7ー3 ②
「さてそれで、どんな用事だったか」
水を向けられ、頷きを返す。会話がようやく本題へと移って、アンリエッタは事情を語る。
即ち、ルネのこと。
売り出し、顧客を得たい商品があること。
ボン・リシェスとの契約により、その商品が本来他に売り出すことができないこと。
「そこで、今回の協業を利用して、商業組合を通じた仕事ができないかと考えました。ベルナール様には、どこか良い取引先とお引き合わせ頂けないか、と」
商売人としての人望と人脈に優れながらも、利他的な姿勢を高く持っている。アンリエッタから見たベルナール・ショパンとはそういう人間で、若い世代への配慮も深い彼は、ルネの件で頼るのに打って付けの人物ではと思われた。
さて、当の老紳士は果たして、深く考えるふうに眉間に指を置いている。
「商品に関しては、まずは一度見せて頂いた上で……ということになるが」
やがてそう切り出すと、ベルナールは目元から手を離し、机に注いでいた視線をこちらへ向けた。
「君の狙いは、実際、見込みがあると思う」
提案をそのように評して、続ける。
「あちらにだって自店で独占したいものそうでもないものがある。苦境を察するに現時点では、君が俎上に上げたい商材に百貨店は重きを置いていないだろう。少なくとも、あれこれと理由を付けて拒否するということはないはずだ。意地にならない限りはね」
「――では」
前向きな手触りの見解に身を乗り出しかけたアンリエッタを、ベルナールは一つ手を挙げて制する。
「まあ、待ちなさい。君の上司は、それで良さそうな顔をしていないぞ?」
幾分楽しげに言って、同様に愉悦を含んだ視線をロランの方へ向ける。
隣に座る皮肉屋の上司が、大義そうに肩を竦めた。
「ボン・リシェスは我々の顧客でもある。もちろん案件自体が別物だし、最後には契約者同士の取り決めになるわけだから助言や交渉が法に触れるということはないが……過剰な肩入れは職業倫理上推奨されない」
淡々と述べて、ロランはアンリエッタを薄目に見る。
「加えて規則を盾に承服させるような真似も、マダム・ユエからの心証を悪くする。文字通り『盾突いた』と取られかねないわけだ。君やあの子がどんなふうに考えているかは知らないが、今後あの女傑に目を付けられながら仕事をするようなことは、私なら避けたいね」
ロランの懸念には、ベルナールも頷いてみせる。
「彼の言うことはそのまま、私が紹介する人間にも当てはまってくる。何らか他で牽制を受ける可能性もあるし、商売への影響は軽視できない」
「……ルイーズさんが損に思わない構図を用意しておく必要がある、と?」
「そこまで行けば百点だが、せめて角を立てないやり方を取って欲しい、といったところかな」
アンリエッタは視線を下げ、少し考えてみる。
懸念されている点は、よく理解できた。アンリエッタにしてみても誰か他へ迷惑を被ってしまうような結果は避けたい。
しかし――
「その。何から何まで頼りにするのも良くない、とは思うのですが……」
おずおずと切り出したアンリエッタに、ベルナールは息を漏らして笑ってみせる。
「なるほど。ヒントが欲しいかね?」
「はい」
即答すると、ベルナールは寛大にも瞳に愉快さを湛えたまま、言う。
「ではその潔さと賢明さに免じて、私の思うところを話そうか。どれだけ頼りにしてもらうべきかは、わからないけどもね」




