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ちょっと行って戻るだけ。
それが、ルウィヒの行動の念頭にある指針であった。
というのも店内を回るさなかに遠目に見つけた『キラキラ』が、どうにも気になった。金の縁取りと不可思議に青い中心。アニーとレームにくっついて回った二、三の店舗にも興味深いものはあったし、美しく感じる瞬間もあったが、一部が上下階へと吹き抜けている通路の向こう岸に見えた『煌めくペンダントらしきもの』が、少女の目にはとりわけ格別だった。
近寄って見て、あわよくば触れたい。
できれば、一人で。小うるさいレームから小言を受けない中で。
それで抜け出した。三人で入った喫茶スペースで、レームが手洗いにと席を立って、アニーが会計のためにボーイと話している隙を付き、「自分も化粧直しに」との書き置きを残し走り出した。建前に使ったトイレも無視して、一目散に。小さな体が混雑を苦にしないとは言い難がったが、店舗の位置はしっかりと記憶していて、順調に目的地へ辿り着く。店先だけなら十秒足らずで通り過ぎられてしまう、小ぢんまりとしたスペース。ちょっとした装飾品と生活小物を扱う店の入り口の角の棚に、目的のものは飾られている。
リボンめいた形に結ばれた金細工の、その非対称なメガネ状の内側。外周の細工を縁取るように走るガラスのチューブ、それに絡まれた中央の球体の中には、真っ青なゆらめきが灯っている。絵の具めいた鮮やかさを示した青には一定でない濃淡があって、不可思議にも、その性状を留まらせずに波打っていた。
どうぞ手に取ってご覧ください……と、人通りから良く目に付くよう棚に飾られたブローチの脇にはそんな但し書きが付されていて、少女の食指が近付くのをむしろ歓迎していた。けれどもその事実とは関係なしに、ルウィヒの意識はそのキラキラに吸い寄せられている。恭しく、飛び立たぬ小鳥を掴まえるみたいに捧げ持とうとして――
そして、潰える。
ぱちりと少女の親指を突く細い衝撃があって、透明なガラスの中身が瞬時に失せた。
「まめっ」
驚きと共に手を引く。
「……」
しばらく静観してみて、戻らない。
「ご、む……」
吐息に詰まるものを感じながら、声を落とした。
もしかすると、これは自分が原因なのかもしれなかった。
実際のところ結論付けるには根拠が不足していたが、ルウィヒにはとにかくそう思えた。
途端、全身にじとりと汗を感じて、様々なことを考える。ここに至るまでのルウィヒの行動は、決して称賛されるものではなかった。朝起床してからここまで、レームの小言は十を数えたし、今だってアニーを出し抜いてこの場所に立っている。加えて、これだ。大変な所まで至ってしまったという気持ちで、頭がいっぱいになる。
さあっと背筋に冷たさが差すのを感じながら、おっかなびっくりと手を伸ばした。祈りたい気持ちでブローチを胸元まで取り上げて、縁や表面を撫でる。何かの間違いではないかという思いがあったが、薄い期待はむなしくも破れて、ガラスを透かした内側の灯火は、いくら擦っても戻らない。
良い子にしててね――。
さっき言われたことを思い出す。ひどく、ふがいない気持ちで立ち尽くす。そうして俯いて視線を注いでいた手の中のブローチに、横から影が差した。
「――ルウィヒ?」
さっき思い起こしたのと同じ声で呼ばれて、ルウィヒは顔を上げる。
ふいに隣に立っていたのは、首を傾げどうしたことかとこちらへ目を凝らす、アンリエッタだった。
「だいじょうぶ?」
訊かれる。
隠したいような縋りたいような感触が胸にうずいて、けれどもどちらも即座にできないままルウィヒは繰り返し、小さく口を動かすばかりだった。




