↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地理特定令嬢フェリシアは明かしたい 〜景色から真実を暴いてみせますわ〜  作者: 百松あおい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/21

2-2. サプライズ

子爵からの用事を無事に済ませた二人は、続いてクロードの依頼である絵葉書の場所の特定に乗り出した。


「この絵葉書には橋の下の小さなスペースに、船から大きな木樽を運び出している描写がありますでしょう? 船便でワインを運ぶ光景はよく目にしますわ。……もしかすると、この橋の下にワインの貯蔵庫(セラー)があるのかもしれません」


エーリヒが身を乗り出して絵葉書を覗き込む。


「あ、本当だ……! 橋と街とお城ばかりに目を奪われていて、そんな細かいところまで気づかなかった」


川沿いに続く石造りの階段を見つけた二人は、川べりへと下りていった。そこには水運を利用して荷物を運び入れるためのアーチ状の貯蔵庫がいくつも並んでいた。

その一角で、何やら賑やかな人だかりができている。好奇心に惹かれて近づいてみると、外に置かれたテーブルで何人かの客がワインの試飲を楽しんでいた。


そのとき、エーリヒの動きがピタリと止まった。


次の瞬間、フェリシアの視界がぐらりと傾く。エーリヒに肩を引き寄せられ、吸い込まれるようにコンテナの影へと連れ込まれていた。

不意の出来事に文句を言おうとフェリシアが口を開きかけた瞬間――彼女の口元は、エーリヒの大きな手によってすっぽりと覆われた。


「んむッ……!? エーリヒ様!?」


暴れようとするフェリシアの腰を、エーリヒがもう片方の腕でしっかりと腕の中に引き寄せる。ほとんど抱き合っているのと変わらない密着具合に、フェリシアの体が一瞬で強張った。


「すまないフェリシア、そのままじっとしていてくれ……っ!……クロードの婚約者のアデライト嬢がいる」


エーリヒはコンテナの影から目を凝らして会場にいたアデライトを見つめた。


「アデライト様は、ただワインの試飲をしにハイデルシュタットへ来られていたのですか? ですが、それなら婚約者に隠すような趣味でもない気がいたしますけれど……」


首をかしげるフェリシアに、エーリヒはホッと安堵の息を漏らした。


「まあ、そうかもしれないけれど……後ろめたいことじゃなさそうで良かったよ。直接聞いてみよう」


エーリヒはコンテナの影から堂々と姿を現し、試飲会の会場へと歩み寄った。フェリシアもその後を追う。


「アデライト嬢、お久しぶりです。クロードの友人のエーリヒです。以前、王都の警備隊でお会いしましたね」


グラスを傾けていたアデライトは一瞬ギクッと体を強張らせたが、すぐに取り繕うような完璧な笑顔を張り付けた。


「まあ、エーリヒ様! お久しぶりですわ。こんな場所でお会いするなんて……どうされたのですの? あら、そちらのお可愛らしい方は?」


「婚約者のフェリシアと申します。初めまして、アデライト様」


フェリシアが完璧な貴族の礼を執ると、アデライトも優雅にお辞儀を返した。その動作に合わせて、彼女の豊満な胸元で眩い光を放つ宝石のアクセサリーが揺れた。


フェリシアは眉をひそめ、アデライトの胸元をじっと観察し始めた。


クロードから頼まれた調査だとバラすわけにはいかない。エーリヒが別の理由を口にしようとした瞬間、フェリシアが無邪気に口を開きかけた。


「エーリヒ様のお友達のクロード様から、貴女の捜索を――」

「――キルシュブルーム家の商売のお使いで参りました!」


フェリシアの言葉の語尾をかき消すように、エーリヒは被せ気味に声を張った。


「僕がハイデルシュタットに来るのが初めてだったものでね。お使いのついでに、婚約者に街を案内してもらっていたのです」


エーリヒは絶やすことのないにこやかな笑みを浮かべつつ、横にいるフェリシアへ「頼むから黙っていてくれ」と目線で切実に訴えかけた。


「まあ、そうだったのですか。わたくしはご覧の通り、このワインの試飲会に来ておりましたの。実はこのワイン、祖父の領地で丹精込めて育てたブドウを使っておりまして……わたくしも昔から手伝っておりましたのよ。だから思い入れが深くて、こうして度々出来栄えを確認しに来ていますの。……クロード様には、どうか内緒にしていただけないかしら? 今度、サプライズでプレゼントしようと思っておりますの」


アデライトは少し頬を赤らめ、愛らしく微笑んだ。 ふとフェリシアが彼女のテーブルへ目をやると、そこには先ほどホテル『カイザークローネ』の地下セラーで目にしたものと全く同じ、あの『ネッカー川と葡萄』の刻印が施されたボトルが置かれていた。


(……あら? ホテルの地下にあったあのお酒と、全く同じものですわね)


違和感の種が、フェリシアの頭の中に静かに蒔かれた。


「そういうことでしたか。分かりました、クロードには秘密にしておきますね。きっと喜びますよ」

理由に納得したエーリヒは、心地よくアデライトと別れた。



◇



「なんだ……クロードは婚約者が後ろめたいことをしていると気にしていただけれど、ただの可愛いサプライズだったんじゃないか」


エーリヒは胸を撫で下ろし、肩の力を抜いた。


「これでやっと、念願のクレープが食べられますわね!! さあ、早速参りましょう!」

目を輝かせるフェリシアがカフェへと向かおうとした、まさにその時――。


「エーリヒーーー!! 大変だっ!!」

血相を変えたクロードが、息を切らせて街道を走ってきた。後で合流する手はずにはなっていたが、あまりの取り乱し様に周囲の観光客が振り返る。


「えっ……!? クロード!? 一体どうしたんだ!?」

「友人が……! 僕の友人が、ハイデルシュタットの夜会でアデライトを見たって言ってきたんだ! 夜会の場所が描かれた地図まで渡された! やっぱり……やっぱり彼女は、僕に言えないようなやましいことをしているんだ!!」


クロードの手には、握りつぶされそうになった一枚の紙が握られていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけたら、ページ下部の【ポイント評価(★★★★★)】や【ブックマーク追加】で応援していただくと、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。