序話 肆
教室の清掃が終わり、これから、『霞ヶ森』に向かう約束をしている。
「ゆーきむーらさん! 終わった?」
「うわぁっ!」
「ごめんごめん。驚かせるつもりはなかったんだけど」
教室には私だけで、帰る支度をしていた。そんな時に、いきなりの花里君。
誰だって驚くよ。なんて言葉は飲み込んで。
何事も無かったかのように、教室を出る。
「響希は、急用で先に森に向かったんだ。僕とだけど、一緒に行こう。案内する」
「ありがとう、花里君」
生徒玄関で靴を履き替え、校門を出てすぐ。
「僕たちが、雪村さんの『妖を見えること』を知っているのは、昨日、雪村さんが森にいたからなんだ」
「どう言うこと?」
「歩きながら話すね。こっちだよ」
何故か、学校の裏山の方に向かっていた。
私も昨日、こっちに来たような気が……。
「それで理由だけど。あの森はね、妖が見える人しか入れないんだよ。だから、響希も気づいたし、僕も響希から聞いて、気づいたんだ」
「妖が見える人だけ……」
「そう。普通の人には見えない場所に着くんだよ。『紅蓮荘』が建ってる朧池とか。昨日は、そこまで行ってない?」
「行ってない。木々の間から、建物がうっすら見えるところまでだったから」
話しているとあっという間で、学校の裏山の入り口に着いた。
「霞ヶ森へは、ここからしか行けない。出口は何ヵ所もあるみたいだけど。不思議でしょ?」
「何かしらの術がかけられているの?」
「多分ね。この森の創造主がかけたんだと思う」
学校の裏山は薄暗く、気味が悪い。
「昨日ね、しわがれた声に『うまそうだ。喰ってしまおう』って言われたの。花里君は、怖くない?」
「慣れたから平気。その声の主は、人間をからかうのが好きみたい」
どんどん奥へと進んでいく。
足元は、落ち葉や枯れ枝の絨毯で、歩きにくい。
「着いたよ。ここが、朧池」
木々が拓けたその場所。
透き通った池には紅蓮が咲き乱れ、なんとも言えない、幻想的な空間。
「綺麗な場所……」
「見惚れちゃった?」
「ふぇ!? ごめん」
「フフフ。いいよいいよ。『紅蓮荘』に行こうか。響希も、『シキ』も待ってるだろうから」
花里君の話によると、『紅蓮荘』と呼ばれる建物は、誰が何のために建てたのか、わからないのだそう。
「洋館だよね? なんで、『紅蓮荘』なのかな?」
「僕も詳しいことはわからないんだ。ごめんね。中、入ろうか」
軋む重たいドアを開け、足を踏み入れる。不思議な空間が、視界いっぱいに広がっていた。
ほのかに香る、この香りは何だっけ? 何処かで、確かに何処かで。




