60.アルベルトルート2〜過去から未来6〜
アルベルトは命令書を読んだ瞬間。
即答した。
「逃げるぞ。」
リリアとエミリアが目を丸くする。
「え?」
「王宮になんか渡せるか。」
アルベルトは当然のように言った。
だが、逃げるより早く向こうが来た。
魔塔の中にズカズカ入り込んできたのはーー
ライアス。
カテリーナ。
そして十数名の王宮魔術師達。
「アルベルト!」
ライアスが声を上げる。
「王命だ。リリア・ナーシアスを渡せ!」
「知るか。」
即答だった。
カテリーナが前へ出る。
「リリア・ナーシアスは危険なの!アルベルト目を覚まして!」
「危険?自分の男が奪われる可能性が怖いだけだろ・・・悪役令嬢様?」
「なっ!?」
カテリーナは図星なのか顔を怒りで真っ赤にした。
カテリーナは眉を吊り上げ怖い顔でリリアを見る。
「リリアさん!」
その怒鳴り声ににリリアの肩がびくりと反応する。
「大人しく来てください!」
「嫌、です。」
リリアが震えながらも拒否する。
「私は行きません。」
カテリーナの眉がぴくりと動く。
アルベルトが前に立った。
リリアとエミリアを庇うように。
「お前とお前のお母さんは俺が必ず守る。」
リリアが目を見開く。
エミリアも息を呑んだ。
そして、アルベルトと王宮魔術師の戦いが始まった。
炎。氷。雷。
無数の魔法が飛び交う。
アルベルトの攻撃が圧倒的だった。
だが、背後には守るべき二人がいる。
自由に戦えない。
右から飛んできた炎を打ち消す。
左からの雷を防ぐ。
背後への攻撃を遮る。
少しずつ。少しずつ。
確実にアルベルトは追い詰められていく。
そして、一人の王宮魔術師が放った氷の矢。
普段のアルベルトは避けられた。
だがその後ろにはリリア達がいた。
躊躇なく前へ出る。
氷の矢が腹部を貫いた。
「っ――!」
アルベルトの体が揺れる。
口から血が溢れた。
「アルベルト!!」
リリアの悲鳴が響く。
膝をつくアルベルト。
エミリアも顔面蒼白になる。
その隙だった。
カテリーナが駆け寄る。
リリアの腕を掴んで引きずる。
「来なさい!」
「離して!!」
「王命よッ!」
「嫌ぁっ!!」
リリアは振り返る。
血を流すアルベルト。
今にも倒れそうなアルベルト。
命をかけて守ってくれた人。
その姿を見た瞬間。
リリアの中で何かが切れた。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
ピンク色の魔力が爆発した。
轟音。
眩い光。
全てが桃色の光に包まれる。
誰も目を開けていられない。
そして。
光が消えた。
静寂。
そこにはカテリーナも、ライアスも王宮魔術師達も誰一人いなかった。
何処かに行ってしまった様だった。
そして、アルベルトの腹部を見る。
傷が消えていた。
血も。穴も。何もない。
完全に治っていた。
リリアは呆然とした。
次の瞬間、泣きながらアルベルトへ飛び付く。
「生きててよかったよぉぉぉ!!」
わんわん泣く。
アルベルトは苦笑した。
そして優しく頭を撫でる。
「知ってるか?」
「ひっく・・・なに?」
「これ。」
アルベルトは自分の治った腹を見る。
「愛の力っていうらしいぞ。」
一瞬。
沈黙。
そして。
「なっ・・・!」
リリアの顔が真っ赤になる。
「な、何言ってるのよ!バカ!!」
ぽかぽかと胸を叩く。
アルベルトは笑った。
エミリアも思わず笑う。
さっきまで死闘だったとは思えないほど穏やかだった。
そして、アルベルトはリリアとエミリアを連れて帝国へ亡命した。
帝国魔塔で出迎えたのは恋愛話が大好きな金髪美女の魔塔主。
「それで!?二人は付き合ってるの!?」
「違う。」
「違います。」
「つまらない!!」
それでも快く受け入れられた。
帝国へ亡命して半年ほどが過ぎた頃。
リリアはすっかり帝国での生活に慣れていた。
研究も順調。
友人もできた。
毎日が楽しかった。
だが一つだけ問題があった。
アルベルトの恋愛アプローチが壊滅的に下手な事である。
「アルベルトぉぉぉ!!」
帝都の上空。
地上数百メートル。
リリアは涙目で叫んでいた。
「離さないでぇぇぇぇ!!」
「離してない。」
アルベルトは平然としている。
なぜこんなことになっているのか。
それは数十分前。
アルベルトが突然言い出したのだ。
「空中散歩するぞ。」
「は?」
「デートだ。」
「空中散歩が!?」
意味が分からなかった。
そして気付けば。
リリアはアルベルトにお姫様抱っこされていた。
帝都の遥か上空で。
「高い高い高い高い!!」
リリアは必死にアルベルトへしがみつく。
首に腕を回し。
服を握り。
半泣きである。
「そんな怖がるなよ。」
「怖いに決まってるでしょ!」
「お前なら余裕でできるだろ。」
「できないわよ!まだ習ってないもの!」
リリアは魔法の才能こそあるが、まだ高度な飛行魔法は習得していない。
箒ありの飛行魔法もまだ習い途中。
だから今はアルベルトに運ばれているだけだった。
「落ちるわけない。」
「信用できない!」
「失礼だな。」
アルベルトが呟いた。
その瞬間だった。
ふっ。
「え?」
リリアの身体が軽くなる。
視界からアルベルトが消えた。
「え?」
もう一度言う。
「え?」
そして理解する。
手を離された。
「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」
落下。
もの凄い勢いで地面が迫る。
帝都。建物。道路。人々。
全部がどんどん大きくなる。
「死ぬぅぅぅぅぅぅ!!!!」
涙と鼻水が飛び散る。
そして。
地面まで残り三メートル。
ピタッ。
身体が停止した。
「・・・へ?」
完全静止。
そのまま空中に止まって浮いている。
上からアルベルトが降りてきて地面に着地する。
「分かったか?」
「・・・・・。」
「これが空中歩行の基本魔法だ。」
沈黙。
リリアはゆっくり拳を握る。
そして。
バチィィィン!!!
渾身の張り手がアルベルトに炸裂した。
「馬鹿ぁぁぁぁぁ!!殺す気!?今の絶対殺す気だったわよね!?」
アルベルトは叩かれた頬をさすりながらリリアを見る。
「お前は死なない。」
「死ぬと思ったのよ私は!!」
通りすがりの帝都の人々が見ている。
「あれアルベルト様?」
「またリリア様怒らせてる。」
「いつものだな。」
すっかり有名人だった。
その後。
二人は帝都最大の広場へ行った。
もちろん今度はレンガで出来た道を歩いて。
広場には出店が並び。
人で賑わっている。
リリアはまだ怒っていた。
頬を膨らませ。
アルベルトを睨んでいる。
そんな彼女へアルベルトは一本のりんご飴を差し出した。
「ほら。」
「・・・・。」
「機嫌直せよ。」
リリアはジト目になる。
だが。
りんご飴は受け取った。
「綿あめとチョコバナナもつけて。」
「かしこまりました。」
アルベルトは直ぐに綿あめとチョコバナナを買ってくる。
「どうぞ。」
ジト目のまま綿あめとチョコバナナも受け取る。
「今度同じことしたら。」
「ん?」
「アルベルトのこと嫌いになるから。」
その瞬間、アルベルトが固まった。
「・・・・・。」
「アルベルト?」
数秒後。
「それは困る。」
珍しく本当に困ったような顔をしていた。
「すまなかった。」
リリアが目をぱちぱちさせる。
こんなに素直に謝るアルベルトは珍しい。
そしてリリアは少しだけ笑った。
「なら許してあげる。」
「助かった。」
「その代わり。」
「?」
リリアはりんご飴を舐めながら言った。
「またお姫様抱っこして。」
アルベルトは目を見開く。
「空中じゃなくて。歩きながら帰って。」
少しだけ笑う。
「かしこまりました。」
リリアとアルベルトはチョコバナナと綿あめを仲良く食べた。
食べ終わると、アルベルトはリリアを抱き上げた。
ひょいっと。
「きゃっ。」
自然に腕へ収まる。
周囲の通行人が振り返る。
「仲良しだな。」
「新婚みたい。」
「羨ましい。」
そんな声が聞こえる。
リリアは自分でお姫様抱っこと言ったけど、恥ずかしくなった。
「み、見られてるんだけど。」
「そうだな。」
「やっぱり降ろして!」
「嫌だ。お前が言ったんだろ。」
そして、アルベルトは少し意地悪そうに笑った。
「行きますよ。お姫様。」
リリアの顔が一瞬で真っ赤になった。
「なっ・・・!ア、アルベルトの馬鹿!!」
だが、その声はどこか嬉しそうだった。
帝都の夕暮れの中。
二人は笑いながら帰路につく。
もう誰にも追われない。
もう誰にも奪われない。
ようやく手に入れた平和の中で。
二人は幸せそうにあ笑い合うのだった。
数年後。
リリアは帝国屈指の発明家。
アルベルトは帝国魔塔主。
エミリアは帝国で小さな喫茶店を営んでいる。
そしてある日。
アルベルトはリリアへ指輪を差し出す。
「結婚してください。」
リリアは涙を流しながら笑った。
「はい。」
二人は結婚した。
娘が生まれ。
息子が生まれ。
騒がしくも幸せな家庭を築く。
「アルベルトと出会えてよかった。」
「俺もリリアと出会えてよかった。」
その様子を見ていた元ヒロインは腕を組む。
「都合よくない?」
幸せそうなリリア。
子供達。
アルベルト。
元ヒロインはため息を吐く。
「リリアって案外ちょろいん?やっぱり乙女ゲームのヒロインだからかなぁ。」
しばらく考え。
「まぁ幸せならいいか。」
そしてニヤリと笑った。
「それにしてもアルベルトくんって行動力あるよね~。」
そう言い残して、元ヒロインは自分の元いた世界へと消えていった。




