第二十八話:白銀の騎士と、新当主への宣誓
「我が剣は、腐敗した罪人に従うにあらず」
操り人形だった過去を自ら断ち切ったギルバートが、新当主アイラの前に片膝を突き、魔導剣を捧げます。
父親派閥の完全排除によって、ヴァルハイト公爵家の実権は名実ともにアイラの手へ。
そして鳴り響く緊急魔導通信――。
慌てふためく貴族院の重鎮たちを相手に、生徒会流の実務と論破で立ち向かう新当主の快進撃をぜひ見届けてください!
執務室に響く父親の金切り声。
「何を突っ立っている、ギルバート! その小娘も、取り巻きのクズどもも、一人残らず叩き斬れ! 私に逆らった報いを受けさせるのだ!」
ギルバートは表情一つ変えず、静かに白銀の魔導剣を鞘から引き抜く。
刃から漏れ出す鋭利な魔力が室内の空気を冷たく張り詰めさせる。タクトがわずかに重心を落とし、私を背に庇うように構える。
ギルバートが床を蹴る。目にも留まらぬ踏み込みとともに、白銀の軌跡が空を裂く。
父親は私たち生徒会が両断される光景を期待して下卑た笑みを浮かべるが――次の瞬間、銀光はアイラたちの前を素通りし、父親の真横を疾風のごとく駆け抜ける。
ザンッ、と重厚な布地が断ち切られる音が響く。
父親の背後に掲げられていた、ヴァルハイト公爵家の巨大な旧家紋旗が斜めに真っ二つに裂け、床へと滑り落ちる。
ギルバートは父親の鼻先数ミリの石床に魔導剣を深々と突き立て、冷徹な双眸で見下ろす。
「な……っ!? ぎ、ギルバート……? 何をしている……!?」
「我が剣は、民を守り帝国を支える誇りのためにある。……他国へ家名を売り、己の保身のために娘を生贄に捧げるような罪人に従う刃など、持ち合わせてはおらん」
絶対の味方だと信じ込んでいた最強の長男に刃を向けられ、父親の顔から完全に血の気が引く。
ギルバートの揺るぎない眼差しは、血筋の呪縛を完全に断ち切った「孤高の騎士」そのものだった。
突き立てた魔導剣を鞘へと戻し、静かに息を吐くギルバート。
「あの学園でお前たちと刃を交え、思い知らされた。思考を止め、腐った家格の命令に従うだけの私は、ただの操り人形に過ぎなかったとな」
父親の敷いたレールを盲信していた過去を自ら切り捨て、己の正義とプライドを取り戻した兄の姿がそこにあった。
ギルバートは机の上に散らばる十二件の弾劾状、裏口座の凍結書類、そして私の指にある当主印璽へと視線を落とす。
「武力による暗殺ではなく、金脈と法規を完璧に押さえ、民や領地を傷つけずに家を掌握したか。……見事な手腕だ、アイラ。お前こそが、このヴァルハイトの座に座るにふさわしい」
厳しい兄の口元に、わずかに誇らしげな笑みが浮かぶ。
「当然よ。生徒会で培った実務力を甘く見てもらっては困るわ、兄様」
信じていた長男からも完全に見限られた父親が、狂ったように床を叩いて喚く。
「ふ、ふざけるな! 親を売った裏切り者どもが! 貴族院が黙っているものか! ギルバート、アイラ、呪ってやる……!」
ギルバートは冷たく見下ろしながら言う。
「見苦しいぞ、元当主殿。貴族院へは、私が責任を持って貴殿を突き出す」
ギルバートが手錠をかけ、騒ぎ立てる父親の身柄を部下に命じて地下牢・連行ルートへと引きずり出させる。
父親が連行され、長年ヴァルハイト公爵家を蝕んでいた腐敗の象徴が完全に執務室から排除された。
残されたのは、アイラ率いる生徒会執行部と、誇りを取り戻した白銀の騎士・ギルバート。
父親が引きずり出され、静まり返った執務室。
ギルバートがゆっくりと振り返り、アイラの前に立ち塞がっていたタクトの真正面へ歩み寄る。
学園の防衛戦で互いに全力をぶつけ合った二人の間に、張り詰めた沈黙が流れる。
「……あのときの障壁打撃、見事だった。貴様の鉄壁の守りと迷いのない拳がなければ、私は今もあの愚父の言いなりだっただろう」
それを聞いたタクトは構えを解き、静かに視線を合わせる。
「いえ。あなたの剣筋が真っ直ぐだったからこそ、こちらも全力で受け止められました。……迷いが晴れたようで何よりです、ギルバート殿」
言葉少なに互いの実力と矜持を認め合い、短く拳と手のひらを合わせる男たちの無言の和解だ。
セリアは扇子をパタパタと揺らしながら。
「あらあら、男同士の熱い友情かしら? でも助かるわ。帝国最強クラスの剣士が味方になってくれるなら、前衛の戦力はこれ以上ないくらい盤石ね」
ノアは端末を操作しながら言う。
「ギルバート様の戦闘データを生徒会防衛プロトコルに正式登録しました。タクトとの連携シミュレーション、勝率99.8%をマークしています」
セナは不敵に笑う。
「頼もしい盾と矛。これで会長を狙うネズミは一匹も通さない」
生徒会のいつもの軽妙な空気感に、ギルバートはわずかに目を見張ったあと、フッと口元を緩める。
アイラの左右を固める、生徒会防衛チーフのタクトと、公爵家筆頭騎士のギルバート。
武力・知力・実務力、あらゆる面において隙のない「新生ヴァルハイト公爵家」の最強陣容がここに完成する。
散乱した書類と瓦礫が片付けられた執務室。アイラが深紅の絨毯を踏みしめ、当主の革張り玉座へ悠然と腰を下ろす。
ギルバートが白銀の魔導剣を床に立て、アイラの前に片膝を突いて臣下の礼をとる。
「ヴァルハイト公爵家筆頭騎士ギルバート――新当主アイラ・フォン・ヴァルハイトに、この剣と忠誠を捧ぐ」
「……受け取るわ、兄様。これからは飾り物の家名ではなく、真に帝国の誇りとなる家を創るわよ」
宣誓の余韻を破るように、執務机の中央にある最高機密用の大型魔導水晶がけたたましい警告音とともに紅く点滅する。
ノアが素早くバイパスを開き、部屋の中央へ立体映像を投影する。
そこに映し出されたのは、帝都中枢・貴族院の重鎮議員たちと法務卿の険しい顔。
「どういうことだヴァルハイト公! 裏口座の凍結に本邸の制圧……一体何が起きている! 一学徒風情が当主の席に座るなど言語道断――!」
画面越しに怒号を浴びせる重鎮たちに対し、私は親指の蒼銀の印璽を優雅に見せつけ、不敵な笑みを浮かべる。
「前当主は数々の規律違反および重罪により失脚・拘束いたしました。……これよりヴァルハイト公爵家の全権は、新当主であるこの私が代行します」
狼狽する重鎮たちを見下ろし、私は指揮杖の先を画面の向こうへピッと突きつける。
「文句があるなら、我が生徒会が提出した告発状の精査を終えてからになさい。……さあ、次の『顧客対応』を始めましょうか」
実家を完全掌握し、帝国最高権力機関(貴族院)を相手取り舌戦と実務で圧倒しにかかる私の支配者フェイスだ。
あかんあかんあかん自分で書いててなんだけど兄様こんなにメロくするつもりなかった、すげえ私兄様にメロついてるワロタ
プロット書いてて一番描きたかったの、兄様がアイラに忠誠誓うシーンなんですよね。
あの冷徹な兄様が!!アイラに!!跪いて!!アアアアア!!!
こんなにメロい瞬間ないぞ。
タクトと和解したのも個人的には入れたかったシーンです。
兄様メロくね?(何度でも言う)




