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第11話 奇矯の人


 気怠い夏の日の午後。


 僕の前には、噴水にたわむれる微笑ましい親子の姿があった。結局、僕はみどりさんの出した条件を呑んでモデルをお願いした。


 ①これまで通り文字でやりとりすること。


 ②あれこれ余計なことを聞かないこと。


 ③出来上がった絵をくれること。


 どれも難しいことじゃない。ただ、これ以上、踏み込んでくるなと線引きをされたようで少し寂しかった。


 一度、こっそりユナちゃんに、みどりさんについて聞いてみたことがある。


『ユナちゃん、ママは家でも喋らないの?』


『うん。前はおしゃべりだったけど、いまはダメなんだ。シッセーショーなんだって』


『失声症かな。ママのお名前は?』


『んー? リディア』


『え? 外人さんなの』


『違うよ。ママは自分の名前が嫌いなんだって。もし、おにいちゃんに聞かれたら、リディアって言いなさいって』


『本当は?』


『だーめ! 2番の約束違反ですぅ!』


 という具合で、なかなかガードが固かった。みどりさんは、緑色に染めた髪とカラコンで、むかし流行ったゲームのヒロインを真似しているのだろうか。


 世の中には二種類の人がいる。水溜まりに足を突っ込める人と、そうじゃない人と。みどりさんは水溜まりに足を突っ込める人だ。この世界のあるべき大人の姿から外れて気の向くままに行動できる人。

 でも、それは、自由であるということは、強いということとイコールではなくて。子供時代を過ぎて大人になっても世の中と仲良くできない人は、そこから弾き出される。みどりさんが失声症になったのは、きっとそうして寄ってたかって追い出されたからに違いない。


 でも、僕は、子供時代をとっくに過ぎて、でも大人にもなりきれていない僕は、そんなみどりさんに強く惹かれてしまうんだ。


 夏の日の錆びた鉄の味を思い出す。


 子供の頃の忘れられないキス。悲しいキスは人を大人にはしない。子供のままに引き留める。食べられてしまいそうな大きく見開いた目は、あたりを警戒してやまないウサギの目によく似ていた。


 絵を描きもせず、ぼーっと考え事をしていたら、プシュッと顔に水をかけられた。


 驚く僕をみて嬉しそうにするみどりさんと、その隣で声をあげて笑っている姉妹は幸せそうで、このままずっと夏が終わらなければ良いと願わずにはいられなかった。


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