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ずっと、握っている。
「よーし! じゃ、見せてみて!」
指示を受けて、ルウィヒは手を開く。少女の左手にぐるりと巻いて保持された即製の革帯には、揺らめく灯が収められている。革の切り込みの中で躍る青色に目を注いだ後、窺う気持ちで向かいを見上げた。昨日一昨日で彼女らの失意を何度も目にして来たルウィヒだから、一見良好に見える結果にも失望が潜んでいやしないかと、薄い胸には一抹の不安がよぎっていた。
果たして視線の先、ルネはにっと笑顔を作る。
満を持してといった顔で、口を開いた。
「試作九号! 接触三十分を突破!」
「よおし、目標達成!」
アンドレの宣言に、「ひゅー!」とルネが諸手と共に歓声を上げた。続いて、「おおー」と控えめなレームの声が漏れる。勢いこそデュボワ一家程ではないそれは、けれどもしっかりと注目と賞賛を伴ったものである。
入り浸りの工房。
そこには、隣町へ出向いて不在にしているアンリエッタの他の、四人が詰めている。繰り返しの試行錯誤が、今しがた実を結んだところだった。
手の中、やや紫がかった青の炎を、ルウィヒは再びまじまじと見つめる。
触って即座に光が消えない、という関門は早い段階で突破していたので、驚きこそ薄れていたが。以前までの試作品は、いずれも触れ続ければ五分と経たぬ内に命を絶やしてしまっていたのである。その儚さを思うと、未だに消えずに波打っている紺青色は、懐かない生き物から隣にいるのを許されたような感触があって、少女には随分と感慨深い。
んふふーとルネが上機嫌にルウィヒの手を取る。手の中にいる複層ガラスの表面を、労うように撫で回した。
「触れてダメなら触れられないようにする。疑ってたわけじゃないけどさ、容器の形状でここまで変わるなんて! 試作品が全部ダメだった時はどうしたもんかって思ったけど、さっすが! おじいちゃん様々ですねえ」
ルネの言葉に、アンドレは頷くように息をつく。
「上手くいかん時には、発想を変えるものさ。大体お前だって、古い型を捨てずに手入れしていてくれたじゃないか。おかげですぐ試せた」
返された称賛に、ルネは首筋をかく。
型というのは、霊的色素を封入するガラス容器を作るための、木型のことである。
表に「開花」と付されたそれは小さく穴を開けた箱型をしていて、中でガラスを吹いて取り出すと、花弁が重なるみたいに波目の付いた、薄い半球が取り出される。それを二枚、別に作った球状のガラス容器に接着して蕾のような形状としたものが、今ルウィヒの左手の中にある試作品だった。「花開く」と称するには気が早過ぎる感じのするそれは、けれども奥の中心に光が灯ると、その印象を変える。透明な花弁は透かした奥に青の炎を湛えて――まるで「生きている」のかと思ってしまうような存在感を、そこに宿した。
「だあって」
と、ルネが赤子でも見るように細めた目つきで、蕾に視線を注いでいる。
「可愛いじゃんこの形。いつか絶対これで良いもん作ろう、ってね。……まさか、それが今だとは思ってなかったけど」
くすっとした笑い声を忍ばせて言ったルネに、アンドレは肩を竦める。
「機会ってのは、何も言わずにやって来るもんさ。お前はちゃんと備えられてた。これは」
言いかけて、アンドレが言葉を止める。首を傾げて注目したルネに向かって一つ咳払いをし、続けた。
「……だがね、まだ終わりじゃあなかろう。仕上げと留め具作りは任せたぞ。なんたってそっちは、年頃のお前の方が得意なんだ」
目をさらに輝かせたルネは首いっぱいに頷いて、帽子のつばに触れるような仕草で手を掲げた。
「了解!」
「ルウィヒさんが感激するやつを、作ってやんなさい」
「へい親方!」
拳を握って応じた孫娘にアンドレはちょっと微笑んで、それから工房を出ていく。
奥から扉の音がするまで背中を見送ると、ルネは兄妹に向き直った。自信に満ちた佇まいで、両手を腰に置く。
「よーしそんじゃ、ブローチのデザインの検討だね! ちょっと待って色々見せたげる!」
言い終わる前に動き出したルネは工房の一角に駆け寄って、がちゃがちゃと戸棚を漁り始めた。あれこれするルネ達を待って茫洋と眺めるのも、今やすっかり馴染みの時間となっていた。
レームと二人並んで、忙しないその動向を見守る。
ふいに、肩に、触れる感触があった。
よかったな。
そんな声が伝わって、ルウィヒは隣を見上げた。
あちらを見つめたままだが注目を察したらしいレームが、言葉を続ける。
良いもの、作ってもらえそうで。
――。
肯定のニュアンスを返す。
なんとなく……気持ちに惹かれるものがあって、ルウィヒはこてんと兄の腕の方へと頭を倒した。
レーム。
名前を呼ぶ。
――?
レームが、疑問のニュアンスと共にルウィヒを見下ろす。身じろぎからそれを察したルウィヒは、けれども目を合わさず、手の中の光を眺める。
レームも、一緒に選んでね。
そうお願いをする。
――、と。
ちょっとしてから返って来た肯定のニュアンスに、ルウィヒは満足した気持ちで目を細める。




