096
最後の余興と共にダンスのパートナー探しが佳境に入った。
学生同士の交流を目的とした会なので、裏方組もここで終了である。以後は学院の使用人が業務を引き受け、裏方担当達も着替えて交流会に参加する。
ローランドも使用人頭に引き継ぎの指示を出し、業務を終えた。
その瞬間を待っていたと言わんばかりに数人のご令嬢がローランドの前に現れた。
「ローランドさまに婚約者がいることは分かっています!でも、どうか一度だけ、ダンスを踊って頂けませんか!?」
ローランドは瞬いた。
仮面を着けているので定かではないが、見知らぬ女生徒のように思える。
「すみません。婚約者以外の女性と踊るつもりはないのです」
令嬢のうち、二人は黄色や水色のドレスだったが、一人は銀髪に白のドレスだった。
ローランドは他の令嬢と踊っても絶対に心がアデレイドを求めて彷徨ってしまう自信があった。心ここに在らずな態度で、きちんと目の前の相手に誠意を持って接することが出来そうにない。
それは相手の令嬢に対して失礼だ。
銀髪の鬘の令嬢に対してはもっと複雑だ。
その髪色だけは他の令嬢のように無関心でいられない。感情が逆撫でされてしまう。
アデレイドが本来の姿でこの会場にいたのなら、気にならなかっただろう。
アデレイドしか目に入らないだろうから。
けれど今は銀髪の鬘の令嬢からは目を逸らしたい気分だった。彼女たちが悪いわけではないが、腹の底に微かに滾る苛立ちを自覚していた。八つ当たりしてしまいそうな自分を律するのに精一杯だ。
社交の一環として、今後アデレイド以外の女性と踊らなくてはいけない場面も出てくるかもしれないが、今はまだ学生の気楽な身分で、このパーティーも遊びのようなものだ。
我儘を通しても構わないだろう。
「それは……婚約者様が悋気を起こすから、ですか?」
「そういうわけでは……。いや、でも……そう、かな……?」
訊ねられたローランドは否定しかけたけれど、途中で言葉を濁し、心なしか嬉しそうに微笑んだ。
「………!!!」
(何ですの、その笑顔!!)
(反則ですわー!可愛い――)
(ローランドさまの一途さは婚約者さまも含めて尊いですわー!)
三人の令嬢は陥落した。
(アディ、他の令嬢に給仕しないでほしいって言ってたし……。ダンスも……妬いてくれるかも……)
ちょっとむくれるアデレイドや涙目で睨み付けてくるアデレイドを想像したらぎゅんと体温が上がった。
(ダメだ、可愛い……)
「会いたい……」
両手で顔を覆って悶えるローランドに、令嬢たちは長いこと婚約者に会えていないのね、と同情した。
「ローランドさま……」
その光景を少し離れたところから目撃したジャレッドは呆れ顔で呟いた。
(いや、毎日ひとつ屋根の下でいちゃいちゃしてますからね、この人は!!)
ジャレッドの切実な心の叫びは残念ながら誰にも届かない。
*
『――本日の観花会にオズワルド王子殿下がご参加されております――。』
そのアナウンスにアデレイドは思わず足を止めた。
(オズワルド王子って……確かサイラスがエルバート殿下の生まれ変わりって……)
確認のためハロルドを見上げると、逡巡しながらもこくりと小さく頷いた。
(やっぱりそうなのね……。この中に、いるんだ……)
とくとくとく、と心臓が早鳴る。不安と微かな恐怖。……見つかりたくないという気持ち。複雑な感情が吹き荒れる。
(まだ、ちょっと怖い……)
魔女に見つかる恐怖とは少し違うけれど、ここで見つかるわけにはいかないのは同じ。
「……行こう、ハロルド」
アデレイドは緊張で強張る足を叱咤して無理矢理踏み出した。




