6ー1 ②
「わかってるってば。アンちゃんもその子たちも、真剣だ。だから、気持ち、ちゃんと聞こうって思ってるんでしょ?」
「っ」
見透かされたふうに言われて、声を詰まらせる。
割り切れずに複雑でいる心境が、あった。子供たちに徹頭徹尾反発するわけではないが、といってどこまでも同調できるかと言われれば、そうではない。けれども。
けれども――どうしようもなく揺さぶられている心が、ある。
情動を持て余して言葉を出せないまま、アンリエッタは子供たちを眺める。ふと、ルウィヒが動きを見せて、腰元に提げた筆記具をいじくり始めた。
『ごめんなさい』
一枚出したカードには、そんな言葉が書かれる。
『勝手なことして』
札を繰ってさらに示す。
『でも、ルネにあきらめてほしくない』
綴った想いをこちらへ伝える。
『助けたい。エッタが、そうしてくれたみたいに』
「……そんなの」
アンリエッタは険しく目を細めて呟いて、しかし続く言葉を飲み込んだ。芽生えた意志を示すみたいに、少女の胸元のブローチが青を湛えている。
一度、息を吸った。
ルネを見る。
「ルネさん」
「は、はい」
「家出のことに限らず、おじいさまはルネさんのことを、とてもご心配なさっています。それは、ちゃんとわかっていますね?」
頷かれる。
あどけなく澄んだ眦がこちらを見ていて、徐々にそこに嘘のない真剣さが募っていくのを、アンリエッタは明敏に感じ取る。
「あなたのことを軽んじてもいない。結婚のことにしても、本当に、あなたの将来を案じてのことです。実際、生活の見通しは厳しいですし、ここで暮らし始めたとしても、それが即座に解決することはありません。むしろ、もっと、厳しいものになる可能性だってあると思います」
「はい、でも――」
「それでもあなたは、ここでやれることを探したい。……そうなんですね?」
じっくりと見つめて、問いかける。
そこに言葉を染み渡らせていくみたいに、ルネの目が少しずつ見開く。
金の瞳が意志を宿らせたように据わって、それから深く頷いた。
「……わかりました」
仕草を見届けたアンリエッタは、思いを受け止める心地でひと時目を閉じる。
そして再び、ルネの瞳をまっすぐに見た。
「では、一緒に考えましょう。こちらに住むのなら、色々と決めないといけないこともあります」
そう伝える。
宣言に、ずっと動向を注視していたレームとルウィヒが顔を合わせ、それからルネに目をやった。
にやりと頬杖を突いたアニーの目線もそちらを向く。
めいめいの注目をさらったルネは、けれどもすぐに合点がいかなかった様子で、息を詰めてその場に佇んでいる。声を待ち受ける静寂の中で呆然と、ただ瞬きをした。唇は薄く曖昧に開いて、それがやがて、弾かれたように大きく開く――
「がっ、」
にわかに喉から飛び出した声音は一度躓き、でもめげない。細い胸が精いっぱいに膨らんで、少女に声を上げさせる。
「頑張りますっ!」
叫ぶようにそう言って、続けた。
「私、すごく、頑張りますから!」
気持ちを収めきれなかったみたいに言葉を繰り返して、ルネは深く頭を下げた。
「どうか……どうぞ、よろしくお願いします!」
熱を伴う茜の中に、ルネの声が高らかに響く。




