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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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100 ー観花会・閉幕ー







「……え、ジャレッド?」

 突然現れて糸目青年の後頭部に木の枝を振り下ろしたのは、水色の髪と水色の瞳の見知った少年、ジャレッドだった。

 はぁはぁと肩で息をしている。

(どうしてここに)

 いやそれよりも。

 今何をしたの。

 アデレイドは混乱の極地に居た。足元に転がる糸目の青年は無事だろうか。怖くて見られない。

 ハロルドはさり気なくアデレイドの前に立ち、転がる男を警戒している。

「この男は貴女を害そうとしました。敵です」

「敵……?」

 そこへさらなる混乱を齎す第三者の声が聞こえた。パチパチパチ、と拍手付きで。


「いや、お見事でした。お蔭で出る幕がありませんでした」


 アデレイドが振り返ると、仮面を外したヴィンセントがいた。

「え!?ヴィンセントさま……??」

 ユディネの聖導師長が何故エリスティアの学院に。しかもちゃっかり観花会を楽しんでいた格好だ。


「エリスティアに異動しました。お久しぶりですね、アデレイドさま」

「お久しぶりです、ヴィンセントさま……」


 釣られて挨拶をして、アデレイドはハッとする。

(あ、名前!男装してるのに。マズいよね)

 顔に手を当てると仮面が外れており、足元に転がっていた。

 今更だが、慌てて拾い、付け直す。

(いや、誰もいないから大丈夫かしら)


 アデレイドは気が抜けて座り込みそうになったが、視界の端に人影が映り、息を止める。

 この場にはもう一人。――最初に糸目青年が転がる原因になった人物がいた。

「こちらの少年は気絶しているようです」

 ヴィンセントがさらりと事もなげに言う。

「え?」

「あ、その方は先ほどその男とぶつかっていたと思います」

 ジャレッドの言葉にヴィンセントは頷く。

「なるほど、おそらくその男とぶつかって脳震盪を起こしたのでしょう。暫く安静にしていれば大丈夫だと思います」

 木の根元に座っている少年はうたた寝をしているかのように目を閉じ、少しだけ首が傾いでおり、黒っぽいおかっぱの髪がさらさらと風に揺れている。

(よく見るとこの方、アルフレッドさま……!?)

 クリスティーナの弟のアルフレッド・ウィンストンだった。

 ヴィンセントはアルフレッドをそっとあおむけに寝かせた。

 脳震盪は下手に動かさない方がいい。アルフレッドについてはそっとしておくしかないようだ。



「そ、それでこの人は一体」

 慌てて転がる青年に駆け寄り、息を確かめようと手を伸ばすがハロルドにやんわりと妨害されてしまう。

「大丈夫です、気絶させただけですから」

 ハロルドは気絶させておきながら油断せず、転がる青年から目を離さない。


「……アデレイドさま、これは『魔女』の眷属です」

「……え?」

 ヴィンセントの言葉に驚いて目を見開く。

「先ほど、この男と貴女が接触した瞬間、聖なる光が見えました」

「あの、静電気みたいな光ですか……?」

 アデレイドは半信半疑だったが、ヴィンセントは大真面目に頷く。

「アデレイドさま、貴女の正体を知られるわけにはいかない。ここは私に任せて貴女は行って下さい」

 ヴィンセントは懐から小瓶を取り出し、自身の襟元の釦を引き千切り小瓶の中身を振りかけ、何かを呟く。


「清き水よ、魔の穢れから守り給え」


 アデレイドはその釦が一瞬、青白く輝いたように見えた。

「アデレイドさま、失礼します」

 ヴィンセントはアデレイドの手首を取りその手のひらに釦を握り込ませる。

「これを。簡易的ですが退魔のお守りです。後ほどもっと正式なものをご用意しますが、一先ずこれをお持ちください。さぁ、奴が目を覚ます前に早く」

「………っ」

「アデレイドさま、魔女や王子も近くに居ます。ここにいちゃいけない」

 ジャレッドにも促され、アデレイドはぐっと唇を噛む。

(みんなに頼りっぱなしでいいのかな。私に出来ることは何もないのかな)

 アデレイドは躊躇したが、青年の治療と介抱をヴィンセントが請け負ってくれたため、後のことは彼に任せることにした。

(私はこの人に顔を見られるわけにはいかない)

 魔女に見つかってはいけない。

 それが最優先事項だ。

 仮面をしていて良かったと心底思う。ハロルドには感謝だ。

「ありがとう、ヴィンセントさま。ヴィンセントさまも気を付けて。……その人のこと、お願いします」

「はい、お気を付けて」

「ジャレッド、アルフレッドさまをお願いしてもいい?兄の婚約者の弟さんなの」

「!はい。救護室に運びます」

「ごめんね、ありがとう」


 もはや学院に留まることは出来ない。

 アデレイドはジャレッドにローランドへの言付けをお願いすると、そのまま裏門から出てハロルドの用意した馬車に乗り、学院を後にした。







 ヴィンセントは先ほどリュッカーがアデレイドの手に触れた瞬間、蒼白い光が立ち上ったのを見た。


(魔が払われた……)


 アデレイドには聖印を結んでいた。その効果もあるだろうが、アデレイド本人が持つ聖なる力が発動したのではないだろうか。

 アデレイドがレオノーラの生まれ変わりであることの実感にぞくぞくする高揚感と同時にリュッカーから『魔』が払われた事実に身が引き締まる。



(リュッカーは魔の眷属だから……?)


 先ほどアデレイドにそう告げたのはヴィンセント自身だが、眷属が存在するのであればそれはそれで脅威だ。

 ヴィンセントは念のため、横たわるリュッカーに小瓶の聖水をぱしゃりとかけ、聖句を唱えた。


「……うっ……」


 気を失っているリュッカーから苦悶の呻き声が零れた。









【観花会閉幕】*仮面卿コンテスト結果


 観花会の仮面卿コンテスト覆面審査員のジョーカー三人組こと執行部役員の面々は温室のガーデンテーブルにて秘密会議を開いていた。

 委員長のネイサンが重々しく副役員の二人に問う。

「貴君らの選考はどうなった」

「それはもう一択ですね」

「私も」

「では、いっせーので開示しよう」

「――仮面卿コンテスト、栄えある優勝者は――」


「「「オズワルド殿下!!!」」」




 最終選考は以下の通り。

・王女殿下→変身度合いは秀逸であったが酒を飲んでどんちゃん騒ぎを起こしたので失格

・次点、アルフレッド・ウィンストン。猫仮面が大変可愛いと女生徒に大評判。でも元々の造作が猫寄りのため、意外性に乏しいと、やっかみも含めて審査員たちが独断で却下。

・オズワルド殿下。 あまりにもおどろおどろしい仮面のため、人波が割れた。仮面の下の麗しい美貌とのギャップが一番大きかった、誰も王子様を見抜けなかった(ローランド以外)意外性が審査員満場一致で優勝。




 観花会の最期のダンスの後、執行部にて仮面卿コンテストの結果が大々的に発表され、オズワルド殿下には薔薇の花束と学食の特別ランチチケットが贈呈された。















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