序話 伍
「中は、普通の洋館なんだね」
「妖術でもかけられてると思った?」
「思ってた」
「そこまで警戒しなくていいよ。ここには色んな妖が来るから、術はかかってないんだ」
広いロビーに、赤くて丸い、大きな絨毯。なんだか、お城みたい。
ギギギ。ギギギ、ギギギギギギィ。トットットットッ。
ん? 足音? 辺りを見渡す。けれど、足音の主は……。
『お待ちしてました。昨日、ボクを追いかけて、霞ヶ森に迷い込んだのは、貴女ですね』
白狐!? 白狐って喋るんだ?! えぇ?! 理解しがたい事で、混乱してしまう。
「狐が喋った!? 花里君!」
隣にいる花里君に助けを求める。だけど、花里君はいたって冷静。
「あー、この白狐が『シキ』だよ。妖狐だから、喋ったとしても、不思議ではないよ」
『驚かせてしまいましたか? 貴女も、『妖眼』の能力者だと聞いたもので』
「ようがん?」
『「妖をみる眼」と書いて、「妖眼」。二人から聞いてませんか?』
「シキ、ごめん。何も教えてないんだ。僕も響希も」
『そうですか。とりあえず、こちらへ。僚も一緒に』
「あの、月島君は? 先に来てるはずですけど」
『響希なら、森の中です」
シキと名乗った白狐は言い終わると、踵を返し、歩き出した。とある部屋に入ると、薄いレースカーテンが風に揺れている。
『そちらの椅子にお掛けください』
シキに促されるまま、椅子に腰かけると、シキは丸テーブルの上に乗り、話し始めた。
「まず、貴女のお名前を、伺ってもよろしいですか?」
「ゆ、雪村華鈴です」
『華鈴。ようこそ、霞ヶ森へ。ここは、妖の住む森。妖眼の能力者をはじめとする、妖を見ることのできる者だけが入れる森です』
話を切り出したシキは、私の目を見て言う。見つめられたその瞳に、妙に引き込まれてしまう。
***
住んでいる者たちは皆、永世から現世に降りたが、戻れなくなった者、現世に住み続ける者。
また、他の土地で暮らす妖も、時々この地に来るのです。
人間とふれあいたいと思う者、探し物をしている者など様々。
ボクは、この森を治める森主。
僚と響希には、妖の望みを叶える手伝いをしてもらっています。
二人には、過去に妖が見えることによる心の傷、妖から受けた傷がありますが。
ここには、普通の人間はいませんし、悪気を放つ妖は入ってこれません。
このふれあいを通して、二人の傷を癒したい。妖と仲良くなってほしいと願っているのです。
華鈴、ここで会えたのも何かの縁。妖とふれあってみませんか?
響希と僚の二人と一緒に、妖の願いを叶えてやってほしいのです。




