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やがてペンと制度の力で 〜公書士アンリエッタ2〜  作者: ke
第4話「彼女たちとの短くも眩い日々」
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29/32

4ー5

 壁を隔てた場所から叫ぶ声がして、ルネが外へ飛び出したのを窓から目撃したのが、その夜のことだ。


 月明かりに照らされた奥の方で、ルネの姿が小さくなっていく。その様子を、二階の部屋の窓辺に立ってブローチを眺めていたルウィヒが、捉えている。


 つい先ほど、昼間から籠りきりにしていたルネが、ルウィヒ達のいる客間まで顔を出したところだった。


 きらめく金色に縁取られたブローチの完成品を渡されて、それを、アンリエッタとレームとで誉めそやす。ルネは作業に向き合っていた時の元気さとは裏腹に口を噤んでいて、でも称賛を少しくすぐったそうに、口元を緩ませていた。


 ――あ、や、お代は。……もらわない約束じゃ。


 慌てた声を出したのは、アンリエッタが謝礼と言って取り出した封筒を見た時だ。


 ――はい。でもやっぱり、色々と手間を割いて下さったと思うので。アンドレさんには断られてしまったんですけど……数日の宿代とでも思って、受け取っては頂けませんか?


 ――ええと。あ……、どうも。


 差し出された封筒をつい手にしてしまったという様子のルネは、受け渡しを終えて腕を引っ込ませたアンリエッタを呆然と眺めたが、やがて小さく頭を下げた。


 両手で握られた封筒に、わずかに皺が寄る。


 ――あの、アンリエッタさん。


 ――はい。


 ――お爺ちゃんと、話してこようと思うんです。今から。


 ――……はい。


 アンリエッタは、応答と共に一度ゆっくりと首を縦に振り、次に繰り返し頷いた。


 ――そうですね。きっと、大事なことだと思います。


 言ったアンリエッタのことをルネはちょっとの間見つめて、それから肩をせり上げ部屋を出ていく。その背中を見送ってからしばらく経って、悲愴な叫びがこちらまで聞こえてきたと、事の流れはそういうものだった。


「……なんだろう?」


 椅子に座るレームが、誰にともなく訊ねる。深刻さを予感したふうに潜めた声に、アンリエッタは答えを返さない。言いようがなさそうに兄妹のことを順番に見つめると、部屋の扉の方へと目を向けた。黙りこくって、その膠着を、立ち上がったレームが破る。


「あ……レーム」


 呼び止められたが足取りは止まらず、レームは部屋の外へと向かう。アンリエッタが追いかけて、ルウィヒもまたそれに続いた。先を進む二人が階段を下りた先を曲がり、居間の扉をくぐる。


 ルウィヒは、違う。


 曲がらずまっすぐ廊下を通り抜けて、誰にも気付かれないまま玄関を出る。


 ルネを追いかける。


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