第二十五話:臨時特別業務と、帝都逆侵攻の号令
帝国筆頭公爵家を学徒が乗っ取る――。
狂気の沙汰としか思えないアイラの宣言に、帝国最強の兄様は戦慄します。
しかし、タクトたちにとってそれは「ちょっと規模の大きい生徒会業務」に過ぎませんでした。
法規、潜入、裏工作、魔導ハッキング。
圧倒的な組織力で兄を論破し、出陣の号令が夜空に響き渡ります。
守られるヒロインはもういない!
生徒会逆侵攻のスタートダッシュをお見逃しなく!
眉間に真紅の指揮杖を突きつけられたまま、兄は動くことすらできず絶句する。
帝国最強の剣士としてのプライドが、私の放つ異質な覇気と殺気に圧殺される。
「……本気で言っているのか、アイラ。帝国筆頭公爵家を、たかが学徒の寄せ集めで乗っ取るなど……正気の沙汰ではない」
「正気で勝てる相手なら、兄様がとっくに親父を更迭してるでしょ。狂ってるのはあっちなんだから、こっちも規格外でやり返すのよ」
兄は倒れていたはずのタクトたちへ視線を移し、「貴様らも止めんか、この無謀な自殺行為を!」と吐き捨てる。
しかし、タクトは服の埃を払いながら、飄々とした笑みを浮かべて前に進み出る。
「止める理由がどこにあるんです? 俺たちの会長が『やる』って言った仕事で、失敗したことなんて一度もありませんよ」
圧倒的強者を前にしても、タクトの瞳には怯えの色が欠片もない。
リサは乱れたメガネを直しながら言う。
「ええ。公爵家の現行法規規約における『当主弾劾条項』の精査……非常にやりがいのある案件です」
「本邸の警備網の突破なら任せて〜。アイラちゃんの道はアタシが切り開く」
と、セナは短剣をくるりと回して鞘に収める。
セリアは散らばった薬瓶を回収しながら
「うふふ、帝都の腐った貴族たちに飲ませる特効薬、いっぱい作らなきゃね」
と言う。
ノアは壊れた端末の予備基盤を立ち上げ
「公爵家直轄の魔導通信網、すでにバックドアの探索を開始しています」
と言う。
本当に頼もしい仲間たちだ。
命乞いをするでもなく、復讐に燃えるでもなく、まるで「放課後の生徒会業務」をこなすかのような軽快さでクーデターの準備を始める5人。
「……狂っている。貴様ら全員、頭の螺子が完全に吹き飛んでいるぞ……!」
常識と帝国の理屈で生きてきた兄が、初めて理解不能な怪物を見るような目で後退りする。
私は指揮杖の先端で、半壊した生徒会室の黒板に魔力チョークを走らせる。
「敵はヴァルハイト公爵家現当主――あの腐った親父と、利権に群がる三つの親族派閥よ」
兄が呆然と見守る中、黒板に公爵家の権力構造、資金流通ルート、魔導結界の要衝が瞬時に可視化される。
私が生徒会メンバーを指名し、帝国貴族社会を掌握するための特命ポストを次々と割り振る。
リサは帝国貴族院の弾劾規定を精査し、親父派閥の裏取引・密輸の違法証拠を突きつける法的手続きを担当。
セナは公爵家本邸の抜け道および宝物庫・当主印璽の保管場所への潜入ルートを確保。
セリアは親父派の貴族たちを籠絡・無力化する特殊薬の調合と、公爵家財政を麻痺させる裏資金工作。
ノアは帝都本邸の防衛結界・警備ゴーレムの管制システムをハッキングし、防衛機能を生徒会側へ上書き。
タクトは私を最前線で守りつつ、本邸の私兵部隊や反抗勢力を物理的に突破する実力行使部隊の長。
「予算申請の精査、他校との折衝、裏工作の排除……やってることはいつもの生徒会業務と全く同じですね」
「規模が『学園』から『帝国筆頭公爵家』にスケールアップしただけです」
平然と業務フローを最適化していくメンバーたちに、兄は言葉を失う。
ただの武力突入ではなく、「法、情報、インフラ、武力」の四面から公爵家を完全包囲して玉座を奪取する超実務的プランが完成。
私は黒板をパンッと叩いて振り返る。
「――以上が生徒会クーデターの基本方針よ。異議のある者は?」
タクトたちが「異議なし」「完璧ですね」と即答する中、私は呆然と固まる兄へと視線を向ける。
立て板に水のごとく軍事作戦並みの計画を組み上げた生徒会を前に、兄は魔導剣を構えることすら忘れ、立ち尽くす。
「貴様ら……帝国中枢の権力構造を、一体何だと思っている……! このような机上の空論、本邸の私兵団と親父殿の魔導結界に触れた瞬間に灰となるだけだ」
私は冷笑を浮かべ、兄の至近距離まで足音を鳴らして詰め寄る。
「机上の空論かどうかは、あんたの身の振り方次第よ、兄様」
「兄様は帝国最強の剣士で、実家の腐敗に誰より危機感を持っていた。……でも、親父を止める度胸もなければ、家を改革する知恵もなかった。だから私を生贄にして『仕方なかった』と自分に言い訳しようとした」
痛いところを寸分違わず突かれ、兄の眉間が激しく引きつる。
私は指揮杖の切っ先で兄の胸元――公爵家の獅子の紋章を軽く叩く。
「親父の泥舟に残って、家ごと失脚の泥水を啜るか。それとも……この私の『筆頭親衛隊長』に鞍替えして、新当主の右腕として功臣に返り咲くか。どっちがヴァルハイトの未来のためになるか、賢い頭で選びなさい」
かつて妹を見下ろしていたはずの兄の額に、ツーと一筋の冷や汗が伝う。
「……狂気の沙汰だ。私が、お前のような小娘の反乱に加担するなどと――」
口では否定しながらも、兄の握る剣の切っ先は完全に下がり、反論の言葉に力が乗らない。
横からタクトが肩をすくめながら言葉を添える。
「迷う必要ありますか? 生徒会長としてのアイラは、どんな理不尽な難題も全部クリアしてきましたよ。……お兄さん、負け戦の親父さんより、勝ち馬に乗る方が合理的だと思いますけど」
兄は生徒会6人の迷いのない瞳を前に、ついに沈黙し、拳を強く握りしめる。
沈黙した兄を背に、生徒会メンバーは半壊した部室から必要な魔導具、書類、予備装備を手際よく回収。
各々が制服の袖に『生徒会』の腕章をキリリと締め直す。
学園の役員章が、いまや「帝国筆頭公爵家を制圧するクーデター部隊の徽章」へと変貌する。
タクトが偏向障壁の魔力回路を指先に走らせ、最終チェックを完了。
「迎撃、潜入、情報撹乱の初動ルート、すべて想定通りに組めました。いつでも行けます」
兄は自嘲気味に息を吐き、納刀して腕を組む。
「……勝手にしろ。だが、帝都本邸の結界は一筋縄ではいかんぞ。途中で泣きついても私は助けん」
突き放すような物言いながら、もはや私たちを連行する気も止める気もない「実質的な黙認・先行ルートの示唆」だった。
生徒会室の壊れた扉の前に立ち、アイラが真紅の魔導指揮杖を高く掲げる。
「生徒会臨時特別業務――『ヴァルハイト公爵家当主の強奪および腐敗勢力の完全粛清』を開始するわ!」
「目指すは帝国中枢、ヴァルハイト帝都本邸! ――全員、私に続きなさい!」
「「「了解ッ、アイラ会長!!!」」」
守られる側から、玉座を狩り尽くす支配者へ。
満天の月明かりの下、生徒会6人が帝都へ向けて風のように駆け出す。
こいつら本当に怖いもの知らずだな……
まぁあの魔力の前では怖いものなんてないでしょうね……
兄様が少し可哀想になりましたが、次回、突入編です。




