73.堕ちたヒロインの幸せ〜ヒロインと帝王〜
何年経ってもリリアは20歳前後の姿だった。
そして帝王ルシウスも歳を取らなかった。
「ルシウス様今日の予定はーー」
「ライアン、今日の予定は全部キャンセルだ。リリアと過ごす。」
大人になったライアンは帝王の執事としてその地位を確立していた。
「昨日もそんな事言ってましたよね?ダメに決まっているじゃないですか。リリア様のお昼寝の邪魔です。行きますよ。」
ライアンはルシウスの首根っこを掴んでどこかに引きずっていく。
「ダーリンちゃん起きてるー!」
騒がしく飛び込んできたのは元魔塔主の金髪美女。名前はナナ。
「ダーリンちゃんは今日もお眠なのね~。」
ナナはリリアに負けてから性別を超えた愛に目覚め、リリアを追っかけている。
「私のキスで目覚めるかしら?ちゅ~!」
ナナがリリアに唇を近づけると。
「なーにしてるんの。」
元ヒロインが現れドアの外に吹っ飛ばされた。
遠くから「あとちょっとだったのに~!」と声が聞こえ、元ヒロインはため息をつく。
リリアはゆっくり目を開ける
「・・・今日はあいつ等が夢に出なかった。こんなの初めて。」
「ああ、それはね!」
元ヒロインは左手を出した。
「透けてる!なんで?」
元ヒロインの左腕全部が透けていた。
そして右手の指3本も透けていた。
「復讐が終わって何年も経ったからだよ。私はだんだん消えてく。」
「終わってないカテリーナだってまだ生きてる!それにアイツ等のこと、忘れてないし許してないもの!」
「忘れてはないし許してもないけど、あの5人が死んで何年も経ったから憎しみが消えたんだよ。闇の力はどんどん小さくなる。」
「ならまた悪いやつから吸い取ってーー」
「ダメだよ。もうリリアには人を殺してほしくない。」
「イヤだ!イヤだ!消えないでよ!」
「まだ時間はあるよ、焦らないで。」
「焦るわよ!私には貴女しかいないのに!」
「大丈夫。リリアにはルシウス様がいるでしょ。」
「イヤよ!あいつとはなんともないんだから!お願い、いなくならないで・・・・。」
「まだいなくならないよ・・・。」
1年後、元ヒロインは跡形もなく消えた。
リリアはいっぱい泣いた。
何日も泣いた。
その度にルシウスが抱きしめた。
ライアンとナナも励ますそうとお菓子やぬいぐるみをたくさん買ってきた。
そして1ヶ月後。
「みんなありがとう、もう大丈夫だから。」
リリアは吹っ切れたようなスッキリとした顔になっていた。
ある日の午後。
「ルシウス、散歩に付き合いなさい。」
「うん!」
ルシウスはパァッ!と嬉しそうな顔をしてリリアに着いて行った。
そしてリリアとルシウスは海に来ていた。
「元ヒロインがね、最期に言ったの『幸せになってね』って。どうやれば幸せになれるの?」
リリアはルシウスの方を振り返ると、ルシウスが跪いて指輪を差し出していた。
「は?」
リリアは冷めた目をしていた。
「結婚しよう。」
「私あんたのこと好きじゃないんだけど。」
「これから好きになると思う。だから結婚してくれ。」
「イヤ。」
「じゃあ幸せにできなかったら殺してくれ。」
「・・・・・・。」
リリアが数秒固まった。
「・・・ねぇ、私がその言葉に弱いって誰かに聞いたの?」
「経験則だ。」
「最悪。」
そう言いながらも、リリアは指輪を受け取った。
そして左手の薬指にはめる。
「幸せにしなかったら殺すから。」
「よっしゃア!!」
ルシウスは拳を握り締めた。
その勢いのままリリアを抱きしめる。
「絶対後悔させない。」
「そうして。」
リリアは小さく笑った。
それは元ヒロインが消えてから初めて見せた、本当に穏やかな笑顔だった。
それから二人は結婚した。
帝国中が大騒ぎだった。
帝王と皇后の結婚式は数日間続く祝祭となった。
ナナは当然のように大号泣した。
「ダーリンちゃんが結婚なんてぇぇぇ!!」
「誰がダーリンちゃんですか。」
「私の心の中では永遠のダーリンちゃんなの!」
そしてライアンによって式場から摘み出された。
結婚生活は意外と平和だった。
ルシウスは相変わらずリリアに甘い。
リリアは相変わらずマイペース。
だが二人は少しずつ夫婦になっていった。
そして結婚から数年後。
帝国中を揺るがす知らせが届く。
リリアの妊娠だった。
「ルシウス様。」
「なんだライアン。」
「落ち着いてください。」
「無理だ。」
「まだ生まれてません。」
「無理だ。」
その日ルシウスは仕事を一切しなかった。
生まれたのは女の子だった。
美しいピンク色の髪と瞳の。
リリアをそのまま小さくしたみたいな、リリアにそっくりな赤ちゃんだった。
ルシウスは娘を抱いた瞬間泣いた。
「かわいい・・・。」
「うるさい。何度目よ。」
「かわいい・・・。」
「うるさい。」
「世界一かわいい。リリアと同じくらいに。」
「親バカ。そしてうるさい。」
長女はアリアと名付けられた。
執事のライアンが大好きで、初めて覚えた言葉が「ライアン」だった。
ある日五歳のアリアが言った。
「ライアンは私と結婚するの!だからお仕事はずっと私と遊ぶこと!」
「え、えーと・・・・(誰か助けて!仕事ができない!)」
五歳にしてライアンを束縛してはライアンを困らせるのだった。
さらに2年後。
二人目が生まれる。
今度は男の子だった。
黒髪に黒い瞳。
見た目はルシウスそのもの。
名前はアイル。
アイルは元気すぎた。
三歳で城を爆走する。
五歳で木に登る。
七歳で護衛を撒く。
十歳で執事のライアンを泣かせた。
「どこに行ってたんですか!」
「探検!」
「城の地下は探検場所じゃありません!」
そしてさらに2年後。
三人目が生まれた。
また女の子だった。
名前はルナ。
黒い髪と黒い瞳を持ち、容姿はリリアそっくりだった。
ルナが生まれてきた瞬間全員が思った。
元ヒロインが生まれてきたと。
そして性格も気まぐれでマイペースだった。
まるでどっかの誰かさんだった。
昼寝が好き。
本が好き。
面倒事が嫌い。
十歳でこう言った。
「お勉強したくない。ずっと好きな事だけして暮らしたい。」
リリアは頷いた。
「分かる。」
ライアンは頭を抱えた。
気付けば城は賑やかになっていた。
三人の子供達が走り回る。
笑い声が響く。
昔のリリアには想像もできなかった光景だった。
ある日。
夕暮れの庭園で。
三人の子供達が遊ぶ姿を眺めながらリリアが呟いた。
「不思議ね。」
「何がだ?」
隣にはルシウス。
「昔の私はこんな未来になるなんて思わなかった。」
「そうか。」
「復讐だけ考えてた。」
「そうだな。」
「あの頃は子供なんて嫌いだったし。子供のライアンは別だったけど・・・。」
「今は?」
リリアは庭を見る。
アリアがライアンの背中に乗ってはしゃいでる。
アイルが木に登って怒られている。
ルナが芝生で昼寝している。
リリアは嬉しそうに笑った。
「大好き。」
ルシウスが固まる。
「今なんて?」
「うるさい。」
「もう一回。」
「嫌。」
「頼む。」
「嫌。」
ルシウスは満面の笑みだった。
「幸せか?」
リリアは少し考える。
執事ライアン。
元魔塔主ナナ。
夫のルシウス。
3人の子供達。
大切な人達の顔が浮かぶ。
「うん。」
リリアは微笑んだ。
「幸せ。」
その瞬間。
優しい風が吹いた。
どこか懐かしい風だった。
『よかった。』
そんな声が聞こえた気がした。
『本当に幸せになったね。』
リリアは空を見上げる。
返事はない。
けれど分かっていた。
元ヒロインはきっと見ている。
そして笑っている。
復讐の果てに。
憎しみの果てに。
リリアは愛する人達と出会った。
夫がいて。
三人の子供がいて。
帰る家がある。
それはきっと――
元ヒロインが守りたかった未来だった。
そしてリリアはその幸せを胸に抱きながら、愛する家族と共に長い人生を歩んでいくのだった。
END
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