58.セドリックルート2〜過去から未来4〜
リリアは即座にセドリックへしがみついた。
ぎゅううううっ。
腰に腕を回す。
背中にぴったりくっつく。
「お、おい!」
セドリックの顔が真っ赤になった。
「そんなにしがみつくなって!」
「無理無理無理!」
「苦しい!」
「怖い!」
「だからって強すぎる!」
リリアは必死だった。
セドリックの背中に顔を埋める。
「落ちる!」
「落ちねぇよ!」
「本当に!?」
「本当だ!」
しばらくして、リリアも少し慣れてきた。
風が気持ちいい。
木々が流れていく。
空が近い。
初めて見る景色だった。
そして。
「着いたぞ。」
目の前に広がっていたのは大きな湖だった。
青く透き通る水。
風で揺れる湖面。
太陽の光が反射して宝石みたいに輝いている。
「わぁ・・・。」
リリアは目を見開いた。
「綺麗!」
落ち込んだ顔が嘘みたいにキラキラ輝いていたた。
「すごい!」「魚いる!」「見て見て!」
湖の周りを忙しなく駆け回る。
セドリックは木陰に座りながらその姿を見ていた。
久しぶりにリリアが笑っている。
そのことが何より嬉しかった。
しばらくして、リリアが隣へ座る。
湖を眺めながらぽつりと言った。
「ねぇセドリック。」
「ん?」
「なんでそんなに優しいの?」
前世で追い詰めたから。
罪滅ぼしだから。
そんなこと言えるはずがない。
だから。
「さあな。」
そう答えた。
リリアは少しだけ首を傾げる。
「ふふ、また答えてくれない。いつか教えてもらうからね。」
「・・・・いつかな。」
2人は笑い合った。
帰り道。
再び馬へ乗る。
来た時と同じセドリックの後ろへ。
今度は少し余裕があった。
風が気持ちいい。
景色も綺麗だ。
しばらく眺めていたリリアは、そっとセドリックの背中へ額を預けた。
「リリア?」
「んー?」
「どうした。」
「別に。」
小さく笑う。
「なんか安心する。」
セドリックの心臓が大きく跳ねた。
前よりもしがみつく力は弱い。
けれど、その小さな温もりが。
なぜか胸を熱くした。
「・・・そうか。」
それだけ答えるのが精一杯だった。
夕日に照らされながら。
二人を乗せた馬はゆっくりと学園へ帰っていく。
背中に感じるリリアの温もりを、セドリックは誰よりも大切に感じていた。
あれから数ヶ月が経った。
ある日の放課後。
人気のない中庭。
リリアはベンチに座りながらぽつりと呟いた。
「ねぇ、セドリック。」
「どうした。」
「私・・・疲れちゃった。」
セドリックは黙って続きを待つ。
「何をしても嫌われるの。」
リリアは俯いた。
「乙女ゲームとか意味わからないし。私は誰も傷つけてないのに。なんでこんな目に遭うのかな・・・。」
声が震えていた。
セドリックは隣に座る。
そして静かに言った。
「なら辞めるか。」
「え?」
「学園を。」
リリアが目を丸くする。
セドリックは真っ直ぐ前を見た。
「俺もこんな学園に未練はない。」
「え?・・・でも辺境伯になるためには・・・それに騎士団にも入りたいって。」
この国では騎士は学園を卒業しないとなれない。
「別に学園を卒業しなくても辺境伯にはなれる。」
セドリックは真剣にリリアを見つめた。
「それに・・・守りたい人を近くで守るつもりだから、騎士にならなくてもいい。」
リリアは顔を真っ赤にしながらも戸惑う。
「セドリック・・・でもいいの?・・・・私なんかのために?」
セドリックは笑った。
「違う。」
セドリックはリリアの両手を掴む。
「俺がリリアといたいからだ。」
リリアは目を見開いた。
「え・・・。」
「だから辺境に来ないか?」
真剣な声だった。
「王都みたいに人はいない。空気も綺麗だ。畑もある。馬もいる。意地悪な貴族もいない。」
リリアは思わず笑った。
「最後ひどくない?」
「事実だ。」
二人は顔を見合わせて笑う。
そしてリリアはセドリックについて行こうと辺境に行くことに決めた。
数日後。
学園に激震が走った。
セドリック・ローグウェル。
リリア・ナーシアス。
二人同時の自主退学。
「はぁ!?」
カテリーナは絶叫した。
「なんでよ!?なんでセドリックまで?」
ルイスも呆然とする。
「逃げた・・・?」
違う。
逃げたのではない。
捨てたのだ。
学園を。
王都を。
そして彼らを。
セドリックは退学届に一言だけ書いた。
『俺は正しいことをする。』
その内容を聞いたカテリーナは怒りを露わにした。
「何が正しいことよ!腹がたつ!」
「馬鹿みたい。」
ルイスは吐き捨てた。
その後。
二人は辺境へ向かった。
広大な草原。
青い空。
王都とは比べ物にならないほど静かな土地。
最初の頃はリリアも戸惑っていた。
だがーー。
「セドリック!見て!」
「どうした。」
「野菜採れた!」
「でかいな。」
「でしょ!」
直ぐに慣れて毎日少しずつ笑顔が増えていった。
花を育て。
料理を覚え。
村人とも仲良くなった。
そして、数年後。
小さな家の庭。
花に囲まれたベンチで二人はお茶を飲んでいた。
リリアは穏やかに笑う。
「ここに来てよかった。」
セドリックも頷いた。
「ああ。」
三人の子供達が二人も周りを笑顔で走り回る。
前世では得られなかった幸せ。
王都の権力も。
名誉も。
そんなものより大切なものがここにあった。
その光景を遠くから見ていた元ヒロインは盛大に舌打ちした。
「チッ!!」
腕を組む。
「お前も幸せになってるじゃん!!」
不満そうに二人を見る。
だが、リリアが本当に幸せそうなので何も言えない。
最後に大きなため息をついた。
「もういいや。」
肩をすくめる。
「お好きにどうぞ!」
そう言い残して、元ヒロインは元いた異世界へと消えていった。。
辺境には、リリアとセドリックの笑い声だけがいつまでも響いていた。




