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「わぁ」
アデレイドは思わず驚きの声を零した。
(銀髪のご令嬢だらけ)
隣にいるハロルドを思わず見上げる。
「不思議な光景ね……」
ハロルドも頷く。
「そうですね……。私は流行に疎いのですが、あれは馬の毛を被っているようです。不思議なものが流行りますね……」
(うーん。論点がズレている気がするわ。でも馬の毛の鬘なのね、なるほど)
アデレイドはこっそりと寮を抜け出したところでハロルドに捕まった。
一目見たらすぐに戻ってくるつもりだったが、ハロルドは外出事態を反対した。ハロルドを説得するのは予想以上に骨が折れた。
なんとかハロルドを説得してここまで来たが、ローランドの給仕姿を一目堪能したら即退散する予定だ。
ローランドを探そうと会場内を見回したところ、ドレスコードなのか?というくらい殆どの女生徒が銀髪に白のドレス姿だった。
(違う女生徒もいるけど……圧倒的に銀髪……)
何かの流行だろうか。
(よく分からないけど……これなら髪色を戻しておいた方が目立たなかったかしら)
そんなことを考えていたらローランドを見つけた。
(あ、いた。わぁ~カッコいい)
ローランドは片手にいくつかティーポットを載せたトレーを持ち、各テーブルを回って注いでいた。
髪をオールバックにしており、いつもと違う雰囲気にドキドキする。
背筋がすっと伸び、時折参加者から飲み物のリクエストなのか、話しかけられるとにこやかに対応し近くに居た給仕係に指示を出している。
他の給仕係から話しかけられてもテキパキと対応していて大変頼もしい係長ぷりだ。
じっと見ていると、視線に気付いたローランドがちらりと目線を上げた。
(あ、気付いた)
「……!?」
その途端、ローランドは素早くお茶を注ぎ終えるとアデレイドのいる木の陰へと近寄って来た。
「アディ!?なんでここに」
「ローランドの給仕姿を見たくて。カッコいいね」
「!!……ありがとう……、じゃなくて。……その恰好は……」
アデレイドはきちんとジャケットを着用し、仮面を着けていた。
……つまり男性の参加者姿だ。
上げ底靴を履いているためいつもより少しだけ背が高いので印象が違う。ジャケットも肩幅を出すデザインで力強さがある。
その上仮面はフルフェイス型で、顔は見えない。
「ハロルドが仮面を着けないと出てきてはダメというから……。でもよくわかったわね?」
「わかるよ。アディなら一目で」
ふわりと微笑むローランドにアデレイドも笑みを浮かべる。
(私も……ローランドが仮面をしても多分わかる……)
和んでしまったが、一目で変装を見抜かれてしまうと、変装の意味がない気がする。
「他の人にも分かるかしら。それだと拙いのだけど」
「いえ、恐らくローランドさまにしか見分けられないかと」
ハロルドの言葉にローランドは瞬いた。
(どうかな……セディ兄にも分かると思うけど……)
どちらにしろ身内なので問題はない。
ローランドは改めてアデレイドを見る。
(アディだとすぐわかったのはなんだろ……頭の形とか、髪の柔らかさとか……。確かに背格好は少しイメージとブレるけど基本的な骨格は変わっていないし。あとは仕草?さっき僕と目が合った時の愛らしさとか……)
仮面を着けていても、アデレイドが微笑んだのが分かった。
知らず、ローランドの口元が緩む。
「……あの。ローランド?くすぐったいよ……」
アデレイドの言葉にハッとすると、ローランドの手がアデレイドの耳に触れていた。
無意識に撫でていたようだ。
「ご、ごめん……」
アデレイドの耳が赤く染まっている。
この可愛い耳も、ローランドがアデレイドを一目で見破った要素の一つだろう。
今すぐ仮面を剥ぎ取ってアデレイドの顔を見たかったけれど、ここではダメだ。
(早く寮祭終わらないかな……)
ローランドが悩ましげな吐息を吐いている。アデレイドはドキドキしてどうしていいかわからなくなってしまったけれど、こほん、と遠慮がちなハロルドの咳にハッとする。
「あ、ローランドそろそろ給仕に戻らないとね」
「あぁ……うん……。そうだね……」
なにやらローランドが黄昏ている。
「もうローランドの給仕姿も見られたし、これで撤退するわ」
「うん、気を付けて。……ハロルド、アディをよろしくお願いします」
「はい、この命に代えましても」
「………」
相変わらずの下僕ハロルドの大仰な物言いにたじろぐけれど、アデレイドが大切なことは一致しているので頷く。彼は同士だ。
別れる直前、アデレイドはローランドの耳に顔を寄せそっと内緒話を打ち明けた。
「ローランド、さっきすぐ気付いてくれて嬉しかった!あのね、私もローランドが仮面していてもすぐ分かるよ。この後も給仕係頑張ってね。……でも、あんまり女生徒に給仕しないで。……やきもち、焼いちゃうから……。そ、それだけ!じゃあね!」
最後は恥ずかしくて小声になってしまったけれど、アデレイドは言いたいことを言うとさっと身を翻した。
後に残されたローランドの顔は真っ赤に染まっていた。
*
ローランドと別れてドリンクサービスの簡易テントの横を通り抜けて寮の裏手へと回ろうとしたその時。
「すまない……水を一杯貰えるか」
一人の学生がよろよろとカウンターに縋り付いた。
しかし生憎とスタッフは出払っていてバックヤードには誰もいないみたいだった。
青年はぐったりとしており、軽い脱水症状のようだった。
アデレイドは急いでカウンターの中へ入りグラスに水を注いだ。
青年は黒の帽子に全身をすっぽりと覆う黒のマントを羽織り、鼻の部分が大きく尖った鴉の仮面を着けていた。
いくら仮面パーティーとはいえ、一種異様な雰囲気は死神のように見えて少し怖い。アデレイドは突然異界に紛れたような気持ちを味わいながらそっとグラスを手渡した。
「どうぞ」
「ありがとう」
青年はごくごくと水を飲むと、にこりと笑って立ち去った。




