69.喧嘩〜ヒロインと元ヒロイン3〜
「元ヒロイン!!」
帝都の城にリリアの怒鳴り声が響き渡った。
部屋の扉が勢いよく開く。
そこには顔を真っ赤にしたリリアが立っていた。
対する元ヒロインは優雅に紅茶を飲んでいる。
「何であいつらの魂を異世界に飛ばしたのよ!!」
「ん?」
「ライアスは子供の頃に、しかも他の4人は私が転校してきたあの日に!」
リリアは机を叩いた。
「前世の記憶を持たせて異世界の過去に送り返して!私を助けさせて!ハッピーエンドにでもさせるつもりだったの!?」
「そうだけど?」
元ヒロインはあっさり答える。
「そうだけどじゃないわよ!!」
リリアは本気で怒っていた。
拳を握り締める。
「私はアイツ等を許してない!ライアスも!ルイスも!セドリックも!アルベルトも!ノアも!みんな私を苦しめた!」
その声には今でも消えない傷が滲んでいた。
「アイツ等なんて処刑されるか、ボロボロになって死ぬのがお似合いなのよ!なのに何で!何であんな機会を与えたの!?」
元ヒロインは首を傾げる。
「だって気になったんだもん。」
「気にならないわよ!」
「前世の記憶持たせたらどう動くかなぁ~って!実験?」
「勝手な事しないでよ!」
元ヒロインは少しだけ笑う。
「でもさ。」
「何よ。」
「彼らが苦しんでる時。」
「リリア、ずっと見てたじゃん。」
リリアが固まった。
「遠くからずっと見てた。助けもしなかった、話しかけもしなかった、でも見てはいた。私には分かるよ?多少の情は湧いたんじゃない?」
リリアは元ヒロインを睨んだ。
元ヒロインは知っている。
ライアス達が労働に送られてから、リリアは何度も遠くから様子を見ていた。
近付かなかった。声もかけなかった。許してもいなかった。
だが、完全に無関心でもなかった。
「うるさい!ただの闇の力のアンタに私の何がわかるのよ!」
「分かるよ!君の分身みたいなモノだよ?だから私は元ヒロインなんだよ!
「私はそんな人をおちょくる様な話し方はしない!そもそも『元ヒロイン』って何よ!私に対する皮肉!?」
元ヒロインという名前はリリアが付けたのではく、自分から名乗った名前だった。
「今更?よーくわかってんじゃん!乙女ゲームのヒロインであるリリアに対する皮肉でつけたんだよん。」
「アンタって私の味方なのか敵なのかよくわかんない!」
「味方味方ちょー味方!でも起きてる時ずーっとアイツ等を見ていたのはだあれ?アイツ等に対する怒りはないんでしょ?憎しみは残ってるけど。もう死んだから憎みようはないんだけどね。」
「あーもー!本当に元ヒロインってムカツク!」
元ヒロインは楽しそうに笑った。
「にゃはは~。そりゃどうも!でも、アイツ等に対して多少は可哀想だと思ったのはホントでしょ?まぁ私が償えば、過去に送るって言ったから頑張って働いたってのもあるけど。」
元ヒロインはあくびをした。
「死ぬまでの三年間、民衆からの怒りの矛先に耐えながら真面目に働いてきたのは嘘じゃない。そしてボロボロになって死んだ。処刑にもした。」
「・・・・・そうね、多少はすっきりしたわ。」
リリアはジト目で睨む。
「素直じゃないんだから。だから私はリリアがちょっとスッキリして、アイツ等にボロボロになって死んだご褒美として異世界の過去に送った。あと息子を守るために涙の処刑のご褒美にもね。」
「・・・それで、結局アイツ等幸せになったんでしょ!?異世界の私と!吐き気がする!誰も私を助けてなんて言ってない!」
リリアの目から一筋の涙が溢れた。
元ヒロインはそっとリリアを抱きしめた。
「ごめんね。」
「・・・ばか!ばか!元ヒロインのばか!」
「でも異世界のリリアを助けたかったんだ。」
「私はアイツ等を許してない。」
「うん。」
「本当に許してない。」
「うん。」
「だからも元ヒロインも許さない。」
元ヒロインは苦笑した。
「それは困ったなぁ。」
「困ってなさい。」
「はーい!」
元ヒロインは元気よく手を上げた。
「・・・・・異世界の私は、元ヒロインからみて、幸せにみえた・・・?」
リリアがそっぽ向きながらポツリと聞く。
「うん!ちょー幸せそうだった!録画したけど見る?」
「見ない!・・・そう・・・そっか・・・幸せに見えたんだ・・・。」
リリアの心の中は複雑な思いでいっぱいだった。
「しばらく顔みたくないから、どっか行って。一週間ぐらい。」
リリアは最後まで不機嫌だった。
元ヒロインはそんな姿を見て小さく笑う。
「りょーかい!」
そして部屋を出た。
廊下を歩きながら、元ヒロインは自分の左手を見る。
中指のほんの先が少しだけ透けていた。
「あーあ。」
小さくため息をつく。
「あとどれくらいリリアといられるかな。数年かな?数ヶ月かな?」
少しだけ寂しくなる。
きっと消える時。
リリアは怒るだろう。泣くかもしれない。
「まぁ。」
元ヒロインは苦笑した。
「最後まで怒られるのも悪くないか。」
夕日に照らされた廊下を歩きながら。
彼女は静かに笑うのだった。




