1ー5 ①
見下ろした先では、この夏から養子として引き取った娘が、瞳を潤ませてこちらを見つめ返していた。
ルイーズとの面談を終え、アニー達と合流すべくロランと向かう途中、どういうわけか一人佇むルウィヒを見付けたのが、つい今しがたのことであった。
先に行くようロランに頼み、傍へ寄ってルウィヒに声を掛ければ、いかにも途方に暮れる娘の顔を目にしたというわけである。少女の狼狽が、どうやら手にある商品に由来しているのだろうというのは察しがつくのだが、問いかけてもルウィヒは固まったまま答えを返さないので、アンリエッタも事態を図りかねている。
「ルウィヒ?」
再び、名前を呼ぶ。なぜ一人なのか、あからさまに焦った様子でいる理由はなんなのか、答えが掴めるかと思ったが、少女は何ともできなさそうな表情をして俯いてしまう。
「えっと。そのブローチが欲しいの?」
しゃがんで問いかけてみて、少女の手の甲に触れる。かつて施された魔法の実験で発話能力を失ったルウィヒは、それと引き換えに、触れた存在と思念を交信する能力を持っている。
……壊しちゃった。
少し待って頭に伝えられた答えはそんなもので、「え?」とアンリエッタは少女の両手に視線を移す。ぱっと見た感じ、指に掴まれたブローチには欠けも割れも見当たらない。
「壊した?」
ごめんなさい。
「えっと、うん、大丈夫。壊れちゃったっていうのは、どこ?」
最初は真ん中、青くて。触ったら消えちゃった。
「……?」
事情を聞いたものの状況を掴めずに、アンリエッタは棚の方を見る。『ゾーラの雫』と称されたブローチの説明書きには、秘伝の魔法技術により着色された霊素の云々との内容が記されていて、どうやらその辺りの原因で起こった事態であることが知れる。
「……うーん」
わかったものの、状況は少し複雑だった。不具合はあくまで不慮のものだったが、推測するにルウィヒの特殊な体質が引き起こしたものなのだろう。あまり事細かには説明すべきでないこの事情をいかように伝えるべきか。
「お気に召しましたか」
悩んでいると、声をかけられる。
黄色のワンピースの胴回りをリボンで締めた女性店員が、にっこりとした表情と共に店先へ顔を出してくる。
「綺麗ですよね、そのブローチ。ずっと見ていられるからよくお子様に好まれるんです。それでご家族の方もお気に召して買われるというのが多くて……」
微笑んで少女の方を見下ろしていたのからそっと視線を流し、アンリエッタへと目を向ける。
「アクセサリって、小さい時でも憧れですものね。特に、年上の方が身に付けているものなんて、そう。ついこの間も、子連れのお客様がいらっしゃって……『大きくなったら貴方にあげましょうね』なんて気の早いおさがりの約束なんかをね、わたくし本当、心が洗われる気分が致しましたわ」
遅ればせながら、接客を受けているのだと気が付くアンリエッタである。
光景の微笑ましさには同意するが、今の心の揺れ動きはそうした類のものではない。視線を泳がせて言葉を探していると、「あら?」と店員が気が付く。
「青いの、消えてるわね? ……不良品だったのかしら?」
呟いて、即座に頭を下げられる。
「誠に失礼を致しました。すぐに新しいものをお持ちしますので、どうかそのままお待ち下さい」
「あ、いや、その」
立て続けに商品を駄目にするだろう予感がされて、慌てるアンリエッタである。不具合がこちらの落ち度であれば買い取る必要も出てくる。
引き止めようと言葉を並べかけたところで、さらに会話に加わる人物があった。
「ウチの商品がどうかしたのかね?」




