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3-3場「カキーン、エッホ エッホ、カキーン、エッホ エッホ」:放課後を意味する部活の音

放課後、30分で宿題を済ませてから「漫花壇」に向かった【脚注】。

 外に出ると

「カキーン、エッホ エッホ、カキーン、エッホ エッホ」

 という部活の音が聞こえる。ただし、違和感を感ずるほどに、部活のみの音で、


奇麗すぎるのだ。風の音や鳥の囀り、遠く国道の音などが、まったく混ざってない。まるでテレビで聞く音のように。

 そもそも、音から推察されるバッティング練習は、こんなに早くは始まらない。

 着替えて準備運動を済ませ、ウォームアップで走り出すまで、どんなに早くて20分。

 バッティング練習ともなると更に15分ほど遅くなるはずだ。

 今まで両方の音が聞こえたのは、少なくとも終礼から40分後だった。


グラウンドのほうを見ると、どこかの部が集団走をしている。テニス部や陸上部は柔軟運動のようだから、サッカーかラグビーか。

 問題は野球。

 バックネットはいつもと変わらないのに、人だけが二次元の漫画に見えてしまった。

 そして、ランニングの掛け声も、その走るリズムから、漫画の連中が出しているように見えた。

 また?


俺がよく見ようと、野球スペースの方へ脇見しながらゆっくり歩いていると

『○△くーん』

 という声がしてきた。仮名代(かなよ)だ。正面方向から歩いてきている。

 その少し後ろには仮名男(かなお)が、急ぎ足で近づいていた。


昼のゲリラ放送で宣伝された「漫花壇」の確認に行ったのだろう。

 となれば俺のセリフは決まっている。

「どうだった」

『ぜんぜーん。1年のカップルが1組だけ』


やっぱりか。少しだけ期待はしていたけど、現実はこんなものだ。

 カップルだって、校内デートができるなら何処でも良いわけで、それほど興味があったわけじゃないだろう。

 立地が悪すぎるのだ。


そう落胆した時。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

「ドーン、ヒュー」

 サッカーボールを蹴る音と、それに続いてボールが飛んでくる音が聞こえて来た。


ボールが飛ぶ音が聞こえるというのも変だが、もっと変なのは、何故だか見えてしまったボールだ。

 妙に楕円というか、のっぺりとしているのだ。漫画の高速ボールの表現のように。

 音の質も変だった。アニメの効果音みたいに非現実的なのだ。


そういう場違いな感想を抱いたせいで、気がつくのが少し遅れた。ボールの向かう先に、男子生徒がいることを。

 彼は5mほど斜め前を歩いて、ボールは死角から飛んできている。

 警告出来る者がいたとしたら、一番近いの俺。だが、

『危ない!』

 先に声をあげたのは、俺より見えにくい位置にいた仮名代(かなよ)だった。


その直後ですら俺は声を上げられなかった。件の男子が漫画に見えてしまって、俺自身が固まってしまったからだ。

 だから、俺が

「後(うし)ろ! ボール!」

 と叫んだ時は、ボールは彼の肩にぶつかる直前だった。


「ドン」「バタン」

 そのまま男子はバランスを崩して、片腕と膝で身体を庇いながら倒れ込む。

 擦(す)り傷を作る倒れ方だ。


すぐに仮名代(かなよ)が駆(か)けて行った。その彼女を仮名男(かなお)が追い抜いて行く。

 俺は一番近い所にいたにも関わらず出遅れた。

 足は踏み出したものの、二歩で止めてしまったのだ。

 件の男子が二次元に見えるという違和感のみで。


遠くから

「すみませーん」

「大丈夫ですか」

 という声が、何故かクリアーに聞こえてくる。

 そちらを見ると、2人ほど走って来ていて、2人を含めてサッカー部全員が漫画になっていた。先ほどまでは確かに実体だったのに。

 同じ視界に入(はい)っている陸上部とテニス部、集団走の連中は、相変わらず実体に見えるのに。


その2人が到着する前に、仮名男(かなお)が倒れた男子に手を貸した。

 その瞬間、仮名男(かなお)までも漫画となって、顔立ちから立体感が消えた。

 ハンカチを出した仮名代(かなよ)も、続いて二次元となった。

 (漫画の)被害者に擦り傷らしきものは見えない。

 でも、念のために計4名に付き添われて、保険室に向かった。


俺は何も出来なかった。

 目の前の被害者に手を差し伸べることが出来なかった。

 結果論としては、それが身を守ったの知れないが、釈然としない。

 俺の錯覚かもしれないからだ。その場合、俺は、客観的には被害者を見捨てた臆病者だ。


錯覚というのは十分にあり得る。昼間、教室で変なものを見たせいで、普通の人物すら二次元に見えてしまってもおかしくない。

 トリガーは『違和感のある音』。

 ……あれ? 俺ってこんな知識、どこで得た?


せめてもの罪滅ぼしに、俺は、二次元化の被害者をこれ以上出さないぞ、と決心するのだった。

明日も更新します

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脚注:筆者が通った学校では、放課後、宿題を済ませてから帰宅したり部活に行ったりした生徒がいました。

 教室で宿題をすると、分からない所を即座に聞けるという利点があり、更に宿題のような無座な雑事を忘れて部活に専念出来る(帰って即寝る)という利点もあったからです。

 で、この物語では、人形化・映像化・二次元化した連中に限って、直ぐに教室から居なくなっており、主人公は安心して教室に残れました。

 教室に残った理由はもう一つあって、人形化・映像化・二次元化した連中が校内から居なくなるのを待つというもの。それが功を奏したかどうかは、本文で。


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