第二十九話:帝都中枢の沈黙と、新当主の戴冠
「法規、予算、スキャンダル――すべて精査済みです」
怒号を飛ばす貴族院議長の手元へ一斉に届く、致命的な証拠の数々。
学園の生徒会執行部が培ってきた実務力と情報網が、帝国の腐敗した権力者たちを完膚なきまでに追い詰めます。
実家を掌握し、帝国最高権力機関に白旗を揚げさせたアイラが目指す次のステージとは――。
3章最終話直前の爽快なチェックメイトをぜひ見届けてください!
執務室の中央に浮かぶ大型立体映像から、貴族院の重鎮議員や法務卿たちの怒鳴り声が響き渡る。
「ヴァルハイト公爵令嬢! 親を拘束し、本邸を占拠するなど言語道断! 学生風情の分を弁えぬ反逆行為、即刻帝国憲兵隊を差し向け極刑に処すぞ!」
「貴族法違反、私兵動員罪、反逆予備罪……どれをとっても死罪は免れん! 今すぐ武装を解き、本邸を明け渡して出頭しろ!」
画面の向こうから浴びせられる高圧的な圧力と脅迫。
なーにを大口叩いてるんだか。
怒声が飛び交う中、私は当主の玉座に深く腰掛け、セリアが淹れたばかりの紅茶を優雅に一口含む。
生徒会メンバーも慌てる様子はなく、リサは淡々と眼鏡を直し、ノアは手元の端末を軽快にタップしている。
「……騒がしいわね。窓口でのクレーム対応は、まず用件を要約してから申し出るのがマナーではなくて?」
私は指揮杖の先で机をトンと軽く叩き、鋭い視線を画面の重鎮たちへ向ける。
「帝国貴族法第42条第3項――『当主が国家反逆および重大な経済犯罪を犯したと明白に認められる場合、直系後継者は緊急統制権を発動し、身柄を確保の上で資産を保全できる』。……違法性などどこにも存在しないわ」
リサも横から書類をかざし言う。
「ついでに言えば、帝国魔導学園・生徒会規律規約第1条『学徒の安全を脅かす外部脅威の排除』にも完全に合致しています」
屁理屈だと顔を真っ赤にして叫ぶ貴族院議長。
「ふ、法を都合よく解釈するな! 貴様のような若造に前当主の不正を立証できる証拠などあるはずが――」
「証拠なら、山ほどあるわ。……リサ、セリア。『あれ』を皆様の端末へお配りしなさい」
ノアが手元の魔導端末を軽くエンターキーのようにタップする。
通信画面の向こうにいる貴族院重鎮議員たちの端末から、一斉にデータ着信音が連続して鳴り響く。
「前当主の私有金庫および地下書架から押収した、過去十年分の裏取引記録・賄賂送金履歴のコピーです。議員の皆様の口座番号および仲介業者名まで、正確に照合済みです」
威勢よく怒鳴っていた重鎮Aや法務卿が、手元の端末に表示された数字と名義を見て一瞬で表情を凍りつかせる。
「な……っ!? こ、これは……なぜこの記録が貴様らの手にあるのだ……!」
「ば、馬鹿な……裏ルートの暗号資産まで完全に解読されているだと……!?」
セリアが優雅に扇子を広げ、蠱惑的な笑みを浮かべながら画面へ歩み寄る。
「あら、驚くのはまだ早いですわよ。帝都裏サロンで皆様がご贔屓にされていた『秘密の遊興記録』や、他領地への不当な関税優遇の密約書……そちらも一字一句違わず手元に揃っておりますの。……明日の朝刊に載せたら、皆様の議席はどうなってしまうかしら?」
完璧な外堀埋めと致命的な急所を突かれ、大声を出していた議員たちがガタガタと震えだし、額から滝のような冷や汗を流す。
私は冷徹な支配者の瞳で、黙りこくった重鎮たちを一人ずつ見据える。
「父親の罪を追及する過程で、ついでに芋づる式に出てきてしまったのよ。……さて、私を反逆罪で処刑なさるならどうぞ? その代わり、このデータは今この瞬間に帝国全土の報道機関と皇帝陛下直属の監査局へ転送されますけれど」
汚職データを突きつけられて蒼白になった法務卿が、なおも権威を保とうと声を絞り出す。
「ぐ……っ、だ、だが貴族院が黙っていても治安維持軍は別だ! 帝都本邸を武力占拠した暴徒として、近衛兵団を投入すれば貴様らなど一瞬で鎮圧できる!」
通信画面の画角内へ、白銀の甲冑を纏ったギルバートが一歩進み出る。
その姿が映った瞬間、画面向こうの議員たちから「ぎ、ギルバート卿……!?」とどよめきが走る。
「無駄だ。ヴァルハイト公爵家直属の筆頭騎士団、ならびに帝都配備の私兵部隊は、すでにこの私が指揮権を接収した。領内・本邸ともに治安の乱れは微塵もない。貴殿らが勝手に軍を動かせば、それこそ私戦を禁じる帝国法違反となるぞ」
帝国最強の剣士が新当主の背後に控えているという圧倒的な軍事的現実が、貴族院の武力介入の選択肢を完全に粉砕する。
続いてタクトが私の隣に立ち、手元で青く輝く偏向障壁の術式紋章を軽く明滅させる。
「本邸を覆う古代防衛結界と、帝国魔導学園の基幹結界の同期を完了しました。現在、本邸内外への外部転移および武力介入はすべて生徒会セキュリティの監視下です。物理的・魔導的な実力行使は一切通りません」
最強の前衛による鉄壁の守護宣言だ。
リサの法脈、セリアとノアの情報、ギルバートの武威、タクトの防衛。
一切の隙がない盤石の包囲網を前に、貴族院側は武力・権力・法のすべてにおいて完全にチェックメイトとなる。
完全に退路を塞がれた通信画面の向こうで、貴族院議長が力なく肩を落とし、震える唇を開く。
「……わ、分かった。前当主の不正および身柄拘束を認め……アイラ・フォン・ヴァルハイトの『ヴァルハイト公爵家・第十四代当主』への即時就任を、貴族院として暫定承認する……!」
ふん、ざまあみなさい。
帝国最高権力機関が、一学徒にして新当主の私に完全に白旗を揚げた瞬間だ。
「賢明なご判断ね。では、正式な押収書類一式は後ほど『生徒会便り・号外』として貴族院へ送付しますわ。……本日の面談は以上よ」
私が指を鳴らすと、ノアが通信回線を容赦なくプツンと遮断。
部屋の中に心地よい静寂が戻り、リサが息を吐いて手帳を閉じ、セリアが「ふふっ、見事な手際でしたわね」と微笑む。
執務室の巨大なバルコニー窓が開き、夕暮れの帝都の街並みが一望の下に広がる。
帝都中央大聖堂と公爵家本邸の鐘楼から、ゴォン……ゴォン……と荘厳な鐘の音が鳴り響き、帝都全土へ「ヴァルハイト公爵家当主交代」の布告が告げられる。
私はバルコニーの前に立ち、風に髪をなびかせる。その両脇をタクトとギルバートが固める。
「やりましたね、会長」
私は親指の蒼銀の印璽を夕日にかざし、不敵に微笑む。
「ええ。でも、これで終わりじゃないわよ。……明日の朝からは、この帝国を『生徒会』の手で正しく回していくんだから」
腐敗した旧体制を完全に覆し、公爵家と帝国の未来を握ったアイラたちの堂々たる背中腐敗した旧体制を完全に覆し、公爵家と帝国の未来を握ったアイラたちの堂々たる背中がそこにはあった。
カーハッハッハッハッハッハ!!!完全勝利S
気品と威圧感のあるアイラの姿を書くのが楽しかったです。
アイラだってそういう顔できるんですよ。
ところでギルバートがかっこよすぎて死にそうなんですけど墓場建設予定地はここでいいですか?
多分3章完結したらギルバートのスピンオフが出ます。もうプロットは書き始めてます(本当にアホ)




