表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/19

1ー4

 ちょっと行って戻るだけ。


 それが、ルウィヒの行動の念頭にある指針であった。


 というのも店内を回るさなかに遠目に見つけた『キラキラ』が、どうにも気になった。金の縁取りと不可思議に青い中心。アニーとレームにくっついて回った二、三の店舗にも興味深いものはあったし、美しく感じる瞬間もあったが、一部が上下階へと吹き抜けている通路の向こう岸に見えた『煌めくペンダントらしきもの』が、少女の目にはとりわけ格別だった。


 近寄って見て、あわよくば触れたい。


 できれば、一人で。小うるさいレームから小言を受けない中で。


 それで抜け出した。三人で入った喫茶スペースで、レームが手洗いにと席を立って、アニーが会計のためにボーイと話している隙を付き、「自分も化粧直しに」との書き置きを残し走り出した。建前に使ったトイレも無視して、一目散に。小さな体が混雑を苦にしないとは言い難がったが、店舗の位置はしっかりと記憶していて、順調に目的地へ辿り着く。店先だけなら十秒足らずで通り過ぎられてしまう、小ぢんまりとしたスペース。ちょっとした装飾品と生活小物を扱う店の入り口の角の棚に、目的のものは飾られている。


 リボンめいた形に結ばれた金細工の、その非対称なメガネ状の内側。外周の細工を縁取るように走るガラスのチューブ、それに絡まれた中央の球体の中には、真っ青なゆらめきが灯っている。絵の具めいた鮮やかさを示した青には一定でない濃淡があって、不可思議にも、その性状を留まらせずに波打っていた。


 どうぞ手に取ってご覧ください……と、人通りから良く目に付くよう棚に飾られたブローチの脇にはそんな但し書きが付されていて、少女の食指が近付くのをむしろ歓迎していた。けれどもその事実とは関係なしに、ルウィヒの意識はそのキラキラに吸い寄せられている。恭しく、飛び立たぬ小鳥を掴まえるみたいに捧げ持とうとして――


 そして、(つい)える。


 ぱちりと少女の親指を突く細い衝撃があって、透明なガラスの中身が瞬時に失せた。


「まめっ」


 驚きと共に手を引く。


「……」


 しばらく静観してみて、戻らない。


「ご、む……」


 吐息に詰まるものを感じながら、声を落とした。


 もしかすると、これは自分が原因なのかもしれなかった。


 実際のところ結論付けるには根拠が不足していたが、ルウィヒにはとにかくそう思えた。


 途端、全身にじとりと汗を感じて、様々なことを考える。ここに至るまでのルウィヒの行動は、決して称賛されるものではなかった。朝起床してからここまで、レームの小言は十を数えたし、今だってアニーを出し抜いてこの場所に立っている。加えて、これだ。大変な所まで至ってしまったという気持ちで、頭がいっぱいになる。


 さあっと背筋に冷たさが差すのを感じながら、おっかなびっくりと手を伸ばした。祈りたい気持ちでブローチを胸元まで取り上げて、縁や表面を撫でる。何かの間違いではないかという思いがあったが、薄い期待はむなしくも破れて、ガラスを透かした内側の灯火は、いくら擦っても戻らない。


 良い子にしててね――。


 さっき言われたことを思い出す。ひどく、ふがいない気持ちで立ち尽くす。そうして俯いて視線を注いでいた手の中のブローチに、横から影が差した。


「――ルウィヒ?」


 さっき思い起こしたのと同じ声で呼ばれて、ルウィヒは顔を上げる。


 ふいに隣に立っていたのは、首を傾げどうしたことかとこちらへ目を凝らす、アンリエッタだった。


「だいじょうぶ?」


 訊かれる。


 隠したいような縋りたいような感触が胸にうずいて、けれどもどちらも即座にできないままルウィヒは繰り返し、小さく口を動かすばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ