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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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095






(我ながら完璧な変装だ)

 レオノーラ王女はほくほく顔で赤ワインを呷った。

「レオナさん、お強いですね」

「え~、それほどでも……」

 レオノーラの周りには数人の男子学生が侍っている。

 彼らは競うように彼女のグラスにワインを注いでくれる。

 ちなみにこの赤ワインはレオノーラの持ち込みである。

 今の王女は黒髪縦ロールに黒ドレス姿だ。仮面は黒い羽根をふんだんに使い豪華に仕上げた目元を覆うだけのもの。ドレスにはこれでもかとリボンとレースがあしらわれている。一種異様な迫力を醸し出しているのだが本人は(どうだ、めちゃくちゃ可愛いだろ!)と胸を張っていた。

(ふふふ……普段のわたくしからは真逆のコーディネイト!これでリュッカーにはバレぬであろう)

 見た目は酒場の色っぽいお姉さんがゴテゴテした黒リボンドレスでちょっと甘えた口調で喋るものだから一部の男子学生には刺激が強すぎた。

 昼間の庭園とは思えぬ、夜の雰囲気が漂うその一角には一種異様な空間が出来上がっていた。





 ヴィンセントは人波の間を縫って会場内を一周した。

 女子学生の大半は銀髪の乙女姿だが、時折それ以外の令嬢も見かける。

(数が少ない上に中には強烈な個性のご令嬢もいるから寧ろ目立つな……)


 ヴィンセントは先ほど見かけた黒髪黒ドレスの女生徒を中心に数人の男子学生が囲む一角を思い出してこめかみを押さえた。

(……というか、まさかあれが王女とは…………)



 例え髪が黒くとも、仮面で目元を隠していてもヴィンセントが魔女の顔かたちを見分けられぬはずはなかった。

 

 だが魔女の禍々しさは全く感じなかった。

(覚醒していない?だが―――)


 王女は暢気に、あるいは陽気に男子学生らと酒盛りを楽しんでいた。








 脱水気味だった青年は、水を飲んだ後はしっかりとした足取りで去って行ったため、アデレイドはホッと息を吐いた。

「なかなか強烈な仮面の人だったわね」

 アデレイドはくすっと笑ってハロルドを見やると、ハロルドは遠ざかる鴉青年の後姿をじっと見つめていた。

「どうかした?」

「あ、いえ」


 ハロルドは慌ててアデレイドに向き直ると今度はアデレイドの姿を見つめて頷いた。

「大丈夫です、行きましょう」

「……?うん」

(あ、その前に)

 男装姿の給仕係の女生徒たちに目を向ける。

(動きやすそう)

 女生徒たちは半分ほどが男装を選んでいるようだ。すっきりとした着こなしでとても格好いい。

(女性のモーニングコートもいいわね)

 丁度目の前に通りかかった男装給仕係に軽く声を掛ける。

「男装、格好いいですね」

「!ありがとうございます!とても動きやすくて、わたしたちも気に入ってます」

 男装給仕係の女生徒は嬉しそうに微笑んだ。

(うんうん、わかります~。ロングスカートも素敵だけど、パンツの方が活動的な気持ちになるものね)

 なんだか同士が増えたようで、嬉しくなるアデレイドであった。







「ここで最後の余興です。本日の観花会にオズワルド王子殿下がご参加されております!見つけられた方には殿下より薔薇を授与頂きます。殿下を見つけられた方は壇上へおいでください!締め切りは一曲目の円舞曲を踊り終わった後、仮面を外すまでです」

 ざわりと会場内がさざめく。

「なお、間違えた場合は好きな人の名を告白していただきます~!」

「え―――!!?」

 再び会場内がざわめく。


「え、王子様いるの!?」

「どの人だろう~」


「絶対見つけるわよー!」




 アルフレッドはカクテルグラス(ノンアルコール)を片手にぼんやりとパーティー会場を見つめていた。

(銀髪に白のドレス……)


 きらきらと輝く銀髪はかの少女を彷彿とさせる。

 一瞬、アデレイドが観花会に現れたのかと思ったが、その後ぞろぞろと似たような格好の令嬢たちを見て、今年の流行なのだろうという結論に落ち着いた。

(アデレイド嬢……お元気だろうか……)


 アルフレッドが物憂げな溜息を吐いたその時――。

「王子様ですよね!?」

「―――――は?」


 数人の銀髪の女子学生たちに取り囲まれた。



 壇上で仮面を剥ぎ取られ、秀麗なかんばせが露わになると、きゃあー!と悲鳴が上がる。

 彼の仮面は顔の上半分を覆う種類の猫型だった。猫耳付で愛らしい。選んだのはクリスティーナである。

「―――残念!彼はアルフレッド・ウィンストン君!王子様と間違えるのも納得のイケメンですね~。彼は将来有望な伯爵家の嫡男です。では間違えた皆さまは好きな人を告白してください~」

「え――――!?」

 アルフレッドを壇上に連れ出してきた令嬢たちは恥ずかしそうにきゃあきゃあと声を上げている。

 アルフレッドは何が起きているのか今ひとつ理解出来ていなかったが、姦しさにアデレイドのイメージがかき消されて行く。

(あー煩い!……ちょっと静かなところへ行こう…………)


 彼はひとり木立の奥へふらふらと逃げ込むのであった。










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