第12話 夏の終わり
夏休みの間、ずっと公園で絵を描いていた。
常に真剣に描いていた。ユナちゃん、マキちゃん、さらにはみどりさんにまで邪魔をされ、筆は遅々として進まなかったけれど、これまでで一番楽しい作業だった。
最初はみどりさんだけを描くつもりで。しかし、途中でユナちゃんとマキちゃんも同じ絵に収めたいと思うようになった。自由に動いてもらいながら描いていると、構図もポーズもどんどん変わって、本当に良いと思う形に落ち着くまで何度も描き直した。
楽しい時間ほど早く過ぎていく。
子供の頃なんてあっという間に終わってしまう。人生の最盛期はごくわずかなのに違いない。もしかしたら小学校卒業までが人生で、後は惰性の産物なのかもしれない。
そんな中で、この夏の日々は忘れていた宝物と出会ったような嬉しいものとなった。
雨でも晴れでも、人目があってもなくても、みどりさんは幼い娘たちと噴水を浴び、水鉄砲をかけあう。
時にはストロングゼロとスポーツサンダルを両手に持って、軽やかに飛び石を踏んでいく。絵を描いていてもお構いなしに僕を引っ張り込んだりもするけれど、ところどころ濡れて薄くなったワンピースは挑発的で、とても見ていられない。すぐに乾いてしまうのが残念なような安心するような。
いつも同じ格好のみどりさんに、いったい何着のワンピースを持っているのかと尋ねてみた。もちろん例のカードでだ。すると、同じものを十着も買ったのだという。初夏から初秋まで変えないとか。制服みたいで楽らしい。
絵を描くのは涼しい午前中で、昼には一緒に弁当を食べて帰るのが日課となっていた。僕の適当な昼飯を見兼ねたのか、いつからか僕の分も弁当を作ってくれるようになり、食べたいオカズをカードに書いて渡せば、次の日には必ず入れてくれるのだった。
みどりさんの味付けは少し濃い目で、それを伝えると不機嫌そうにカードに書き込んで、弁当は濃さが命と返ってきたりした。
そんなこんなで夏の盛りを過ぎ、日によっては水遊びも辛くなってきた頃、絵の方も仕上げに近付きつつあった。
僕が選んだのはパステル画で、何枚も試作した中の一枚を選び、それを仕上げていこうという段階だった。
しかし、本音を言えば、いつまでも終わらせたくなかった。絵が完成してしまえば、それでこの関係も終わりなのかと思うと寂しかった。
そのせいかどうか、仕上がり近い絵はどこか精彩を欠いていた。何かが足りない。それが明確に何であるかがわからないのだ。
絵を前にして唸っていると、マキちゃんが近づいてきて、いつものように、
「うまいねぇ」
と声をかけてきた。続けて、
「これなら、まにあうねぇ」
というので、夏休みが終わるまでに間に合うってことかなと聞いてみた。
「ううん、もうちょっとしたらオヒッコシするんだよ。ママはパパとリコンするんだって」
「え? 離婚って……。どこへ引っ越すの」
「しらない。ずっと遠くだって」
いつもと同じマキちゃんの口調が切なかった。少し離れてユナちゃんと遊んでいるみどりさんの様子もいつもと変わらない。
遊び疲れてベンチに座ったみどりさんに、2番の約束違反だなと思いながら、
引っ越すんですか?
と書いたカードを渡した。カードに目を通したみどりさんの朗らかな表情が、一瞬、ハッとしたようになって。これまで見せたことのないような真面目な顔で僕を見ると、
帰る。
とだけ書いたカードを渡された。木漏れ日の下、うつむくみどりさんの表情は憂いを帯びて綺麗で、哀しかった。
すっと立ち上がったみどりさんに、マキちゃんとユナちゃんも慌ててついていく。僕は完成間近な絵と、独り、公園に取り残された。




