4話 生活の糧
「…だるい…それに眠過ぎ…」
目を覚まして動こうとしたがあまりの疲労を感じる。起きることが億劫になるくらいだ。
この世界で記憶を取り戻してから多分一番酷い目覚めになった気がする…。
原因はだいたい検討がついている。
体の奥から無理やり魔力を抜き取ったのが不味かったっぽい。
感覚的には一応回復してきてはいるがまだ全快にはかかりそうといった具合。
「これはしばらく夜の修練は休むしかないかな…って、寝坊?!早く降りなきゃ…」
■
「おはよ、遅れまし、た…?」
「エリヤ。話を聞かせてくれるな?」
「…?」
居間に入ると父さんと母さんが腕を組んで机に並んで座っていた。
あの、放ってる威圧感がやばいというか気が相当立っているというか怒っているというか心配しているというか…何かやっ…え、まさかあれを見つけて…?
い、いや!でも誰が狩ったかなんてわからないはずだし白を切り通せば問題ないはず…。
たぶん、きっと、おそらくmaybe。
「な、なんのこと?」
「へぇ…。そういえば今日、寝坊したんだな?」
「それはごめんなさい、お父さん。でも起こしてくれたってよかったんじゃない?」
「ふむ。今朝起こしに行ったのだが本当によく眠っていて起きる気配すらなかった君がいうことか?」
「そうなの?!それは…私が悪かったよ…。」
「まぁ?何か事情でもあったんだろ?」
「へ?」
「今日、家の裏にこんなものが置いてあってだな?昨晩は何もなかったところに。」
げ…本当にあの素材見つかってるし…。
「へ、へ〜それは…不思議なこともあるもんだね?それで」
「中身はブラックベアーの素材でしかも全部解体済みだった。」
「誰か親切な人でもお裾分けでもしてくれた…のかな?」
「ちなみにブラックベアーのような危険な魔物が出てきた時は村に報告して協力して叩くという規則になっていてな?1人で勝手に狩ってくるということは基本ないし、この村で間違って遭遇してもその場で撃退するような自信過剰の大馬鹿者はいないんだよな。ほ・ん・と・う・に不思議なことだな!」
「そうなんだ …?」
「それで、話をする限りアフラもそんな凶悪なものは見ていないと言うし急いで村に報告を入れたら誰も狩ってなどいないと口を揃えていたんだな。それで戻って落ち着いて足跡を見るとな、残っていたのは結構小さい子の靴による足跡だったわけだ。」
「……」
これは……詰み……。
「で?申し開きでも聞こうか。」
「……自分のお金が、欲しかった……」
「は?」
「ダルガさんの指導で真剣を用意した方がいいと言われたから……どうせならいい武器が欲しいと思って……あと美味しいご飯を食べたくて調味料とかを買うだけのお金が欲しいなと思ったから……魔物を狩るしかないと思って…」
「…それで夜に1人抜け出してブラックベアーに立ち向かってぶっ倒してくるのはおかしいだろ!自信過剰とかそういうレベルじゃねえ!死んだらどうするつもりだったんだ!」
「ひゃぃ!?」
「いいか?ブラックベアー限らずこの辺の魔物は基本複数人で行動しないといざという時命を落とすことがザラな連中がゴロゴロいるんだ。いくらお前が強くて安定的に狩りにも参加できるといっても1人で戦うのは無謀を通り越して自殺行為だ。二度と1人で狩りに行こうなんて思うんじゃねえ!いいな?」
「うう…」
後悔はしていないけど心配をかけてしまった…。
「エリヤ。いい?」
「え、あ…」
あ、母さんも参戦したけどこっちはもっと空気が冷えてる。心の底から怒っている気配だ。
「あなたはまだ小さい子供なのよ?無理は絶対にしちゃダメです。私より先にあの世に旅立ってしまうなんて許しませんからね。頼るべきときはちゃんと適宜相談をしてお願いをするんですよ。だいたい武器と調味料のために命を賭けるとは一体何事なのですか。もし今後もこのようなことがあったらもう狩りに出ることを一切禁止しますからね?いいですね?二度と無断で狩に出ないことです。わかりましたね?」
「は、はい…」
「本当に、心配したんですからね本当に…、エリヤは元気なのはいいのですが前に剣術を習い始めた時から、かなり勝気で好戦的な感じがしてちゃんと生きて帰ってくるか本当に心配してたんですからね?もう二度と心配をかけないように、ちゃんと我が身を大事にして。」
「わ、わかりました…」
「本当に、生きててよかった…」
わぁ、母さんが抱きついて泣いてしまった…。
「ごめんなさい…。」
でもごめんね。多分もう帰らない日がくるから、また1人で狩りに行くと思う。
むしろバレないように足跡をつけないようにしたり素材を森に隠したりとかしないととか考えてしまうエリヤだった。
「はぁ〜。武器はまだわかるがまさか調味料に命をかけるのか…不満は本当に言ってくれ。お前に先立たれては敵わん…。」
「はい…」
「んじゃあまぁとりあえず次にオルトがくる時に一緒に渡そう。それで欲しいものを選ぶ。これからは二度とこんなことすんじゃねぇぞ?」
「わかったよ。父さん。まだ無理したのが残ってるからもう一回寝るね…。」
「ああ。ゆっくり休め。最近は狩りが好調だったから余裕はあるしな。」
「おやすみ…」
部屋に戻って横になる。
気づけばそのまま再び眠りに落ちていった。
■
寝込んだ。
思ったより無茶をした反動が大きかったのかまさか2日くらい元気が足りず家で横になる日々を送る羽目になるなんて…不覚…。
次からはもうちょっと慎重にならないと。
というかもっと攻撃力のある武器が手に入ればあそこまで長期戦で無理するみたいなことにならないはず…。
あと、やっぱり万が一に備えてどうにかして攻撃と防御に、体術や筋力以外で魔力を使えないか調べないとかな。
そうこう反省をしているようなしていないような日々を過ごして少しずつ日常に戻っていく。
アフラ兄さんとの狩りにも復帰させてもらった。若干監視が厳しくなった気がするが…。
「よっ。えいっ。」
ブラックウルフを仕留める。
「やっぱりエリヤがいると狩が安定するな。一度他の人とやったら連携に苦労したから改めて異常性を覚えるが…」
「私にかかればちょちょいだよ!」
「お前は反省しろ!死にかけたんだからよ。無茶はさせねえからな。」
「…はい。」
「まぁだいぶ助かってるのは事実だけどよ。よし、これで5体か。今日は確か行商人のオルトさんがくるから戻るぞ。」
「わかったー。すぐ解体するね。」
手早く処理して戻ろう。
そう、今日はただの行商の来る日ではない!
前回ブラックベアーの素材を引き渡した日のこと…。
◇
「おお、すごいな。ブラックベアーか。爪とか骨の解体も上手だ、よくこんな綺麗に仕留められたな。ダルガあたりがやったのか?」
「いや、それがよ…」
後ろから押される。
「ええとその、わ、私が…」
「ええ?!こんなお嬢さんが?」
「俺も信じたくなかったが詰めてみたら吐いたから間違いない。」
「あれはしょうがなかったじゃない!」
「お前は黙ってろな。」
「むぅ…。」
「はあぁぁ…。なんかスキルでも持ってるのか?」
ギクゥ!
「いやぁー?ちょっとよくわからないですねー…」
「…ま、今はいいか。わかった引き取らせてもらう…が。」
「なんだ?」
「いや何、これを見積もると全部で銀貨2枚くらいっていうところなんだが、短剣と調味料が欲しいって言ってただろ?今いい短剣がないのと塩以外も特に持ってきてなかったからな。せっかくならちょっと待ってくれないか?」
「それもそうか。エリヤ、待てるか?」
「うん。次は持ってきてね!」
「わかった。じゃ、証書はこんな感じでいいか?」
「おう。じゃ、次も待ってるからな。もし高くついたとしても大丈夫なように次回は狩っておく魔物の数は増やしておくからその分頼んだぞ。」
「こっちこそ。まさかこんな綺麗なブラックベアーが手に入るとは思ってなかったよ。じゃ。」
◇
…ということがあったので、非常に楽しみにしてた日!
駆け足で村に戻る。一応追加請求も鑑みてここのところは無理しない程度に売る用の狩りもしてきたし。
解体した素材は家の倉庫に結構保管できている。
「お、戻ったか。オルトが来てるから行くぞ、2人とも。素材も一気に運ぶからな。」
「は〜い。」
「わかってるよ。」
家の倉庫に積み上がった素材を荷台に移して運んでいく。
荷台に堆く積み重なった魔物素材…魔石に牙に角に骨…。
「…改めて見るとすごいね。」
「ああ。最近は安定して狩れているから襲撃もマシになってるしな。こんな日々が続いてくれりゃいいんだがな。」
しばらく農道を行くと馬車が見えてくる。
「オルトさ〜ん!」
「おお、エリヤか。って本当にちゃんと素材を大量に用意してくれたのか…すげーな。助かるよ。やっぱりこれで正解だったか。エルト、ちょっと相談なんだが。」
「おう、どうした?手に入らなかったのか?」
「いや、何、話を聞いた時からちょっと予感がしたからな。短剣の中でもそこそこいい魔鉄の短剣を2本、調味料は塩と胡椒って感じで結構奮発して持ってきたんだよ。で、予算感的に行けるだけもらってくれねぇかと思ってな。こんなに素材があれば日用品と一緒に全部ちょうど渡せるぜって感じなんだがよ。どうだ?」
「おお、それはいいな。アリア?何か欲しいものがあればそっちを優先してもいいがどうだ?」
「…そうね、どうしても欲しいと思って彼女なりに頑張ってきたのですもの。美味しい料理は私も作ってみたいし今回はいいわ。」
「おう。ということでこれが証書な。」
「オッケー取引成立だ!ありがとな、これなら十分黒字だよ。」
「いつもこんな辺境までやってきてくれてるんだからいいってもんよ。これからもよろしくな。」
「ああ。」
■
オルトさんが来る日はちょっとした祭りみたいになる。
例に漏れずオルトさんの馬車を中心にちょっとした賑わいができてみんなでバーベキューみたいなのをやっている。
今日は香辛料の類が豊富なので焼いたお肉に風味が合わさって最高に美味だ!
転生以来最高のごはんだ!
…ちょっと白米が欲しくなってしまった。
「おいし〜!」
「ああ、こんなにうまい肉は久しぶりだな。」
「ええ、やっぱり香辛料があるお肉は格別ですね。」
「うめ〜。俺は人生初めてだよ。」
「そうかい、アフラ。じゃ、エリヤに感謝するんだな。」
オルトさんが声をかける。
「いつもしてるぜ?あいつと組むのと他のやつと組むのだと不思議と安定感が違うんだよな。なんでだろうな。」
「さぁ。こちらとしては儲かるなら別にいいんだけどよ、大事にしてやれよ。」
「あったりメェだろ、これでも兄貴としてのプライドがあるからな。」
「私も負けないからね!」
「あはは。いい兄妹だな。これからもよろしくな。」
「おうよ!」
「こちらこそ〜。そういえばそこのお肉を焼いてるのって魔道具なんです?」
「ああ、これは魔法コンロって言ってな。加工した魔石をセットしておけばあとはつまみの調整だけで調理ができるっていう優れものだ。こっちの魔法鍋と一緒に持っていけば大体の旅先の料理はどうにかなるんだ。」
「へ〜。見せてもらっても?」
「いいぜ?」
やった。これで火魔法とか魔道具のノウハウを得られるかも…!
魔力の変換方法を観察する。なるほど、魔石から一定量ずつ魔力を放出してそれを魔法に変換して火にしているのか…変換…?
何がトリガーで魔力が変換されるんだろう…?
うーん。ちょっとわからない。これは今後魔物狩りを増やして魔道具を持ってきてもらわないとね。
火魔法は…こういう感じかな…?
こっちはしばらく練習したら発動まで漕ぎ着けられそうな感覚がある。
「面白いです!他に魔道具はどういうのがあるんですか?!」
「おっ。魔道具に興味を持ったか。結構面白いのがあるんだよな。今持ってるのは何かあったか…ああこれがあったな?洞窟とかで乾くのが遅かったりする時ちょっと風を起こすやつ。」
「おお…!すごいです…!」
無垢な子供のフリをして魔力の流れをみていく。
風魔法って空気に直接作用して流れを発生させることを連続して行うことで狙った動きを形成するのか…結構練習しないといけなさそうだけど、できなくはないかも!
「面白いです…!いつか買ったり作ったりできないかな…?」
「魔道具を作るのはスキル持ちか魔法の教育を受けて練習をした職人じゃないと大変だからな。まぁでもどうしてもっていうならあるかもな。買いたいなら俺に言ってくれ。次回に持ってきてやるからな。まぁ魔道具レベルになると出費が痛いから前金になるだろうけどよ。って理解できたか?」
「うーん、少し?」
嘘である。まぁ中身の理解力とかは結構前世のスペックが残っているので誤解させた方がいいかな。
「まぁそうか。じゃ、欲しくなったら父さんに相談しな。」
「わかりました!ありがとう。」
「どういたしまして。」
ふっふっふ。これでようやくまともな魔法の理解を手に入れることができた。
ならあとは変換ができるようになるまでとりあえず魔力を操作する練習をするのみ!
「そうだ、エリヤ。これ、どうぞ。大事に扱えよ?魔鉄製の中だと中程度って言っても普通なら十分な性能だからな。」
父さんから、待ち望んだそれを受け取る。
「…!私の、短剣…!」
魔鉄の短剣2本。
早速腰に2本下げて取り回しを確かめる。
軽く振り回して切れ味や重さをなじませる。
重さはあまり変わらないけど、空気を斬るように振れる…!
魔力をコッソリ流してみれば鉄よりずっと抵抗が小さい。
現時点で用意できる武器としては最上級だと思う。
これでようやく最低限まともな戦闘に使えそうな武器が手に入った。
美味しいご飯に私の武器。
一歩前進かな。




