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全てを奪われたヒロインは転生悪女に復讐する  作者: 鈴木べにこ


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59.アルベルトルート1〜過去から未来5〜

 アルベルトが目を開ける。


 最初に見えたのは青空だった。


 耳に入るのは生徒達の話し声。


 見慣れた校舎の玄関。


 そして――。


 目の前には


 鮮やかなピンク色の髪。


 ピンクの瞳。


 困惑した表情のリリア・ナーシアス。


 全ての始まりの日だった。


 アルベルトは息を呑む。


 労働地で死んだはずだった。


 民衆からの報復。


 過酷な労働。


 全てを終えて死んだはずなのに。


 今、自分はここにいる。


 まだ何も始まっていない過去に。


 そして目の前には、未来で自分達が人生を破壊した少女が立っていた。



「(絶対に守る。)」

  


 その瞬間。


 アルベルトは魔法を発動した。


 巨大な魔法陣がリリアの足元に浮かび上がる。



「え?」



 リリアが目を丸くする。


 次の瞬間。


 光が弾けた。



「きゃああああああ!?」

 


 リリアの姿が消える。



「アルベルト!?」


「何をしたの!?」 



 カテリーナ達の叫び声が聞こえる。


 だがアルベルトは構わなかった。




 深い森の中。


 リリアは地面に座り込んでいた。


 目の前にはアルベルト。


 数秒の沈黙。


 そして。



「誘拐ですか!?」


「そうだ。」


「認めた!?」


「認める。」


「なんでそんな堂々としてるんですか!?」



 リリアは涙目だった。


 当たり前である。


 学園初日に知らない男に誘拐されたのだから。


 だがアルベルトは真面目な顔で言った。



「時間がない。」


「あります!」


「ない。」


「あります!」


「ない。」


「ありますって!!」



 そしてアルベルトは全てを話した。


 乙女ゲーム。攻略対象。悪役令嬢。未来。盗作騒動。冤罪。学園追放。母エミリアの死。


 そして自分達の末路。


 当然、リリアは全く信じなかった。



「信じられるわけないじゃないですか!」


「そうか。」


「頭おかしい人ですよ!?」


「そう思われても仕方ないよな。」


「もっと否定してください!」



 アルベルトは一冊のカテリーナの名前が書かれたアイデアノートを取り出した。



「見て見ろ。」



 リリアは怪訝そうな顔で受け取る。


 ページを開いた。


 そして。


 固まった。



「・・・え?」



 そこには発明のアイデアが描かれていた。


 魔力冷却箱。自動洗浄器。魔力節約ランプ。その他にも様々な発明。


 リリアの顔色が変わる。



「なんで・・・。」



 ページをめくる。


 次のページ。


 さらに次。



 手が震え始めた。


 リリアは青ざめた顔で呟く。



「これ・・・私が考えた発明・・・。」



 アルベルトは黙っている。


 リリアは震える指で簡易メモや簡単なスケッチをなぞる。



 間違いない。


 自分が考えたものだ。


 母エミリアと二人で暮らしていた家で。


 夜遅くまで考えていた発明。


 学園で認められたら発表しようと思っていた夢。


 誰にも見せていない。


 誰にも話していない。


 なのに。



「なんで・・・?」



 アルベルトは静かに答えた。



「王都で既に発表されているからだ。」



 リリアの顔から血の気が引いた。



「・・・は?」


「カテリーナが発表した。」



 リリアは数秒固まる。


 王都。


 自分は王都へ来たのが今回が初めてだった。


 発表も知らない。


 貴族社会のことも知らない。


 何も知らない。


 だからこそ。


 嘘を言われているようには思えなかった。



 もしアルベルトが騙そうとしているなら。


 もっとそれらしい嘘をつくはずだ。


 だが、自分の知らない王都の話をしている。


 そして目の前には、自分しか知らない筈だった発明がある。



「そんな・・・。」



 リリアの瞳に涙が浮かぶ。



「じゃあ私・・・。」



 アルベルトは続けた。



「未来では盗作犯にされた。」


「・・・。」


「盗まれた側なのに、お前が盗んだことになった。」



 リリアは言葉を失った。


 信じたくない。


 だが、このノートだけは本物だった。



「・・・信じます。」



 小さな声だった。



「未来の話全部は分かりません、でも・・・。」



 ノートを抱き締める。



「これだけは本物です。」



 アルベルトは静かに頷いた。



 その時。


 追跡魔法の気配が近付く。


 カテリーナ達が魔法の箒に乗って追いかけて来た。



「アルベルト!」


「リリア・ナーシアスを渡せ!」



 アルベルトは面倒そうに手を振る。



「帰れ。」



 ドゴォォォォォン!!



 5人が空の彼方へ吹き飛んだ。



「「「ぎゃああああああああ!!」」」



 リリアは呆然と見送る。




「大丈夫なんですか?」


「死なないから大丈夫だ。多分。」


「そうですか・・・。」




 こうしてリリアと母エミリアはアルベルトの保護下に入った。


 魔塔の一角で暮らし始める。


 最初の頃、リリアはよく泣いていた。


 窓から見える空を眺めながら。


 一人で。


 静かに。



「学園に行きたかったな……」



 ぽつりと漏らした言葉。


 机の上には新品の教科書。


 新品同様の鞄。


 一度しか腕を通していない憧れていた制服。


 全て揃えていたのに。


 結局、使わなくなってしまった。



 本当なら。


 友達を作って。


 授業を受けて。


 お昼休みにみんなで話して。


 放課後に寄り道をして。


 そんな当たり前の日々を送るはずだった。




 けれどアルベルト曰く現実は違う。


 もし学園へ行けば。


 カテリーナがいる。


 ライアス達がいる。


 そしてリリアを憎み、恐れ、排除しようとする人間達がいる。


 だから行ったら後悔する目に合うと・・・。

   

 それはもう分かった。


 無理矢理に納得させて受け入れた。


 落ち込むリリアをエミリアが優しく頭を撫でる。



「ごめんね。」


「お母さんが謝ることじゃないよ。お母さんは全く悪くないでしょ。」



 リリアは無理に笑った。


 その様子を見ていたアルベルトが口を開く。



「お前は発明で人の役に立つ物を作るつもりだったんだろ?魔塔でも人は救える。」



 リリアが顔を上げる。



「え?」


「学園に行けなくても終わりじゃない。」


 

 アルベルトは研究室を見渡した。


 

「ここには世界を変える力がある。」


「世界を・・・変える?」


「病気を治す魔道具。作物を増やす魔法。人を助ける研究。」



 そしてアルベルトは真っ直ぐリリアを見る。



「お前ならできる。」



 アルベルトのその言葉は不思議とリリアの胸に響いた。


 それからだった。


 リリアが研究へ打ち込み始めたのは。


 魔法理論。魔道具開発。新しい術式。



 リリアは驚くほどの才能を発揮した。


 そして。


 その才能は王国中に知られることになる。



 だからこそ。カテリーナは恐れた。


 数か月後。


 王命が下る。


『リリア・ナーシアスを王宮へ引き渡せ』


 魔塔内は騒然となった。


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