3話 おいしい野菜とお肉は世界を救う!
修練をして備える日々を送っているわけだけど…
いつもの黒パンとスープの夕ご飯、もそもそ黒パンをちぎって食べる。
「もうちょっとレパートリーが欲しい…」
「なに、エリヤ?」
「なんでもないよ。」
「?」
うっかり心の声が漏れてしまったらしい。
最近切実に感じていることがある。
それは「美味しいご飯が食べたい!」というもの。
別に現在の食事が極めて不味く精神や生活に悪影響を及ぼすとかそういう話ではない。断じて。
ただ、狩りがうまくいかないと肉が食べられなかったりとか、基本黒パンとスープで調味料の類も高価で流通していないため素朴な味ばかりだったりというのにちょっとげんなり気味なのである。
かつて現代日本の生活をしていた頃は特にそんなに気にしなくても全体的に美味しいものに溢れていた。
そこそこの値段を払えばコンビニとかで最低限美味しいものは食べられたし健康のことを度外視すれば安価に美味しいジャンクフードで割と幸福を感じたりもできた。
この世界では食にありつけるかが怪しいのだ。自分のところで賄えなければそもそもご飯を食べることができない可能性が高く、賄えたとて手に入るのは黒パンや自分のところの野菜に狩った魔物の肉。
自家製野菜も味は悪くないのだがまだ改善余地はありそうだ。
しかも調味料やドレッシングの類は農民向けにはほとんど流通はおろか生産すらされていないという有様だ。
せっかく思いっきり運動をするならば美味しいご飯は食べたい!
ここに食卓拡充作戦を始めることにしたエリヤであった。
■
春風靡く季節はとうに過ぎて夏真っ盛り。
木々は青々としてクローホークが空を飛んでいく。
川のせせらぎと家畜のギュバの鳴き声が静かな農村に響いている。
ちなみにギュバは現代日本で言う牛と馬が混ざった感じの生物で耕作とか運搬とかちょっとした移動に使われる家畜だ。
心安らぐ平穏。
ただし魔物と野盗を除けば、ね!!
「やぁ!」
躱して、刺す!
「アウ…」
いつもの短剣でグレーウルフを仕留める。
これで3体目。
「もう随分手慣れたよな。エリヤ。」
「えへ〜これでも役に立てるように頑張ってるからね。」
「いったいどこからそんな動きをするだけの力と体力が出てくるんだよほんと。」
ギク。ナ、ナンノコトカワカラナイナー。
ちゃ、ちゃんと人間と言い張れるくらいには出力は抑えてるから大丈夫と信じたい…。
そういえば前スキル持ちか疑われてたけどあれ以来特に言ってはきてないから…あれ…まずい?
「と、とりあえず解体するね。」
「おう。じゃ、こっちの方は持っていっとくわ。」
割とウルフ系の解体は慣れてきた。
戦闘訓練として、これから1人で狩りをして糊口を凌ぐ練習として有用だと思い、練習に参加すると同時に狩りに参加させてもらうようになった。
そうしたらなーぜーかーお肉が食べられる機会が増えた!
「やっぱりウルフのお肉は美味しいね。」
「エリヤが狩りを手伝ってくれるからよ。ありがとうね。」
「えへ〜」
「いやーエリヤが思ったより狩りがうまくてちょっとびっくりなんだけどよ。」
「お前も頑張れよ。アフラ。」
「もちろんだよ父さん。妹に負ける兄とかカッコ悪いからな。」
でも香辛料とかの類がないからまだ味気ないかな。
金策も頑張らないとね、もしくは代替品の発見とか。
■
「いち!に!さん!し!」
子供で集まって剣術の練習に混ざっていくようになってからしばらく。
「ほれ。そこ、腰がひけておるぞ。」
この村ではかなり歳のとったおじいさんのダルガさんが子供達にまとめて剣術の指導をしている。
もともとB級冒険者とか言ってた気がする?
とにかく腕が確かなのは間違いないと思う。
身体強化を全力発動すると性能が高過ぎて相手に危害が及ぶリスクがある上、魔力消費量がかなり危なく効率も相当悪くなることから今は特に狙い通りに制御して効率を高めることに集中している。
子供相手では余裕で力押しできるレベルではある。
ただ今後出てくる相手を考えると身体強化は当たり前に使うと仮定すれば力負けする前提で戦うことになるはずだ。
その時に頼りになるのは武具の質と積み重ねた技量。
前世ははっきり言って運動神経がほぼ0のようなものだったので厳しかったしやる気もなかったがエリヤは結構運動能力や認知能力などの基礎能力に関して割といい方のようなので思ったように体を動かすことができている。
それならば技量を積み重ね、それで対抗する。
「それじゃあ模擬戦じゃな。じゃ、まずはフェンネルとエリヤ。前に」
「おう!」
「は〜い」
「では、構え」
木剣を前に構える。
「今日こそは勝つからな、エリヤ!」
「今度も切り伏せてあげるわ!」
「では、はじめ!」
「えい!」
「はっ!」
木剣で組み合うようにしてから…
「ここ!」
流す。
「わっ?!」
体制を崩したところに…
「はい!」
後ろから首に剣を添えてあげれば一丁上がり。
「ま、まいりました…」
「勝者、エリヤ!」
えっへん。
「ちぇ、またかよ…」
「エリヤ強過ぎだろ…なんであんなに動けるんだ?」
そりゃ魔物狩りと修練での叩き上げだからね。負けてなどいられないよ。
「エリヤはそろそろ真剣の打ち合いも頃合いかの?」
「え、真剣ですか?」
「お主は魔物狩りも短剣とかでやっておるのだろう?なら、実戦向きの訓練も欠かせないだろうよ。万が一格上にあった時に打ち勝つ方法も学ばねばいざという時に狩られるぞ?」
「わかりました。」
「とりあえず短剣じゃない真剣も手に入れておきなさい。短剣だけでは戦いにくい相手もおるからの。」
よし。じゃあ次にオルトさんがくるまでに魔物狩りで素材を集めておかないとかな。
■
というわけで夜の1人時間はスキル修練の他に素材集めをする時間になった。あと食材確保。
夜じゃないと活発に動かないから見つけるの大変な魔物とかもいるので昼と夜の双方で狩りをするとこの地域の魔物の素材はだいたい集められる。
まぁかなり強い相手もたまに出没するので注意しないといけない。
そう例えば目の前のブラックベアーとか…
ってやば?!
「グガーーー!」
「ぐっ…」
高速に振り下ろされた爪を短剣で受け流しつつ後ろに飛び退く。
ブラックベアーが何がヤバいか。
単純に膂力が桁違いに強い。
多分この地域での力自慢一番はこいつだ。
そして私がこいつにまともに攻撃を通す手段が現状短剣くらいしかない以上超接近戦という相手の土俵で全力戦闘をする必要がある。
「でもお金欲しい…こいつレベルのお金になる魔物って他のはもっと倒せなさそうだから、ね!」
エリヤはどう倒すか考えた結果、変な方向に思考が飛んで行った。
「短剣をぶっさすための隙を作るために身体強化を限界までやって体術で勝負しよう!」
全力で魔力を全身に巡らせて
「吹っ飛べ!」
拳に全力を込めて殴り、そのまま懐に蹴りを入れた。
「グオオオオオーーー!?」
「うーんまだ全然動けそうだし魔力足りるかなぁこれ…」
「ゴオオーーー!」
「よっと。」
避けて拳に蹴りを入れる。ちょっとずつは削れてきたが…
「こっちが息切れしそう…!」
そろそろ魔力が底をつきそうになってる!流石にこんな状態でとどめを差し切るのは厳しそう。
このとき、エリヤは似た状況を思い出していた。
(前世で死ぬとき、体の奥から魔力っぽいものを取り出そうとして爆発したけど、もしかしてできたりしない?)
相手の攻撃を最低限躱しつつ体の奥から魔力を取り出せないか試す。
ただし前回のように全力で取り出そうとすればおそらく暴走すると考えて今度は慎重に。
「…あるね。これが何かはわからないけど、そこそこ取り出しても問題なさそうかな?とりあえずこれを巡らせて…」
そこから魔力を取り出すことができた。それを巡らせることでもうしばらくは使える!
「そろそろ君も消耗してきたっぽいし止めね!」
魔力を全力に足に集中して蹴りを入れた。
「じゃあね。」
魔力を刀身に大量に含ませて胸に深く突き刺した。
「グアーーー!!」
そして沈黙した。
「はぁ〜…正直ここで倒す気はなかったけど。とりあえず解体を…って、あれ?」
身体強化で睡眠時間を削減できているエリヤにとっては不思議なことにそこそこ強めな眠気が襲ってきた。
とりあえずなんとか頑張って使える素材を解体して袋詰めして持って帰った。
「なんか疲れた…。」
適当に家の裏に素材を置いて寝た。でもこれがあればオルトさんから武具を幾らかもらえるかな。




