表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルトストーリア  作者: あきら ななせ
群青の創造主と静謐の聖騎士
37/64

暗闇で共にワルツを 3

 ひたすらに階段を駆け上った。

どれくらいの時間走ったのだろう。 どれくらいの時間独りだったのだろう。

実際にはただの何分間かもしれない。 だけれど、249階からずっと、走り続けている気がしていたのだ。

本当にこの階段は最上階につながっているのだろうか? もしかすると一階に戻ってしまっていて、そこからまたやり直しになっているのではないだろうか。

そんなことを、不安だからか思ってしまう。

 次第に暗闇が明るくなる。 光の漏れる扉に手を伸ばし、扉を開けた。

 眩いほどの青空、花の香り。 一面花畑で、どこまでも広い。

自分がいた場所は、確かヴァチカンの室内だったはずでは。 とキョトンとする。

すると、その広い空間の奥、巨木に埋め込まれるようにして一つの蒼い本が封印されていた。

魅力的で、美しい。 だがどこか、不気味さを放つ本。


「アルトストーリアとの初のご対面だねぇ」


 恭しい拍手をしながら近づいてきたのはアナスタシアだった。 祭星がエスペランサを隠すように身を退く。

「貴女を作ったのは間違いだったなあって思ってるの。 だって、良いように動いてくれないし。 可愛げがないから」

 アナスタシアの肩に剣が背負っているのが見えた。 あれがアナスタシアの武器なのだろう。

「私もそう思うよ。 私さえ作らなければ、貴女はここで死ななかったのにね!」

「あははっ! 言うねぇ。 でも大丈夫? アルトストーリアに吸収されるんだよそのエスペランサは。 それがないと戦えないんでしょ?」

 アナスタシアは祭星のすぐ近くに立ち、まとわりつくような視線を向ける。

祭星はアナスタシアの瞳を見た。 左目、紫色だった彼女の瞳の色が金に変わっているのだ。

「その目……」

「ああこれ? よく気づくよね貴女。 これであのゲートを調節してるの。 長年の研究結果の義眼。 これがあれば、ゲートなんて私のもの。 すごいでしょ? 手も足も出ないのは貴女だよね。

 ……お前に何ができる? エスペランサが無ければ戦えやしないお前に!」

 アナスタシアの嘲笑うかの様な声を、祭星はただ聞いているだけではなかった。 彼女がアナスタシアを睨んだ瞬間、頭上から複数の槍と剣、弓が地面へ突き刺さる。

「ここで戦う間エスペランサが使えないのならば、その前から武器を創っておけばいい」

 すぐ横に刺さっていた槍を引き抜いて、感触を確かめる様に片手で回す。

皆がここまで支えてくれた。

魔物のはびこるこの異質なヴァチカンで、最上階の幽郭の庭に辿り着いたのは今は祭星だけ。 これから増えるとは限らない。

残してきた仲間達が、力尽きているとは思わない。 だからこそ、自分のために残ってくれた仲間達のためにも。

 

 私が、勝たなければならないのだ。


 祭星がアナスタシアに斬りかかった。 アナスタシアは背負っていた剣を片手で持ち、振るう。

鉄と鉄が触れ合う音が聞こえて、辺りの空気を震わせた。

 そのまま後方へ飛びのき、飛翔の魔法を使って大きく飛ぶ。 空を蹴ると、まるでそこに壁でもあるかの様に青い波紋が広がってゆく。 それは魔法陣だった。

魔法陣を作り、そこに魔力を流し込んで足場にする。 魔法というより技術の応用といったところだろうか。 祭星はさらに、加速の魔法もそこに加えた。

勢いをつけ、アナスタシアに槍を突き刺す様に彼女に向かって落ちてゆく。

 だが、アナスタシアが剣を使って槍を弾いた。 すると槍は無残に音を立てながら粉々になってしまう。

 ──やっぱり、エスペランサが万全な状態で使えない分、脆くなってる。

 アルトストーリアの側にエスペランサが有るだけで、こんなにも支障が出るとは思わなかった。 これを危惧して、リオンは祭星を幽郭の庭に行かせたくなかったのだ。 大きな力を持つものは、別の大きな力に喚び醒まされ、そして一つになろうとする。

エスペランサの力は今、アルトストーリアに取り込まれつつあるのだ。 そうなることで、アルトストーリアはより完璧な魔道書となる。

 祭星はアナスタシアの振り下ろした剣から逃れ、次は弓をとった。 魔力で矢を形成し、大弓を引く。

「残念だけど」

 アナスタシアは矢を気怠そうにはらい、祭星の後ろにテレポートをする。 一瞬で移動したアナスタシアに驚きつつも身を翻し、流れる様に振るわれる剣を弓でうけて、弓は真っ二つに割れた。 これももう使えない。

 ──これもダメだ!

 こんなにも簡単に武器が壊れてしまうなんて。 だったらもう魔法を使うしかないのか?

だがエスペランサが完全に使えない今、部分詠唱では発動ができない。 完全詠唱となると二分も時間がかかる。 その間アナスタシアは自分を仕留めに来るだろう。

いつもエスペランサに頼ってばかりで上級魔法にしか手を出してなかった事を悔いる。 だからエルドリッジは「エスペランサ以外の戦闘方法を身につけたほうがいい」と言っていたのだ。 回りくどい言い方をせず、こうなるかもしれないと言ってくれたほうがよかったのに!

 右手で咄嗟に剣を持ち、思考を巡らせながらアナスタシアの首元目掛けて振り下ろす。

 アナスタシアは剣先でそれをいなし、剣を持つ手に力を入れる。 紫の魔力が刀身を包み、アナスタシアはニヤリと笑って横に勢いをつけて剣を薙いだ。

「ぐあっ……!」

 激しい衝撃波。 後方に吹き飛ばされながら、受けとめた衝撃で剣が朽ちる。

「腐朽、魔法……!」

 ゾッとした。 花をなぎ倒し、地面に転がりながらも前を見据えて立ち上がる。 あの剣を受け止めたのが自分の手や腹でなくてよかったと、心から思う。

そうであったらきっと、今頃自分の身体は朽ち果てて骨すら残ってないだろう。

 アナスタシアは面白くないと言った様子で剣を肩に担いだ。 あの紫の魔力はもう纏っていない。

「これで殺せるって思ったんだけど、運がいいね」

 ダメだ、完全に近接攻撃を断たれた。

どんなに強靭な武器を持っていたとしても、腐朽魔法に少しでも触れればそこからたちまち朽ちてゆく。 これでは鍔迫り合いも何もできない。

 だったら魔法は? でも彼女が腐朽魔法を身体に纏えば魔法が身体に触れた瞬間に朽ちるのではないか。

そもそも魔法に朽ちるという概念は、通じるのだろうか。

 やってみないとわからない。 祭星は剣の柄を投げ捨てて、フッと息を吐く。

ああ、そういえばアレがあったな。 と思う。 自分が色を持つことになったあの日、色を持つもののみに与えられる、魔力を使わなくとも発動できる特別な魔法。

何かを仕掛けてくると感じ取ったアナスタシアは、加速魔法を使い間合いを詰め、剣を突き立てた。 祭星は間一髪それを避けて、詠唱を唱え出す。

「《火よ 不朽の灯火よ 我らが足下を 照らしたまえ》」

「ハッ! そんな下級魔法で太刀打ちができるとでも?」

 バカにした様に笑うアナスタシア。

祭星はそれを見て、バカは貴女ね。 と心の中で思う。

「《見よ 蒼天の雷を 聞け 砂漠の海原に 大蛇が轟く姿を》」

 アナスタシアは最初、この白く弱い少女が何を考えているのかわからなかった。 下級魔法の火矢の詠唱が終わったかと思えば、次に唱え出したのは同じく下級の聖雷雨の詠唱。 バカな真似をするなと言わんばかりに剣に紫の魔力を纏わせて彼女の目を抉るように突き出すが、それを転びながらも避けて、また次の詠唱を始める。

「《嗚呼 我らが王、ランスロットよ》」

「ッ! こいつまさか!」

 だがそこまでバカではなかったらしい。 祭星としてはもう少し呆けていて欲しかったのだが、クラウンの妹だ。 多少頭の回転は速い。

でももう遅い。

「《力持たぬか弱きこの世界に 王の御力をお恵みください》」

 祭星の力ある言葉が、聞き入れられた。

下級魔法を二重詠唱し、そして最後に色を持つ者のみが知ることのできる極大魔法を組み込んだ。

極大魔法には魔力を使う必要がなかった。 真なる王を信仰する、彼女が世界を救おうと思う慈愛の心に、どれだけ王が応えるのか。 力を貸そうと思うのか。

それで成功か失敗かが決まる、技量に関係なく、詠唱時間にも関係のない魔法。

 聖王ランスロット。 部下思いの彼が、どうしてこの心優しい少女に魔法を授けぬことがあろうか。

 祭星は天に手を掲げる。 眩い光と共に三重の魔法陣が描かれて、無数の火矢と聖雷雨が降り注いだ。

アナスタシアは愕然とした。 この極大魔法は増大の魔法だった。 普段は色を持つ者達には選ばれることのない増大の魔法をこんなことに使うなど──!

 降り注ぐ魔法を凌ぐためにアナスタシアが魔法を使おうと剣を振りかざす。 その一瞬を狙って、祭星は火矢をかい潜ってアナスタシアへと近づき。

 蓮と、リュヌから授かった黒曜石の短剣を彼女の金の瞳へ突き立てた。

「あ″あぁぁぁッ!!」

 血を吹き出し、絶叫するアナスタシア。 祭星はその瞳を抉り取り、灼いた。

言われていたとおりやはりこれが魔界のゲートの動力源になっていたらしく、ヴァチカン全体を包んでいた重々しい空気がスッと消えていった。 ゲートが閉じた証拠だ。

これで下にいる仲間たちもこちらへ登ってこれるだろう。 だが、今警戒すべきは、意識を向けるべきだったのは仲間たちではなく眼前のアナスタシアだったのだ。

 アナスタシアは血塗れの手で祭星の胸ぐらを掴み、濁った声で言う。

「決めた……、お前は、楽には死なせてやらん……! 仲間の前で泣き叫びながら惨たらしく死ね!」

 蹴り飛ばされ、腰にさげていたエスペランサの裁きが奪われる。 アナスタシアの手にあるエスペランサはまるで彼女を嫌うかのように、憤っているかのように激しく輝き始める。 だがアナスタシアはそんな事を気にすることもなく、エスペランサを開くと、羊皮紙のページを破り捨てた。

「っ、ウッ、ぐ、ああぁ……!」

 エスペランサと契約している祭星にも、その痛みが襲いかかる。 アナスタシアがページを破くたびに、全身が引き裂かれるように傷が生まれ、激しい痛みが奔る。

そして、エスペランサ本人の叫び声も頭の中に響く。

「や、めて……! エスペランサが、泣いてる……!」

「バカなことを言うな。 これはただの本だ! 道具だ! それに心があるような言い草をするなよ小娘ェ!」

 エスペランサを投げ捨て、足元に咲く花を気にするそぶりもせずに踏みつける。 そのままうずくまる祭星の髪を掴み、苦痛に歪む顔を見て楽しそうに笑った。

「あはは! 痛そうだねェ! 本の心配をする前に自分の心配でもしてたらどうだい?」

「……そうやって、いろんな魔法具のことを蔑ろにしてたんですね。 心は、痛まないんですか!」

「はぁ? 物を物扱いして何が悪い! 頭湧いてるんじゃないのかお前」

 物を物扱い。

それを聞いた瞬間、どうしようもない怒りに心が支配される。

ああ、よくも。 よくもエスペランサのことを侮辱した。

カッとなった祭星を引き止めたのは、エスペランサでも自分の精神力でもない。


『使え』


 冷たい声。 だがそれは自然と、受け入れても良いものだと思った。


『少しだけ、力を貸してやろう』


 アナスタシアが剣を振りかざす。 祭星はそれを受け止めるように手を前に突き出した。

 すると、何も持っていないはずの祭星の手に剣が弾かれた。 アナスタシアは驚いたような顔をして、距離を取る。

「なんの真似だ……! 何をしている!」

「……声が、聞こえるの」

 ゆらりと立ち上がり、自分の手にぴったりと馴染むなにかが形成されていくのを見て、祭星がアナスタシアを睨む。

「自分を使えと、そう叫ぶ声が!」

 アナスタシアの後ろ、大樹に取り込まれるようにして封印されているはずのアルトストーリアが蒼い光を放っている。 起動しているのだ。

まさか、いやそんなはずは。 とアナスタシアがもう一度祭星を見ると、彼女の手には徐々にその力が形成されていった。

 祭星は手元に出来上がったそれを見る。

 蒼く輝く結晶で出来た杖。 星のように輝くその杖は、初めて手にした物なのに、自分の手にしっかりと馴染む。

「声だぁ? そんなものあるはずがないだろう! これは道具だ、駒だ!! 人間でもないものに心などあるわけが」

 杖をアナスタシアに突きつける。 光が溢れ、アナスタシアの体に何重にも巻きついていくように光が動いた。 それから逃れようとして、アナスタシアは無様に後ろへ倒れてしまった。

体を起こして、アナスタシアが祭星を睨む。

「貴女はそんな考えだったから、エスペランサにも、アルトストーリアにも選ばれなかったんです」

「知ったような口を……!」

 醜い声を出し、アナスタシアが祭星に剣を突きつけようとした時、動きを止めた。 そして剣を落とし、自分の頭を必死で抑える。

「くそ……ッ! 今更、どうして今更私を拒絶するの、兄さん……!!」

 脂汗が滲む。 彼女をクラウンが拒絶し始めたのだろう。

「どうして、どうしてよ! 十年間! 受け入れ続けたくせに!!」

 髪を振り乱して暴れるアナスタシアは、かなり滑稽だった。 アナスタシアが祭星の存在を忘れている今しかないと、杖を握る手に力を加える。

杖は祭星に応えるように力を増し、アナスタシアを光で包み込む。

ありったけの魔力を込めた。 だがどれだけ魔力を込めても、自分の魔力が尽きることはなかった。

見れば、アルトストーリアが未だに輝いている。 そしてエスペランサも。 二つの魔道書が力を貸してくれているのかもしれない。

 アナスタシアは劈くような悲鳴をあげながら、血を吐くような声で叫ぶ。

「いやだ! 死にたくない、しにたくないのよ! ねぇ、貴女だってそうでしょうッ!?」

「私はずっと死にたいって思ってたの。 この白い髪も、桁違いの魔力も、蒼い目も全部嫌いだった。 失いたかった」

 祭星がアナスタシアを睨む。

「でも今は死にたいって思わない。 私を認めてくれる人たちがいるから」

「だったら──!」

「でも人に縋り付いてまで、人を犠牲にしてまで生き長らえるのは間違っている!」

 力強く祭星が吼えた。 その瞬間、光が割れるように散って、アナスタシアが最後の悲鳴をあげた。

パラパラと形を成して散っていく光はとても綺麗で幻想的だった。 青空と、風に吹かれた花が揺れる。

ぱさりと音を立てて、赤髪の男性がその場に倒れた。 駆け寄って顔を見ると穏やかな表情で気を失っている。 どうやらアナスタシアは消えたようだった。 その表情は日本で劉艶慈と話している時のクラウンと全く同じ。

 祭星はホッと息を吐き出した。

なんとか、終わったんだ。

安心する祭星だったが、彼女はある気配を感じて弾かれたように立ち上がる。

警戒している祭星の後ろから、その気配がゆっくりと手を伸ばした。


「お前さえ……いなければ!」


 首を掴まれ、後ろに引きずられる。 バランスを崩し、倒れた祭星の上に乗って首を絞める赤髪の女性。 その女性は半透明で、朧げだった。

「アナ、スタシア……ッ!」

「ここは魔力が濃い。 意識体だった私もこうやって形を成せる……! 消える前に、お前だけは、お前だけは殺してやる!!」

 息が出来ない。 振り払うことすら。

「不出来な子供はいらない……! 言うことを聞かない兄だっていらない! お前たちを全員殺して、道連れにして──」

 涙に濡れる祭星の視界の奥に、一人の男性が映った。 その男性は確かな足取りでアナスタシアに近づき、鈍い銀のリボルバーをアナスタシアの頭へ向ける。


「誰が誰を殺すって? アーニャ」


 以前の、アナスタシアが体を支配していた時とは違う、静かで落ち着いた声。 その紫の瞳は蠱惑的で、表情を一切表に出していない顔は、完璧なまでに端整だ。

「ク、クラウン、兄さん……」

 クラウンが何も言わずに引き金を引いた。 重い銃声、アナスタシアはサァっと灰のように身を散らせて、消えていった。

 解放された祭星は、咳き込みながらなんとか体を起こした。 頭がクラクラと回って、そのせいか強い吐き気を覚えたが、なんとか乗り切る。

祭星の肩を支えたのはクラウンだった。 そして彼女の持っていた杖に人差し指を触れ、杖を粉々に砕いてしまう。

「君が持つにはまだ強すぎる。 アルトストーリアが力を貸してくれたようだが、完全に契約をするのはまだ後の方がいい」

 意識が朦朧としてきた。 一気に疲れが出たのだろうか。 クラウンは白い少女を抱きかかえて、出口へと向かう。 だが彼も満身創痍、ゆっくりと一歩一歩、歩みを進めるのが精一杯だった。

「君には、本当に迷惑をかけた。 感謝してもし尽くせないな……」

 ぐらりとクラウンの身体が傾く、なんとか足を踏ん張って、祭星を下ろして息を継ぐ。 動くたびに左目から血がポタポタと零れ落ちている。

「死んじゃう、んですか……」

 苦しそうな彼に、祭星が聞く。 彼女の手は自然とクラウンに伸ばしていて、彼はその手をとった。

クラウンと同じように、祭星も傷だらけだ。 白い髪は土や血で汚れて、マントは切り裂かれて。 だが涙に揺れる蒼い瞳だけがキラキラと輝いている。

「わたし、話を聞いて、会いたかった……。 おとう、さ……ん」

 気を失い、倒れる祭星。 クラウンがなんとか彼女を支えて、涙をこぼす。

こんな私でも、この子は父と呼んでくれる。

妹の欲望打ち負け、体を支配されて、望まぬ形で生み出されたこの少女。

この白い睫毛も、幼い顔立ちも、形の良い唇も、そして全てを惹きつける蒼い瞳も。


全て、自分がよく知る天界のあの方に瓜二つだ。

 

 嗚呼。 とクラウンは自分の愚かさを悔いる。

魔物の血と天使の卵子、クラウン自身の遺伝子。

 あの愚妹は、なんということをしてくれたのだろう。

考えるのは後にしようと、クラウンが立ち上がる。 だが力が入らずに倒れそうになるのを。

「クラウン!」

 リオンが支えた。 クラウンはリオンを見て、安堵する。

「リオン……、ありがとう」

「何いってるんですか……、貴方らしくない! 早くここから出て、ゆっくり休んでください。 話はそれからでも、間に合うでしょう?」

 ぼろぼろになった彼のアークナイトの隊服。 その後ろから六人の隊員が駆け寄ってくるのが見えた。

「ああ、そうだな……。 もう誰にも、邪魔されないのだから……」

 クラウンが力なく呟いて、意識を手放した。

こうして十年間、争い続けた彼は、やっと妹の呪いから解放されたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ