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

「カン」

 という音がした。不自然な音。ヤバい奴だ。


反射的に音源のバケツのほうを振り向くと、その横に見える女子の足先が二次元「漫画」のように見えた。

 二次元はジワジワと上へ上へと広がっている。

『あんた、足』

『キャッ。なにこれ。あたしの足!』

 どうやら俺の見間違いではなさそうだ。


一瞬、我が身かわいさに、彼女から距離を取ろうと思ったが、直ぐに気を取り直した。

 俺は昨日、決心したではないか。これ以上、被害者を増やさまいと。

 この2人と俺との間の縁はほとんどない。余り者による漫花壇を作っただけの関係で、今年度が終わったら、ほぼ確実に赤の他人に戻る。

 でも、だからこそ危機から救うべきなのだ。

 急いで彼女の腕を取って、倉庫から避難させた。


もはや一刻の猶予もない。

 直感的に、異常な成長を見せる漫花壇「3組のカップル」だ。

 カップルは更地に戻さなければならない。

 倉庫を見ると、スコップは実体があるように思える。もしかしたら既に二次元化しているかも知れないが、一(いち)か八(ばち)かだ。

 意を決して、スコップを取ると、幸い、それには実体があった。


「俺たちの花壇を壊すぞ」

 と宣言して走って行く。

 そんな俺が、その場から逃げようしていると思ったのか、もう一人の女子は

『ちょっと、助けてっ、たら』

 と咎(とが)めるが、

「そのためだ」

 という俺の返事に、言い分を悟ったのか、遅れて鍬(くわ)を手に取って追いかけてきた。

 二次元化が進行中の女子も剪定(せんてい)鋏(ばさみ)を手に、追って来る。


掘り返すべき野菜と花は多い。その間にも、二次元化はじわじわ進んでいる。

 10分後、漫画のキャラを2人分掘り返した時、彼女の片足はスカートの下部まで二次元漫画となっていた。

 20分後、キャラを2人分掘り返した時、スカート全体が二次元化していた。それでもさっきよりは遅い。

 30分後、キャラを3人分掘り返した時、二次元化は直ぐ下に達していた。実体があるのは肩から上と腕のみ。


それでも、俺たちは間に合った。

 『3組のカップル+1人』の漫画を全部掘り返したとき、彼女の二次元化は止まったのだ。首から上と、肘から先を残して。

 花壇の脇(わき)に目を遣(や)ると、苦労して掘った挙げ句に引き抜いた野菜や花は、いつしか、小さな苗、萎れかかった苗になっていた。


掘り返している時、土の下にガラスらしきものの感触があった。

 となれば、それまで掘り出すのが自然な流れだ。

 そうして、掘り出した物は、真空管が複数ついた残骸だった。

 抵抗とか配線とかはボロボロになっていて、残骸が元は何だったのかは分からない。


これ以上、俺たちに出来ることなぞ無い。だから真空管の残骸を前にあれやこれやと想像(現実逃避?)した。

 真空管で連想するのは、玉音放送で出てくる旧式ラジオ。そして、その元となる増幅器(アンプ)だ。

 そういえば、あの花のつぼみ、なんとなくポピー(ひなげし)を連想したなあ。

 幻覚の増幅。オカルト的には十分ありうる。

 真空管が「私を掘り出して下さい」と願って、芥子(けし)による幻覚を増幅させたとか。


こういう時の定番は、丁寧に洗って、ちゃんと安置すること。いずれにしても、他にやれることは無いのだから。

 水場まで持って行って洗うと、ラジオというよりは拡声器のような気がして来た。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

洗い終わった直後から、微かな音楽が聞こえている。

「タータ タン♪, タータ タン♪, タータ タータ タン♪」

 ドボルザーク原曲の、故国を懐かしむメロディー。

 テレビ等で、下校時刻を告げる音楽の定番だが、俺はまたかと身構えていた。

 この学校に下校時刻を告げる音楽なんてないからだ。

 でも、何故だか、今の状況にしっくり来ていた。


洗い終えた真空管付きの残骸を両手で丁寧に支えつつ、2人の所に戻る。

 あの音楽の結果が気になるのだ。

 そこには二次元化が解けて、喜びあっている2人がいた。

 意外ではなかった。なんとなく、そんな予感がしたのだから。


校門に向かう途中、部活の連中を見ると、二次元化は完全が解けている。

 部活を表(あら)わす「効果」音も消え、自然な音が校内を支配していた。

 平常は翌日も続いた。


でも、いつ同じことが起るか、俺には分からない。

 それどころか、俺自身が二次元の世界に囚(とら)われて、全てを正常だと誤認識しているのかも知れない。

夏休みが終わったので、終幕の更新は遅くなります。



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