第二十七話:奪われた当主印璽と、暴走の生体兵器
「――あんたが捨てた家族の情を、私に求めないで」
命乞いを叫ぶ父親から、情け容赦なく当主印璽を剥奪するアイラ。
生徒会の完璧な連携とタクトの衝撃波が、公爵家の奥深くに潜んでいた闇を瞬時に蹴散らします。
そして響く、遅れてやってきた長男の硬質な足音。
帝国最強の剣士が選ぶのは、腐敗した実家の血脈か、それとも――。
固唾を呑む結末をぜひ見届けてください!
吹き飛んだ執務室の扉から煙が立ち込める中、アイラと生徒会メンバーが悠然と足を踏み入れる。
瓦礫の奥で革張りの椅子から転がり落ちた父親が、目を見開き指を差して震える。
「ア、アイラ……!? なぜ貴様がここにいる! ギルバートはどうした、あの役立たずは何をしているのだ!」
「兄様なら、自分の頭で物事を考える時間を与えてあげたわ。……あんたと違ってね、お父様」
リサが脇から歩み出て、革表紙の極厚ファイル――押収した裏帳簿と貴族院提出用の弾劾状の写しを父親の執務机へ叩きつける。重い破裂音が部屋に響く。
「他国との禁術密輸、反逆予備罪、公爵家資産の横領・背任……計十二件。明朝一番で貴族院と法務省に受理されるわ。もちろん、裏口座の資金はノアが全部凍結したから、私兵を雇う金も一文無しよ」
リサは眼鏡を押し上げ言う。
「現行の帝国貴族法に基づき、現当主の財産差し押さえおよび即時身柄拘束の手続きはすでに完了しております」
父親は書類の山を震える手でめくり、顔面を蒼白に染め上げる。
「ば、馬鹿な……! 一学徒風情が、どうやって帝都の裏帳簿と貴族院の根回しを……!?」
「生徒会を舐めないで。予算の不正流用と規約違反を暴くのは、私たちの日常業務よ。……規模が公爵家になったところで、やってることは書類の精査に過ぎないわ」
法的にも財政的にも完全に退路を断たれ、もはや言い逃れが不可能なことを悟った父親の瞳に、血走った凶気が宿る。
「……おのれ、生意気な小娘が……! 生贄として売られるはずの出来損ないが、この私を見下すかァッ!」
父親が机の裏側に仕込まれた隠し魔導スイッチへ手を伸ばす。
父親が血走った目で机裏の隠しスイッチを力任せに押し込む。
執務室の壁面が不気味な赤黒い光を放ちながらスライドし、奥の隠し区画から濃密な血生臭さと瘴気が吹き出す。
「法の裁きだの貴族院だの、知ったことか! ここで貴様ら全員を肉塊に変えて証拠ごと消し去れば、私の勝ちだァッ!」
隠し通路から姿を現したのは、禁忌の薬物と魔導術式で精神を破壊され、筋力と魔力を限界突破させた「狂戦士型禁術私兵」四体。
常人の倍近い巨躯、瞳は濁った赤に染まり、両腕の異形化されたブレードから黒い魔力がバチバチと漏れ出している。
一般の近衛兵なら一瞬で両断されるレベルの殺戮兵器だ。
圧倒的な威圧感と異形の咆哮を前にしても、生徒会メンバーは誰一人として眉じり一つ動かさない。
セリアは薬品の匂いを嗅ぎ分け、優雅に扇子で口元を覆う。
「あら、粗悪な筋力増強薬と精神破壊の混同ね。調合センスが絶望的に下品だわ」
ノアは端末を操作しながら言う。
「魔導回路のバイパス処理も雑すぎますね。暴走前提の使い捨て設計です。危険度判定、学園祭の不正露店撃退レベルと評価します」
命の危機という極限状況を「出来の悪い規律違反」として淡々と品評する生徒会の異質さに、父親の頬が引きつる。
暴走した禁術兵たちが床を砕き、私めがけて一斉に跳躍・突撃する。
________この程度か。
私は瞬き一つせず、指揮杖の先端を前方の空間へとピッと向ける。
「――生徒会規律違反。生徒会執行部・防衛担当、速やかに排除しなさい」
私の声が落ちると同時に、タクトが一歩前へと踏み出す。
会長の号令と同時に、タクトが床の石畳をわずかに蹴って前へ出る。
最前列の禁術兵が振り下ろした黒い刃の直撃を受ける瞬間、タクトは右腕の前に極小・高密度の偏向障壁を展開する。
衝撃波を刃の軌道ごとナナメ上へ弾き逃し、完全な体勢崩れを作り出す。
「――軌道が甘い。筋力に頼りすぎて軸がブレてます」
懐へ潜り込んだタクトが、偏向障壁を拳にグローブ状に圧縮。
禁術兵の胸部――魔導回路の心臓部へ、ゼロ距離の掌打を叩き込む。
ドンッ、と重く鈍い破裂音が響き、巨躯の禁術兵が背後の壁まで一直線に吹き飛び、そのまま回路をショートさせて沈黙する。
残る三体のうち二体が左右から挟み撃ちを狙うが、セナが影から滑り込むように肉薄。
投擲された魔導ワイヤーが禁術兵の足首と関節部を正確に縫い止め、動きを完全封殺。
「関節の補強がザルだよ〜?動かなければただの置物じゃん」
そうセナは不敵に笑う。
さらにノアが後方から魔導端末で指向性ジャミングパルスを一閃。
「遠隔制御回路を強制シャットダウン。休止モードへ移行完了です」
残り一体もタクトの追撃の足払いで床に沈み、開始からわずか十数秒で禁術兵四体は全滅する。
私兵たちがピクリとも動かなくなった凄惨な光景を前に、父親は机の下へへたり込み、腰を抜かして震え上がる。
タクトが腕の障壁を解除し、息一つ乱さずに私へ振り返って一礼する。
「会長、障害の排除を完了しました。怪我人なし、予定時間内です」
「ご苦労様。……これで本当に終わりね、お父様」
床にへたり込み、ガタガタと歯の根を鳴らして震える父親。
私は革靴を鳴らしながら粉砕された瓦礫を踏み越えてゆっくりと机の前へ歩み寄る。
「ひ、ヒィッ……! ま、待て、アイラ……! 私はお前の父親だぞ! 親に刃を向けるなど、人の道に反するとは思わんのか……!」
何を今更?
命乞いと身勝手な血縁の主張を吐き散らす父親に、私は一切の情を交えずに冷笑する。
「娘を生贄として売り飛ばそうとした人間が、今さら親の顔をするんじゃないわ。……あんたが捨てた家族の情を、私に求めないで」
私は冷たく見下ろしたまま、父親の震える右手を踏みつけるように押さえ込み、その指にはめられていた『ヴァルハイト公爵家当主の印璽(家紋が刻まれた蒼銀の指輪)』を力ずくで引き抜く。
「当主の権限、資産、そしてこの家の全責任――すべて生徒会が接収するわ。今日この瞬間をもって、あんたはただの『失脚した犯罪者』よ」
完全に心を折られ、床に崩れ落ちて呻く父親。
決着がついた静寂の執務室に、廊下の奥からカツン、カツンと硬質で重い軍靴の足音が響いてくる。
生徒会メンバーが即座に身構え、タクトが再びアイラの斜め前へステップを踏み出して防衛態勢をとる。
吹き飛んだ扉の枠をくぐり、煙の向こうから姿を現したのは――腰に白銀の魔導剣を帯びたギルバート。
父親が息を吹き返したように顔を上げ、血走った目で叫ぶ。
「ギ、ギルバート! 来たか! 早くその魔導剣を抜け! こいつらを……反逆者どもを全員皆殺しにしろォッ!!」
狂乱する父親の命令に対し、ギルバートは無言で柄に手をかけ、静かに鞘から白銀の刃を滑らせる――。
その刃の切っ先が向けられたのは、果たして妹か、それとも――
鷲宮より弱いです、はい
ここまでの生徒会の最大の敵は鷲宮なので、一貴族の護衛兵器なんてなんてことないんですよね。
とても鮮やかに描けたと思ってます。
ところで猛スピードで執筆してるせいか左手の薬指を寝違えました。すごくタイピングに支障をきたしていて痛い。
9月に入ると仕事が忙しくなり更新スピード落ちますので、今のうちに書けるだけ書いてます。
毎日更新はしたいけどストックが…尽きそう…既に4章までのプロットは組んであるのですが、その先がまったく決まってないのでまた引き出し合戦です。更新は止めたくないので応援してくれると嬉しいです。
あと全然言ってなかったけどコメントくれるとすげ〜〜〜喜びます。Twitterもぜひフォローしてください、キャラの絵とか載ってます。




