65.ライアスルート2〜過去から未来11〜
その日1人で昼食を食べていると。
「隣いい?」
ノアだった。
続いて。
「俺も。」
アルベルト。
「じゃあ俺も。」
セドリック。
三人が座る。
リリアは目を丸くした。
「え?」
「一人で食べるより楽しいだろ。」
セドリックが笑う。
リリアの目に涙が浮かんだ。
慌てて顔を逸らす。
「な、泣いてないです。」
3人は顔を赤くした。
「別に泣かせるつもりじゃなかったんだけど。」
「そんなにか?」
「そんなに喜ぶな。」
不器用な優しさだった。
その光景を教室の窓から見ていたカテリーナは唇を噛んだ。
気に入らなかった。
どうしてルイス以外の攻略対象があの女に優しいのか。
理解できなかった。
その日の放課後。
リリアが教室へ戻ると。
制服が泥水まみれになっていた。
中のシャツが濡れなかっただけよかった。
周囲は笑っている。
誰も助けない。
リリアは黙って水道へ向かった。
泣きながら制服を洗う。
その時だった。
「貸すよ。」
上着が肩に掛けられた。
振り返る。
ライアスだった。
「風邪を引く。まだ寒いからな。」
リリアは目を見開く。
「でも。」
「いいから。」
優しく笑った。
リリアは受け取った上着を抱きしめた。
「ありがとうございます・・・。」
リリアは自然と笑顔になっていた。
帰り道。
事件は再び起きた。
人気のない道。
突然男達が現れた。
「いたぞ。」
「連れて行け。」
リリアは凍り付いた。
左手を掴まれる。
「・・・っ!!」
声も出ない。
怖い。
足が動かない。
「(誰か助けてッ!!)」
その時。
剣が閃いた。
「離れろ!」
セドリックだった。
さらにライアスの騎士達が現れる。
男達はあっという間に拘束された。
助かった後もリリアは震えていた。
呼吸が苦しい。怖い。涙が止まらない。
ライアスはそんな彼女の肩を抱いた。
「もう大丈夫だ。」
「・・・・・。」
「もうこんなことはさせない。」
リリアは顔を上げた。
ライアスの表情は真剣だった。
その言葉に。
初めて少しだけ安心できた。
「それにしてもライアスが言った通りに見張って正解だったな。」
「ああ、見張りを付けなければ今頃どうなっていたか・・・。」
ライアスはリリアを守れた安心と同時に、脳裏に浮かぶに怒りが湧いていた。
そして数日後。
リリアを攫おうと画策した首謀者が分かった。
ルイスだった。
ルイスの処分が発表された。
階段からリリアを突き落とした犯人も、ルイスだったが目撃者を脅していた事。
取り巻きを使った嫌がらせ。
全てが明るみに出た結果だった。
退学。
そしてアルバルガ王国への追放。
もう二度とこの国へ戻れない。
ルイスが退学され最後の日。
馬車へ乗り込むルイス。
リリアは遠くからライアスとその様子を見ていた。
ルイスと目が合う。
その瞬間、身体が強張った。
怖かった。
今でも階段から落ちた日のことを忘れられない。
ルイスはそんなリリアを見てあっかんべーをした。
そしてルイスを乗せた馬車が去っていった。
リリアは静かに息を吐いた。
そして隣に立つライアスを見る。
「これでよかったのでしょうか?」
リリアは犯人がいなくなったのにスッキリしなかった。
ライアスは頷く。
「今はそれでいい。あいつの自業自得だ。それに処分が優しいくらいだ。」
青空の下。
リリアはようやく少しだけ穏やかな表情を浮かべた。
この先、誰も知らない。
カテリーナがさらに大きな騒動を起こすことを。
そしてライアスが再び運命と向き合うことになるのを。
新入生パーティーの日。
リリアは朝から落ち着かなかった。
部屋の鏡の前に立っては、何度も自分の姿を確認する。
今日のために用意された水色のドレス。
淡い色合いがピンク色の髪によく映えていた。
裾をつまみ、くるりと回る。
ふわりとスカートが広がった。
「わぁ・・・。」
思わず笑みがこぼれる。
もう一度回る。
そしてもう一度。
まるで子供のように何度も鏡の前でくるくる回った。
「そんなに気に入ったの?」
後ろから声が聞こえる。
振り返ると、母のエミリアが優しく笑っていた。
リリアは少し照れながら頷く。
「だって、こんな綺麗なドレス初めてなんだもん。」
「とても似合ってるわよ。」
エミリアは娘の髪を優しく整えた。
「本当に素敵。」
その言葉にリリアは嬉しそうに笑った。
しばらくすると玄関の方から使用人の声が聞こえた。
「お嬢様、お迎えがいらっしゃいました。」
その直後。
エミリアが部屋へ顔を出す。
「リリア、お迎えが来たわよ!」
「はーい!」
リリアは慌てて立ち上がった。
胸がどきどきする。
新入生パーティー。
学園に入学してから初めての大きな行事だった。
玄関へ向かう。
そして扉を開けた瞬間。
リリアは目を丸くした。
「えっ・・・!!」
そこにいたのは。
ノア。
アルベルト。
セドリック。
三人だった。
いつもの学園の制服姿ではない。
正装だった。
黒を基調とした高級な礼服。磨き上げられた靴整えられた髪。
いつもよりずっと大人びて見える。
リリアは思わず固まった。
一方。
三人もまた言葉を失っていた。
目の前にいるのは見慣れたリリアのはずなのに。
今日はまるで別人だった。
水色のドレス。
アップに飾られた鮮やかなピンクの髪。
恥ずかしそうにこちらを見る瞳。
あまりにも綺麗だった。
三人とも数秒動けなかった。
最初に我に返ったのはノアだった。
顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「か、可愛い!!」
「えっ!?」
リリアが驚く。
続いてアルベルト。
「すごく似合ってる!」
さらにセドリック。
「最高だな!」
三人揃って褒め始めた。
リリアは目をぱちぱちさせる。
そして少しずつ頬が赤くなった。
「そ、そうかな?」
「そうかなじゃない!」
ノアが即答する。
「めちゃくちゃ可愛い!」
「本当に綺麗だ。」
アルベルトも頷く。
セドリックは腕を組みながら照れ臭そうに言った。
「パーティー会場の奴ら全員驚くぞ。」
リリアは嬉しくなった。
「ありがとう。」
その笑顔に。
三人の顔がさらに赤くなる。
「だからそんな笑顔するなって……。」
セドリックが顔を逸らした。
「反則だろ。」
アルベルトも苦笑する。
ノアは完全に視線のやり場を失っていた。
そんな四人を見ていたエミリアは思わず吹き出した。
「ふふふ。」
全員が振り返る。
「仲良しね。」
「お母さん!」
リリアが慌てる。
エミリアは楽しそうに笑った。
「行ってらっしゃい。」
「うん!」
屋敷の前には豪華な馬車が待っていた。
ノアが先に乗り込み手を差し出す。
「どうぞ、お姫様。」
「な、何それ!」
リリアは笑いながらその手を取った。
続いてアルベルト。
セドリックも乗り込む。
馬車がゆっくりと動き出す。
窓の外には夕焼けに染まる街並み。
これから向かうのは王宮。
新入生パーティーの会場だった。
馬車の中では笑い声が絶えない。
リリアは楽しそうに話している。
その姿を見ながら。
ノアも。
アルベルトも。
セドリックも。
同じことを考えていた。
――今日のリリアは本当に可愛い。
そして。
今日はめいいっぱい楽しんで欲しい。
そんな思いを胸に抱きながら。
四人を乗せた馬車は王宮へ向かって走っていった。
ライアスは朝から落ち着かなかった。
胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
だが、嫌な予感がしていた。
前世の記憶を持つようになってから、こういう感覚は何度か経験している。
そして大抵の場合、その予感は当たった。
だからこそライアスは念入りに準備をしていた。
新入生パーティーの会場である王宮の大広間。
装飾に問題はないか。料理に不備はないか。警備体制は十分か。招待客の席順は間違っていないか。
ライアスは何度も確認した。
側近達が呆れるほどに。
「殿下、もう五回目ですよ。」
「念のためだ。」
「十分すぎるほど確認しております。」
「もう一度見せてくれ。」
ライアスは招待客のリストを受け取る。
端から端まで確認する。
そして再び見直す。
少しでも問題があれば事前に潰したかった。
今日だけは、絶対に何も起こしたくなかった。
やがて夕方になる。
会場の扉が開かれた。
新入生達が次々と入場してくる。
華やかなドレス。煌びやかな礼服。楽しそうな笑い声。
王宮らしい華やかな空気が広がっていく。
ライアスは王太子として入口付近に立ち、生徒達を迎えていた。
「ライアス殿下、本日はお招きありがとうございます。」
「楽しませていただきます。」
「殿下、お久しぶりです。」
次々に挨拶を受ける。
ライアスは微笑みながら応じた。
だが内心は落ち着かない。
何かが起きそうな気がしてならなかった。
その時だった。
会場の入口が少し騒がしくなる。
ライアスは自然と視線を向けた。
そして、一瞬だけ言葉を失った。
そこにいたのはリリアだった。
淡い水色のドレス。
ふわりと広がるスカート。
鮮やかなピンク色の髪。
柔らかなピンクの瞳。
まるで物語から抜け出してきた妖精のようだった。
周囲の視線が自然と集まる。
誰もが思わず振り返るほどだった。
ライアスも一瞬だけ目を見開く。
前世で何度も見たリリア。
だが今日の彼女は特別だった。
その隣にはノアとアルベルトとセドリックがいた。
セドリックはライアスを見つけるなり大股で近付いてくる。
「おいライアス!」
「どうした?」
するとセドリックは得意満面の笑みを浮かべた。
そしてリリアの腕を引っ張る。
「どうだこいつ!」
「?」
突然前へ押し出されるリリア。
「えっ!?」
慌ててバランスを取る。
セドリックは満面の笑みだった。
「可愛いだろ!」
まるで自分の手柄のように胸を張っている。
ライアスは思わず目を丸くした。
数秒だけ固まる。
だがすぐに優しく笑った。
「可愛いよ。」
その言葉は自然に出た。
嘘ではなかったからだ。
リリアの顔が一瞬で真っ赤になる。
「えっ!」
耳まで赤くなる。
「そ、そんな・・・。」
恥ずかしくて視線を逸らす。
その様子を見てノアが吹き出した。
「顔真っ赤。」
「ノア!」
「本当に真っ赤だよ。」
アルベルトまで笑っている。
セドリックは満足そうだった。
「だろ?」
「だからお前が誇るな。」
ライアスが呆れたように言う。
会話は穏やかだった。
自然だった。
誰も傷つかない。
そんな光景だった。
だが。
それを遠くから見ている者がいた。
大広間の柱の陰。
カテリーナだった。
彼女は黙って四人を見つめている。
その表情は硬い。
いや、硬いというより。
歪んでいた。
握り締めた扇子が小さく軋む。
――可愛いよ。
ライアスの言葉が頭の中で何度も繰り返される。
胸の奥がざわつく。
嫌だった。
気に入らなかった。
どうして。
どうしてそんな目で見るの。
カテリーナの視線はリリアへ向けられる。
水色のドレス。
楽しそうな笑顔。
4人の攻略対象に囲まれる姿。
その全てが気に入らなかった。
優雅な音楽が会場に流れ始めた。
パーティー会場の中央では、生徒達が次々とダンスを始めている。
そんな中、アルベルトがリリアの前に進み出た。
そして片膝をつき、芝居がかった仕草で手を差し出す。
「ファーストダンスはいただくぞ。」
リリアが目をぱちぱちと瞬かせる。
アルベルトは口元を少しだけ上げた。
「お嬢様、俺とのダンスはいかがですか?」
一瞬きょとんとしていたリリアだったが、すぐに花が咲くような笑顔になった。
「よろしくお願いします!」
差し出された手に手を重ねる。
アルベルトはその手を優しく取り、ダンスフロアへ導いた。
リリアはダンスなどほとんど経験がない。
最初は足を踏みそうになったり、タイミングを間違えたりとぎこちなかった。
だがアルベルトはそんな失敗を自然にフォローする。
リリアが一歩遅れれば合わせる。
体勢が崩れそうになればさりげなく支える。
そのおかげでリリアも次第に緊張が解けていった。
「楽しい!」
「それは良かった。」
優雅なワルツが終わる頃には、リリアはすっかり笑顔になっていた。
曲調が変わる。
今度は少しテンポの速い明るい曲だった。
そして気付けば。
リリアの手を取っていたのはセドリックだった。
「次は俺だぜ!お嬢様!」
「えっ!?」
いつの間に入れ替わったのか分からない。
だがセドリックは楽しそうに笑っている。
「ほら行くぞ!」
「きゃっ!」
ぐるりと回される。
軽快なステップ。
勢いのあるターン。
セドリックらしい豪快なリードだった。
最初は慌てていたリリアも、次第に笑い声を上げ始める。
「アハハハ!」
「そうそう!その調子だ!」
「速い速い!」
「まだまだだろ!」
二人はまるで遊んでいるように踊っていた。
そして再び曲が変わる。
今度は穏やかなスローテンポの音楽。
気付けばリリアの手を取っていたのはノアだった。
「次は僕です。」
ノアは優しく微笑む。
「リリアさん。」
「よろしくね、ノア。」
ゆったりとした曲に合わせて体を揺らす。
先程までとは違う落ち着いたダンス。
リリアは自然とノアに身を委ねた。
「リリアさん、初めてなのに上手ですよね。」
「ふふふ。」
リリアは少し照れながら笑う。
「三人が上手だからよ。」
「それは違います。」
ノアは優しく首を振った。
「リリアさんが頑張ってるからですよ。」
リリアは少しだけ嬉しそうに笑った。
その後もリリアはアルベルト、セドリック、ノアと順番にダンスを踊りながらパーティーを楽しんでいた。
会場のあちこちから笑い声が聞こえる。
リリアの顔にも終始笑顔が浮かんでいた。




