3ー4 ②
――常々、必要な調整は自分自身の働きで何とかしようと思いがちなアンリエッタにしてみれば、ロランのそれは耳に痛い説教だった。
蒸気列車を二時間と、路線馬車を三時間。朝から昼にかけての時間を車輪に揺られ、山と丘の起伏を繰り返し踏破すれば、デュボワ氏の住まう散村まで辿り着いた。
座り通しでいたせいで、幾分宙に浮くような頼りなさが靴の裏にあるのを感じつつ。
アンリエッタは、降り立った馬車駅の周囲を見やる。進んできた街道から逸れた場所、旋回と停車ができるようくるりと広くアーチを描いたロータリーの奥の道では、まばらに数軒建屋が広がる。佇まいや看板から観察するに倉庫や宿舎といった施設がそこにはあって、ちょうどまだ昼時という時間、食堂と思しき店屋の軒先には卓が置かれ、二組の客が座っていた。
その場が小規模ながら村の交通の要衝としての機能を果たしているらしいと窺われる中、アンリエッタは待ち人を探す。事前に交わした手紙によれば、馬車駅からデュボワ邸まではやや距離があるらしく、迎えを寄越す旨が書かれていた。
「おーい」
聞こえた呼びかけの声は、それだけで若い娘とわかる高さと張りがある。視線をさっきの村の玄関通りに戻せば、建屋のいずれかから出てきたらしい赤毛の少女が見えた。レームより幾つか年上くらいに見える彼女は、肩に引っ掛けた買い物袋を支えつつ手を振ると、こちらへ歩いてくる。
通りの真ん中で対面した少女は、横髪に比べて後ろ髪だけが短いアンバランスな髪型をしていて、背は、アンリエッタよりもやや高い。ほそっこい体よりも太った荷物をまた抱え直して、言う。
「ベルジェさん御一行、ですよね。アンリエッタさんに、ルウィヒちゃんと、えっと」
「レーム。レーム・ベルジェだ」
ほんのわずか上擦りを感じる声で、少年が名乗る。レームのそれは子ども同士とはいえ初対面でするのに適切な言葉遣いとは言えなくて、アンリエッタは嗜めるべきかを一瞬悩む。
その内に、少女が一つ頷いた。
「レーム君ね。どうも初めまして。私はアンドレ・デュボワの孫で、ルネと言います。今日は祖父の代わりにお迎え役を」
アンリエッタ達も改めて自己紹介を済ませると、ルネの先導でロータリーへと舞い戻る。一頭立ての荷馬車が、一角には繋がれている。幌なしのワゴンには、土で黒ずんだ荷台の端っこにクッションが敷いてあり、即席の座席を設えられていた。
ルネはそこへ乗り込むようアンリエッタ達に指示すると、自分は買い物袋を荷台に置き、代わりに置いてあった手袋を掴む。分厚い革製の、幾つかほつれと破れ目がみられるそれをすっぽりと細腕の先にはめ、御者台に乗り込んだ。
手綱を持ち、肩越しにこちらの様子を眺める。順々に台を揺らし狭苦しく搭乗したのを確認して頷くと、「ヨー!」と一つ掛け声と共に手綱を振るった。
悠然と、馬が動き出す。ゆっくりと道を回って引き返し、街道へ復帰する。蹄鉄がぱかぱかと規則正しく音を叩いて、その中へ、車輪と荷台が不規則に軋みを挟んだ。
幌がなく、目と鼻の先に自然が見える景色は、さっきまでの旅路とはまた違った光景で、荷台の後方で半身を寄せ合うレームとルウィヒは、興味津々で荷馬車の脇を見下ろす。「また馬車か」という空気で表情をなくしていた直前までとは打って変わって、釘付けだ。




