67.ライアスルート4〜過去から未来13〜
カテリーナの婚約破棄と国外追放の話は、瞬く間に国中へ広がった。
そして同時に、王太子ライアス・ルヴェルハイトが平民へ降格され、国外追放となることも発表された。
王都は騒然となる。
カテリーナの罪は誰もが納得していた。
だがライアスの処分だけは理解できない者も多かった。
なにしろ彼はリリアを庇い、命懸けで助けたのだから。
リリアは新聞を読んだまま固まっていた。
「何でですか!?」
思わず立ち上がる。
「何でライアス様まで国外追放なんですか!?」
机を叩く。
「ライアス様は何も悪くないじゃないですか!」
集まった温室にはアルベルト、セドリック、ノアがいた。
3人とも複雑そうな顔をしている。
「納得いかない!」
リリアは新聞を握りしめた。
「しかもライアス様に会わせてくれないなんて!」
ライアスは城に誰にも会わされずに監禁されていた。
「私を助けてくれたのに。」
沈黙。
やがてノアが口を開く。
「どうやら。カテリーナ様と誓約書を交わしていたみたいなんです。」
「誓約書?」
「はい。」
「カテリーナ様が婚約破棄、国外追放が起きた場合。理由を問わず。ライアス殿下は平民へ降格し、国外追放になるという内容だったそうです。」
リリアが目を見開く。
「そんな・・・。」
「しかも王印付きです。」
ノアは苦い顔をした。
「王印が押された契約は絶対です。覆すことはできません。」
「どうにかならないのかな・・・。」
リリアは唇を噛んだ。
助けてもらった。命まで救われた。
なのに自分は何も返せていない。
その時だった、ノアが突然顔を上げる。
「そうだ!」
全員が振り返る。
「一つ良い方法があります。」
ノアの口元に笑みが浮かんだ。
「僕に任せてください。」
アルベルトが嫌な予感を覚えた。
「お前、その顔。絶対何か企んでるだろ。」
「失礼ですね。王子様から平民になる友人を助ける計画です。」
ノアはにっこり笑った。
「とても素敵な計画ですよ。」
その笑顔が一番信用できないとその場にいる全員が思った。
そして一か月後。
国外追放となったライアスは帝国へ到着していた。
王子ではない。
平民となったライアス。
手にはノアから渡されたメモがある。
『この住所へ来てください』
それだけだった。
「相変わらず説明不足だな・・・。」
ライアスは苦笑する。
とはいえ、職を紹介してくれるというのは有り難かった。
国外追放先は自分で選ぶことができた。
ノアの提案だから追放先に帝国を選んだのだ。
「ここか。」
メモの住所を見上げる。
小綺麗な店だった。
ライアスは扉を開く。
カランコローン。
鈴の音が響いた。
すると人の良さそうな中年男性が出てくる。
「おお!君がライアスくんか!」
「はい。」
「早速だが君にはこの店のオーナーを任せたい!」
ライアスは固まった。
「はい?オーナー?いきなりですか!?」
「大丈夫大丈夫!」
中年男性は笑う。
「優秀な秘書がいるから!」
そして奥へ向かって叫んだ。
「おーい!秘書くーん!」
「はーい!」
聞き覚えのある声だった。
階段からゆっくりと降りてくる。
ライアスは目を丸くした。
「リリアさん!?」
そこにはリリアが立っていた。
満面の笑みで。
「よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる。
「オーナーのライアス様。」
ライアスの思考が止まる。
「ななな・・・何で?学園はどうしたんだ!」
リリアは笑顔のまま答えた。
「辞めました。」
「何で!?」
ライアスは目を見開く。
「私、ライアス様に助けてもらってから決めたんです。」
リリアはにっこり笑った。
「好きに生きようって。」
ライアスが瞬きを繰り返す。
「だから。」
リリアは胸を張った。
「ここで好きに生きます!」
「いや意味が分からない。」
ライアスは頭を抱えた。
「つまりですね。」
ノアの声が聞こえた。
いつの間にか二階から見下ろしている。
「リリアさんがライアス殿下・・・ライアスさんと働きたいと言ったので。」
「店を一軒買いました。」
「買った!?」
「だからライアスさんに任せることにしました。」
「任せた!?」
ノアは満足そうだった。
「僕の勘が言っています。この店は繁盛すると。」
ライアスは再び頭を抱えた。
中年男性が大笑いする。
「ライアスくん。」
「君、鈍感だねぇ。」
「え?」
「いや何でもない。」
ニコニコしている。
リリアもどこか照れ臭そうに笑った。
「ライアス様。」
「ん?」
「これから二人でお店を盛り上げましょうね。」
ライアスはしばらく呆然としていたが。
やがて笑った。
「よく分からないが。」
リリアへ手を差し出す。
「よろしく頼む。」
リリアも嬉しそうにその手を握った。
「はい!」
それから五年。
店は驚くほど繁盛した。
ライアスの経営能力。リリアの発明と発想力。二人の相性は抜群だった。
気付けば帝都でも有名な店になっていた。
その報告を聞いたノアは大喜びだった。
「やっぱり!」
商会本部で机を叩く。
「僕の目に間違いはありませんでした!」
周囲の社員達は苦笑した。
「自分の見る目が怖いくらいです!この調子でどんどん儲けてください!」
ノアは社員が引くくらい満面の笑みだったそうな。
そしてライアス達の店では。
ライアスとリリアが肩を並べて帳簿を確認していた。
良き経営者。良きパートナー。
リリアとライアスは帝都でも有名な名コンビになっていた。
店は順調に成長し、二人は毎日一緒に働いている。
朝から晩まで顔を合わせ。
悩みを共有し。
喜びを分かち合う。
誰が見ても仲が良かった。
誰が見てもお似合いだった。
そして誰が見ても――両想いだった。
なのに・・・2人の関係は五年間、一歩も進んでいなかった。
正確には、進もうとするたびにライアスが距離を取るのだ。
リリアが近付けば逃げる。
リリアが甘えれば誤魔化す。
リリアが好意を見せれば話題を変える。
まるで見えない線を引いているかのようだった。
最初は気のせいだと思った。
だが五年も続けば嫌でも分かる。
ライアスは意図的に距離を保っている。
それでも嫌われている訳ではない。
むしろ大切にされているのは分かる。
優しいし。頼りになるし。困った時は真っ先に助けてくれる。
だから余計に分からない。
何故そこまでして距離を置くのか。
一度だけ。
本当に一度だけ。
リリアは勇気を出して告白したことがある。
『私、ライアスが好き!』
そう伝えた。
だが、ライアスは少しだけ目を見開いた後。
眉を八の字に下げて、困ったように笑っただけだった。
返事はなかった。断られた訳でもない。受け入れられた訳でもない。
ただ、優しく流された。
その曖昧さがリリアを苦しめていた。
諦めた方がいいのだろうか。
でも諦めたくない。
けれどこれ以上踏み込んでいいのだろうか。
ライアスが何かを抱えていることだけは分かる。
だから無理に追い詰めたくもなかった。
そんな悩みを抱えたまま、リリアは日々を過ごしていた。
そんなある日の午後。
帝都の有名な喫茶店にリリアは集まっていた。
向かいにはノア。隣にはアルベルト。そしてセドリック。
いつもの顔ぶれだ。
そして議題もいつも通り。
リリアの恋愛相談だった。
「もう五年よ!」
リリアがテーブルを叩く。
「ライアスが平民になって一緒に働くようになってから五年!」
周囲の客がちらりと見る。
だが誰も気にしない。
いつものことだからだ。
「なのに全然進展しない!」
リリアは頭を抱えた。
「告白したのよ!?ちゃんと!」
3人が頷く。知っている。全員その話は何度も聞いた。
「なのに何も返事なし!」
リリアは机に突っ伏した。
「これもう脈なし?諦めるべき?」
しばらく沈黙。
そして、最初に口を開いたのはノアだった。
「じゃあ僕と付き合いますか?」
リリアが顔を上げる。
「え?」
ノアは爽やかに微笑んだ。
「僕、リリアさんの事好きですよ。特に顔ですが。」
「え?」
リリアの思考が止まる。
すると、アルベルトがケーキを食べながら口を開いた。
「じゃあ俺と結婚しようか。」
「は?」
「お前の顔はかなり好みだ。」
もぐもぐ。
ケーキを食べながら言うことではない。
リリアの拳が震える。
「今それ言う!?しかも顔だけ!?」
「正直だからな。」
「腹立つ!」
その横でセドリックも勢いよく手を挙げた。
「俺も!俺も!俺もリリアと結婚したい!」
「軽い!チャラい!」
リリアが叫ぶ。
「何でみんな告白に便乗するのよ!」
「だってお前、顔は可愛いし。」
セドリックは笑う。
「そうそう顔はお墨付きの美少女です。」
ノアも頷く。
「顔はいいからな。」
アルベルトも同意した。
三人が声を揃える。
「「「顔は可愛い。」」」
リリアの額に青筋が浮かぶ。
「顔しか褒めてないじゃない!何で褒められてるのに腹立つのよ!」
ぷくっと頬を膨らませる。
そんなリリアを見て3人は笑った。
しばらくして。
ノアが咳払いする。
「まぁまぁ。冗談はこのくらいにして。」
「半分くらい本気だったぞ。」
アルベルトが呟く。
「聞こえた!」
リリアが即座に突っ込んだ。
セドリックが吹き出す。
ノアも苦笑した。
そして改めて話を戻す。
「ライアスさんに、僕達から告白されたって言ってみたらどうです?」
「え?」
リリアが首を傾げる。
ノアは微笑んだ。
「反応を見るんです。嫉妬するかもしれません。」
セドリックもニヤリと笑う。
「面白い顔するかもな!」
アルベルトも腕を組む。
「何かしら動くだろ。上手くいったら飯奢れよ。」
リリアはしばらく考え込んだ。
ライアスの反応。
確かに気になる。
五年間。
ずっと変わらなかった関係。
もし何かが変わるなら。
試してみる価値はあるかもしれない。
数秒後。
リリアは勢いよく立ち上がった。
「分かった!」
三人が顔を上げる。
「言ってみる!」
そのまま店を飛び出していった。
ノアが小さくため息を吐いた。
「僕達が案外本気だったって知ったら、リリアさんどんな顔するんでしょうね。」
セドリックが苦笑する。
「多分めちゃくちゃ驚くだろ。」
アルベルトも肩を竦めた。
「その後全力で逃げるな。」
三人は顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
大切な友人に幸せになってほしいと思う。
たとえその相手が自分ではなくても。
「頑張れよ。」
セドリックが呟く。
「今度こそ逃がすな。」
アルベルトが続ける。
「応援してますよ。」
ノアが微笑んだ。
3人はそれぞれの想いを胸に。
走り去ったリリアと、未だ覚悟を決められないライアスの恋を見守るのだった。




