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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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093






「ではこれより余興を始めま~す。皆さま、お手元に指令カードのご準備は出来ていますか?」

 仮面を着けた学生たちは受付で封蝋されたカードを受け取っていた。

「皆さまにはこれより宝探しゲームをして貰います~」

 会場が騒めく。

「ルールは簡単です!指令カードに書かれた物を見つけてください。皆さまには事前に指令カードに書かれた物を持参頂いています。ですが誰が何を持っているかは本人だけが知っています。皆さまは沢山の方と交流して、自分の指令カードに書かれた物を見つけてくださいね~」



 参加者たちが一斉に動き出した。





「さぁ、王子様。出番ですわ!」

 ナタリアにぽんと帽子を被せられてオズワルドは温室を出た。




 無意識に視線が「彼女」を探してしまう。

 皆同じドレス姿で髪型も同じだからこそ、余計に違いが際立ってしまう。

(いない……違う……「彼女」ではない…………)

 ドレスはよく見ると令嬢の体格によって多少デザインが異なるようだった。

 背の高い令嬢、低めの令嬢、ふくよかな令嬢と全く同じデザインでは逆に違和感が生じるため、よく見ないと分からない程度にだがそれぞれの令嬢に合うよう工夫されているのだった。

(そんなことに気付いてしまうなんて)

 オズワルドが思わず自嘲してしまうほど、先ほどから目が銀髪の令嬢を追っていた。






 エリザベスは銀髪の乙女の軍団に度肝を抜かれていた。

(な、何よこれ……。聞いてないわよナタリア――――――――――――――――!?)


 エリザベスは蜂蜜色の生地に、黒と銀糸のアクセントをあしらったデザインのドレスを纏っていた。仮面はドレスと共布で蝶を模っている

 めちゃくちゃオズワルドカラーである。


(でもこんなみんな銀髪だなんて……)


 これでは「その他」の女子は彼の視界にも入らないのではないか。

 さらに鬘も被っていないのでトレードマークの薄桃色の髪でエリザベスだと丸わかりである。





(しかもこれって…………)

 手元にある指令カードには『王子様』と書かれている。

 明らかに仕込みだ。カードを持った手がぶるぶると震える。ナタリアに色々問い質したいことはある。しかしその前にそもそもの話。

(というかオズ兄さまはどこよ――!?)

 オズワルドの姿が見当たらないのだった。






 あちらこちらで『宝探しゲーム』が盛り上がっていた。

「あの、もしやそのポケットからのぞいているのは……『ピンクの子豚』では…?」

 一人の女生徒が男子生徒の胸元のポケットから顔を出している小さなぬいぐるみに食いついた。

「あっ、はい。ソウデス……」

「きゃー!しかも『子豚に真珠』バージョンではないですか!ピンクの子は激レアですわよね!?」

「そうみたいですね。あ、よければ差し上げますよ」

「いいのですか!?え、神ですか!?」

「いや、これはたまたま商店街の福引で当たっただけなので……。何故か本日持参するように指令されていて」

「ご存じないのですか?今このシリーズは老若男女に大人気で――」




 仮面を着けていても均整の取れた体格で目立つ者はいる。会場内でも目端の利く女生徒たちに囲まれている者が何人かいた。

 ハワードもそのうちの一人だ。

ハワードは観花会に銀髪に紫色の瞳の清らかな乙女が現れるという噂を聞いて、急遽参加を決めた。

王女の動向を探るためと、リュッカーの監視を兼ねている。

 ハワードを囲むのは銀髪の令嬢たちだった。

「お嬢さん方は仲良くお揃いの装いを選んだのかな?」

「ふふふ、偶然ですわ」

「妖精みたいでしょう?」

「あぁ、とても可憐だよ。仮面の奥の瞳の色が見てみたいな」

「ではダンスのパートナーに選んでくださいな」

 きゃっきゃと軽やかな笑声が跳ねる横を通りかかった青年に、ハワードが声をかけた。

「おや、リュッカー殿。貴殿も参加されていたのですね」

「…………」

 無言で通り過ぎようとするリュッカーの腕を取り、輪の中に引き寄せる。

「……なんの真似ですか、マクミラン卿」


「ダンスのパートナーはもう決まっていますか?お嬢さん方、この方もパートナーを探していますよ!」

 勝手に売り込まれてリュッカーの片眉が跳ねるが、時すでに遅く女性陣に取り囲まれて身動きが出来ない。




 ジャレッドは気は進まなかったが、一応アベル、もといリュッカー侍従の位置確認だけはしておこうと、会場内を移動した。


 現在、宝探しゲームが進行中のため、参加者は広範囲に散らばっている。

 気の合う者同士は早くも木立の中で甘い空気になりつつある。


 知らず、ジャレッドの眉間に皺が寄る。

(くっ……、見せつけてるんじゃねぇよ……!)

 少々やさぐれ気分の為、口調が荒むジャレッドであった。

 哀れな給仕係は絶賛お仕事中である。本来給仕係チームは婚約者持ちのため、こんな気持ちになるのは婚約者がいないにもかかわらず裏方にいるジャレッドだけだ。

 アベルもいれば一緒に愚痴れたのに……などと考え、あいつは敵だったと思い出す。

 まだアベル=リュッカーだとうまく認識が出来ない。


 とぼとぼと当てもなく木立に入り、――目撃した。


 リュッカーが大勢の女子学生に囲まれているところを。


(―――は!?あいつ、モテるの!?)


 ―――裏切られた。

 アベルの正体がリュッカーだと知るよりも衝撃を受けるジャレッドであった……。







この作品の一話目を投稿したのが2016/3/1でした。

10年!!

長くお付き合いいただきましてありがとうございます。

あともう少しだけよろしくお願いします。

ちゃんと完結させます。

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