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85/93

85_キャラはなぜ勝手に動くのか。


 私の答え

 自分の脳それ自体が「勝手に動いている」としか言いようがないから。



 私は人間のそれ自体を「膨大な機械の束」として見ています。周囲の環境・あるいは内的な環境の変化──それらをインプットとして、次の行動というアウトプットを行う機械。単一の機能ではなく膨大な機能の集積。無数の変数、あまたの関数、銀河系の星の数にも匹敵するほどの膨大なスイッチを持ったタンパク質のコンピューター。


 その複雑さからくる挙動を、しかし私たちは実用的に予測するために腐心してきました。古来より多くの知識人や為政者が人の心を知ろうと試みていたわけです。人文学・心理学・社会学・哲学・宗教。人の心を知ろうとする試みは枚挙にいとまがないほどです。

 はるかな昔から今にいたるまで、人間の関心の多くは「人間」に注がれてきたのです。


 それは有史以前からそうであったはずです。なぜなら、私たちの脳には極めて優れた「他の人間の心理・行動を推測する能力」が存在しているからです。私たちはみな、意識しているしていないに関わらず、つねに周囲の人間の反応を予想しながら生きています。私たちの脳は常日頃から他者の心理を自動的に模倣し、推測し、そのパターンを脳に学習し続けている。


 私は、これこそがキャラクターの源泉であると考えています。書いた文字列の中にキャラクターがいるのではなく、それを目にした人間が頭の中で無自覚にシュミレートをはじめたとき、そこにこそキャラクターが宿ると考えているのです。



 キャラクターとは「デフォルメされた人間」だと私は定義しています。人間は膨大な機械の束であり混沌としたものですから、それをそのまま出すとたいへん分かりにくい物語になってしまう(そういった分かりにくさにも芸術的価値はあり得るでしょうが、私が物語で目指しているものではありません)。

 あまたある要素の中から、物語のためにその一部の要素を抽出し、強調し、機能的に整えたものがキャラクターであると認識しています。よって生身の人間よりは秩序だった存在です。


 しかし──そのキャラクターの行動のシュミレーションを作者自身の脳を通じて行う都合上──キャラクターの行動には、人の脳がもたらすカオスが混ざります。人間の脳からのアウトプットには、無意識の領域からの干渉が存在するからです。私たちの脳の「他の人間の心理・行動を推測する能力」は意識の制御下にあるわけではなく、本能的に刷り込まれたもの。私たちの脳が勝手に集めてきた膨大な「人間の行動データ」は、キャラクターの言動を考える時にも勝手に発火して、

 「このキャラクターはこういうことを言うはず・言わないはず」

 「この行動は自然・不自然」

 と作者自身無自覚のうちに判定を出すことがある。あまつさえ、作者が思いついたとは思えないセリフを話し始めるときすらある。


 これこそが、「キャラクターが勝手に動いた」の正体だと思うのです。実態としては自分の脳の演算機能から発生しているはずですが、それは無意識下のことなので筆者自身にも「勝手に話し始めた」と感じられる、ということなのでしょう。



 だからといって、無意識にすべてを丸投げしていいかといえばまったくそんなことはなく、キャラクターには「デフォルメ」という意識的な介入が必要であると思うのです。何より、「意識的にキャラクターを理解しようと努めること」それ自体が、無意識下のキャラクターシュミレーターの精度を結果的に高めることにつながるのだと私は考えております。

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