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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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099





 アデレイドは人々の視線がステージ上に集まった瞬間にそっとその場を後にしていた。


(ローランド、ありがとう……!)


 ローランドの連れて来た相手が本物の王子様かどうかは定かではないが、抜け出すには絶好の機会だと判断したため後ろは振り返らずに駈け出した。


 背を向けた途端、会場からわっと歓声があがった。

 本物の王子様だったのだろうか。

(――もしそうなら、危ないところだったわ)

 ギリギリで回避できたことにほっとする。


 アデレイドとハロルドは無事ダンスエリアを抜け、建物を回って寮の近くまで来たが、思ったよりも寮の周りには人垣が出来ており、戻るのは難しそうだった。

 アデレイドとハロルドはいったんセドリックの宿舎へ避難することにした。

 木立に入った所で会場からもう一度歓声と拍手が沸き起こる。


(ちょっとだけ……ローランドと、踊りたかったな……)

 別に領地に帰ればいつだって踊れるし、そもそも交流会はまだそれ程親しくない者との親睦を深めることが目的の会だ。

 今ここでローランドと踊る必要はない。

 それでも、学生のみのこの空間でローランドと踊れたらきっと素敵な思い出に出来るのに。

(……ダメダメ、王女も参加しているかもしれないのだもの。王子もいるし、見つかったら大変)

 アデレイドは未練を断ち切るように首を振って、雑木林へと向かった。









 リュッカーはハワードに捕まったせいで女生徒たちに囲まれ、立往生を余儀なくされた。

 乱暴に振りほどくことも出来ず、内心舌打ちをする。


 銀の髪の娘たちの中に『本物』がいるのか確認したかったのだが、これでは時間がなくなってしまう。


 ハワードも仮面の下の顔に興味があるのか、先ほどから令嬢たちに内緒話をするように顔を寄せて口説くと仮面を外させてとちらりと素顔を覗いているが、令嬢たちは勿体ぶってハワードにしか見せないのでリュッカーは収穫なしだ。


「……。ご令嬢方、私にもあなた方の可愛らしい素顔をお見せ願えないか」


 リュッカーとしては精一杯下手に出て頼んだつもりだが、令嬢たちはくすくす笑って取り合わない。


「ダメですわ。今はまだ、お互いの素顔も名前も知らぬまま、会話を楽しむ時間ですわ」

「だが、ハワード卿には見せているだろう!」

「ハワードさまとはお友達ですもの」



 リュッカーがもう強引に令嬢たちを押しのけて行こうかと考えた時、会場の中央から円舞曲の演奏が聞こえてきた。


「あら、もうダンスが始まってしまいますわ」

「ハワードさま、どなたを選びますの」

 令嬢たちがハワードに詰め寄り、リュッカーを囲う令嬢たちの輪が解け、リュッカーは抜け出すことに成功した。

 とはいえ、既にパーティーの前半が終わってしまい、何も掴めぬまま時間を浪費してしまっただけだ。

 一曲目のワルツが終わるタイミングで全員仮面を外す。

 その時に出来るだけ多くの令嬢の顔を確認しようと、リュッカーは園庭の中心のダンスエリアへ急ぎ足で向かった。





 オズワルドと別れたヴィンセントは裏門へ向かっていた。

 雑木林に差し掛かったところで、彼は前方にキラキラと輝く人影を発見した。

(あれは――アデレイドさま!?)


 こんなところで会えるとは、と気分が高揚したが、直後に彼女の近くに灰色の靄があるのを見て息を飲む。


(――陰……)

 ――魔女――!


 ヴィンセントは駈け出した。





 ひとりひっそりと物思いに耽りたくて喧騒を逃れて木立の奥まで来ていたアルフレッドは、ぱたぱたと誰かが近付いて来る足音に気付いて座っていた木の根元から首を伸ばすようにして後ろを振り返った。

 ――――その、瞬間。

 ダンスエリアから大きな歓声が聞こえるのと同時に。

「!?」

「どわぁ!?」

 がつんと何かにぶつかってアルフレッドの意識は途絶えた。




 アルフレッドが突然木の裏からひょっこり顔を出したがために、走っていた青年は避けきれず、アルフレッドに衝突して転び、ゴロゴロと転がって止まった。少しだけ地面が傾斜していたようだ。



 青年は暫く動けなかった。アルフレッドの頭が丁度彼の腹に会心の一撃を与えていたためだ。一瞬息が止まった。

「う……」

 青年が小さく呻きながら四つん這いになってゆっくりと身体を起こそうとしたその時――。





「ふぁっ!?」


 ……今度は彼に気付かなかった誰かにごりっと頭を踏まれて再び沈んだ。




 アデレイドはちらりと後ろを振り向いて、ハロルドが後に続いていることを確認すると安堵してそのまま走り続けようとした。ところが、足元が少し窪んでいることに気付かず、バランスを崩してしまった。

「あ、あぶな――」

 ハロルドが言いかけた時は遅かった。

 何かに躓いて転びかけたが、寸でのところでハロルドに身体を支えられてアデレイド自身は事無きを得た。


(でも何かを踏んじゃった気がする!!)


 慌てて視線を落とすと青年が頭を押さえて悶絶していた。


「だ、大丈夫!?」

(わー!?ごめんなさい!!)

 青年が頭に手を当てたまま顔を上げる。アデレイドは屈みこんで青年に怪我がないか確認しようとした。転んだ時に青年の仮面は外れていたようで、素顔が露わになっていた。

 少しキツそうな切れ長のつり目の青年だった。

 傷などはなさそうだったが青年は苛立たしそうに眉根を寄せてアデレイドを睨み付けるとアデレイドの手首を掴もうとした。

 ――その時。

 青年の指先がアデレイドの手の甲に触れた瞬間、バチッと蒼白い光が弾けた。

「!?」

(なに?)

 強いて言うなら強烈な静電気だろうか。アデレイドに痛みはなかったが火花が大きかったので少々驚いた。

 青年も糸目を見開いて驚愕していた。

 しかし、青年が動きを止めたのは一瞬、直後に腕を伸ばしてアデレイドの仮面を剥ぎ取ろうとした。だが腕が届く前にハロルドがアデレイドを庇うように抱き寄せながら身体を入れ替えて前に出ると青年の腕を蹴り上げ、流れるような動作で足を払う。青年が膝を付くのと同時に木の影から少年が躍り出て、青年の後頭部に何かを振り下ろした。


「ぐふぅ!?」

 さらにハロルドの鋭いけりが青年の顎に炸裂した。


(――――は!?)


 ガツン、どかんとすごい音がして、ぱたんと小さく青年が倒れたのであろう音が聞こえたのを最後に、森は静かになったのだった。












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