5話 過ぎる季節に
時は巡る。
ちょっと涼しめな夏を過ぎて、ウェリラの村に実りの秋がやってくる。
暑過ぎず、乾き過ぎてもいない、そんな風が吹き抜けて茶髪の髪を揺らしていく。
山吹色に染まりゆく山に高く澄んだ秋の空。
傾きはじめた日差しから背中に温もりを受けながら木の葉の落ちる森に積もった木の葉を踏み締める。
ときどき薬草を見つけて摘んで袋に放り込んだり、魔物と遭遇して魔鉄の短剣でサクッと仕留めて解体したり。
ちょっと呆れ気味で、でもなんだかんだ付き合ってくれるアフラ兄さんを振り回して山を駆ける、そんな時間。
時々畑仕事の手伝いをしたりもした。
そのときにふと魔力が植物の成長に関わるのかと興味がでて試しに魔力を込めてみることにした。
全力で大きくな〜れとこめたら翌日には見事に茶色くなって枯れてしまった。しょぼん。
入れる量を調整したら葉の色と艶がよくなって伸びも大きくなり収穫量が増えたので多分肥料みたいなものなのではないだろうか。
ないと弱るけど多すぎても毒になる…みたいな。
全体としては結構豊作だった。
畑一面に広がる黄金色は圧巻で、眺めているだけで満ち足りた心地がする。
ここに座ってずっとみていたいものなぁ〜。
とそんな惚けたことを言ってるわけにもいかないので家族総出で収穫をしていく。
結構時間はかかったけど、刈り取っては運んでを繰り返していく。
休憩の合間に水を飲んでまた作業に戻る。
オルトさんから買ってもらった水袋っていう魔道具、地味に便利である。
ようやく収穫が終わる。
みんなが忙しく収穫をして、束ねて運び、野菜を干したりや肉を燻したり、薪を積んで、冬の訪れに備える。
収穫したのは農作物だけのはずがそれを狙う魔物と野盗がやってくるのはなんなんだろうね?
なんとか村総出で返り討ちにしたけれど。
豊かなようで、来る冬に備えて油断できない、ちょっと独特な緊張感ある雰囲気、そんなウェリラの村の秋。
ちなみに徴税官がやってきてせっかくの実りを結構持って行ったのをみて、六公四民は流石に酷くない?と幾らか文句を言いたくなったのは内緒だ。
■
転生したのは春だったからそろそろ一年になるのかな。
そんなことを思いながら今私のいるウェリラの村は吹雪いています。
軒を叩く風が喧しく音を立てて窓から見える景色は白一色に白んでる。
いや、本来ここら辺はそんな冬の厳しさはそこまでなはずと聞いてたんだけどなぁ…。
ただたまにこういう吹雪く年があるといっていた。
母さんの手芸の手伝いに布を縫う手が悴んで震えて上手くいかない。
「さむい…」
「我慢しなさい。」
「…はい。」
なんか前世よりも寒さ耐性が下がってる気がする…。
夕ご飯の黒パンにウルフの干し肉が入ったシチューは美味しいけどちょっと耐え難い。
かと言って練習した火魔法を使ったらお家が燃えてしまうから…何か作れないかな。
そういって何故か思い出したのはオンドルとかいうお湯による床暖房システムだった。
せっかくなら一緒にお風呂も作ってしまいたい。
農村は基本湯浴みしかできないしそれも数日に一回とかできればいい方だからね。
この世界ではまともに魔法を扱えるのは基本時間をかけて修練できる貴族とか大規模な商家の特権みたいなものだから農村で魔法が使えるのはレアなスキル持ちくらいしかいない。
使えるものは使いたい。
でもここで目立ち過ぎると貴族とかに連れ去られるリスクがあることを思い出す。
「迂闊なことはできないか…」
しょうがなく適当に気合いで水魔法で水を作るときに分子間に摩擦を思いっきり発生させてお湯を作るお湯魔法を創ってそれで我慢した。
ちなみにこの世界にそんな魔法はないので魔法をよく知る人が聞いたらこれも卒倒ものだったりするのだがまだ彼女はそのことを知らない。
思い立ったら即行動。
「兄さん!狩りに行こう!」
「はぁ。お前がそこまで高いテンションで狩りに行くのは大体何か企んでるからな?本当、5歳児とは思えねぇよ…。今度はなんだ。」
「むぅ、ただ寒いのが嫌だからお湯を入れる皮袋を作ろうと思っただけだもん…」
「…なるほどな。それはありがたいかもな。行くか。」
というわけで兄さんとブラックウルフとかグレーウルフの毛皮を集めてくる。
冬のウェリラの村は静かだ。
家畜も必要最低限だけ家の中に残して後は干し肉になっている。
眩しい一面の銀世界に響くは木々に吹き抜ける風の声と足に沈む雪の音ばかり。
低い太陽が束の間の癒しとばかりに村を照らしている。
寒すぎてやってられないので無理やり走って体を温めつつ狩っていく。
適当に数体狩って解体したら家に戻ってきた。
それでも短い冬の日はだいぶ傾いて村に影を落としている。
「母さん!」
「なぁに?ってどうしたのその毛皮?」
「これでお湯を入れる袋を作りたくて。」
「…わかったわ。じゃあ一緒に作りましょうか。」
それから二日後完成した。
「じゃあ、お湯を沸かして入れてみて。」
「こうかしら?…あら、結構いいわね?」
「でしょでしょ〜」
これで自分の部屋に引き篭もる時は安心してぬくぬくできる。
ちなみに家の中でお湯を入れた袋であったまるスタイルがちょっと流行ったりしたのはここだけの話。
そんな珍しく厳しい冬は村の皆も最低限の防備の他には外にあまり出ることもなかった。
腕が鈍らないように時々外に出て正解だったかな。
銀世界では目視で探すのが難しいから気配とか魔力で探せないかと思い、色々試行錯誤をしてみた。
結局安定したのは魔力を周囲の空間上へ薄く広げて他の魔力を帯びた存在があるかを反発とかの感覚で捉えるという方法だった。
この方法だと魔力を帯びたものが大量に置かれたりしなければ目に見えずとも捉えることができるし不意打ちにも見ずに対応できそう。
実際に練習で外に出ているときのこと、魔力を薄く広げて歩いていた時後ろから猛スピードで襲いかかってくるグレーウルフを見つけた。
どこに襲いかかってくるのかが視えて、そこに向かって短剣を一気に突き立てて、そのまま返り討ちにできた。
適当に魔力感知とか名付けておこうか。
きっとこれからも役立つだろうなぁ。
手芸と時々狩りにでる、そんな日々が過ぎていく。
■
ついに一年回って春が再び。
冬が終わり生命の息吹に溢れギュバの鳴き声がまた聞こえ始める村。
雪解け水なのかお水が美味しい季節だったりもする。
そして、魔力を使うとなぜか魔力量の上限が増えるらしいというに気づいた今日この頃。
転生して次の春になるまで手芸以外やることがなく夜が割と暇になりがちだったのでこっそり外で魔法の練習をする日が増えて行ったのだけれど、魔法の練習で魔力を使いまくるのでその回復にももちろん時間がかかる。
かかるのだが前にやったように奥から引き出さない限りは基本一定速度で回復するのか全快に掛かるまでの時間が若干ずつ伸びて行っているのだ。
もちろん回復速度が落ちているならばまずいと思ってどちらなのかを証明するために試しに時間効率がほぼ一定の火魔法をひたすら手元に維持して意識が暗転しかけるまでの時間をその日と一週間後で測って比べてみたら10分くらい伸びていた。
ちゃんと3回ずつくらい試したから間違いないだろう。
というかわざとほぼ空にしたらそれだけでそこそこ上限が上がってしまった感じもあったのでもしかしたら積極的に使うべきなのかも?
ただいつ有事があるとも限らないこの世界だとそうおいそれとそんなことはできないけどね…。
そして調子に乗って奥からも魔力を取り出して使ってみる。
まぁ案の定その後2日はだるさが残った。
一応回復して特に後遺症とかもなさそうなのでこれを数回繰り返してみる。
収穫はあった。
こっちも使うだけ上限が上がるし、むしろこっちは上がり方が大きいようだ。
ただし間違いなく使い過ぎれば死ぬという確信があった。
あと取り出して使っていくと間違いなくなんらかの副作用があるという感じがした。
そこまで試す気にはならないが、だるくならない範囲でちょっとずつ使って上限を増やすようにしようと思うエリヤであった。
エリヤの生きる力のための修練の日々は密かに続いていく。
そして6度目の春、10歳を迎える。




